表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/233

十五話 二つ目の【スキル】

4/30 回復薬の描写を少し修正しました。

「ホーホゥ! 何か知らないけどまたツイてるなバタロー!」


 ギロチンクラブとの激闘を制し、無数の甲殻の欠片が足元に散らばる中。

 テンション高めなズク坊は俺の右肩に戻ると、戦場跡の中心に浮かぶ【スキルボックス】を翼で指した。


「にわかには信じられないな……。最近は出てなかったけど、まさかもう三つめとは……」

「ん、とにかくだバタロー。さっそく確認してみるぞホーホゥ!」


 ズク坊に翼でファバサッ、と頬を撫でられ、その合図で俺は【スキルボックス】のもとへ。

 そうして驚きつつも好奇心に満たされた目で、肝心の内容を見てみると……、



【スキル:過剰燃焼(オーバーヒート)

『習得者の体力の『三分の一を消費』して発動。三分の間、身体能力及び反応速度を飛躍的に上昇させる。効果が切れると同時、体力の消費による疲労と倦怠感が体を襲う』



「……、マジですか」

「ホーホゥ。これはまた何と言うか……」


【スキルボックス】の中身を確認して、俺とズク坊は揃って困惑した。


 まあ、我ながらそれも仕方ないと思う。

 今度は何かな? と思ってワクワクしていたら、箱を開けたらまたも普通ではなかったからだ。


過剰燃焼(オーバーヒート)】。


 誰もが知るメジャーな【スキル】――とはいかないまでも、

 ちょいちょい知る者もいる、そこそこレアな【戦闘系スキル】だ。


【モーモーパワー】ほどではないが、十分に変わり種の一つである。


「ったく、どうなってるんだ? 俺に普通の【スキル】はあげません! ってか」

「変な運命だなバタローは。ホーホゥ。強力でもデメリットやリスクのある【スキル】を引き寄せるか」

「うん、否定できませんな」


 三つの【スキルボックス】に出会い、【絶対嗅覚】を除けば二つともマイナス要素のあるタイプ。

 一応は理系の学生でも、数学は苦手でよく分からないが、とりあえずこれは確率的に見ても相当だろう。


「うぬぬぬぬ……」

「ホーホゥ。バタローよ。これを取らないと次いつ【戦闘系スキル】が出るか分からないぞ?」


 残る一枠に入れるか否か。

 悩む俺にズク坊は顔の横から至極正論な事を言ってくる。


過剰燃焼(オーバーヒート)】……。

 たしかにリスクはあるが、その分ハイリターンでかなり強くはあると思う。


 こういう強化タイプの【スキル】と【モーモーパワー】を組み合わせれば、さらなる火力を叩き出すはずだ。


 俺は一度、宙に浮かぶ【スキルボックス】から、その下にあるギロチンクラブの死体に目を移す。


 武器に頼らず戦かった結果、戦闘時間で見れば今までよりも圧倒的に長くて苦戦した。

 一対一でこれなのだから、ほとんどのモンスターが複数で行動している五層では……先が思いやられるな。


 よし、決めた。

 俺の戦闘スタイル、『牛の流儀』を貫くためにも取ってみよう。


「友葉太郎二十二歳、こいつと心中します!」

「覚悟を決めたか。それでこそ俺の相棒だぞホーホゥ!」


 ズク坊の後押しを受けて、俺は【スキルボックス】へ手を伸ばす。


 瞬間。美しく輝く青い光の六面体の形が崩れ、無数の粒子となって俺の全身に吸収されていく。


 こうして俺は、二つ目の【スキル】を覚えて最後の一枠を埋めたのだった。


 ◆


「……俺、本格的に人間をやめてしまったかもしれない」


【スキル】習得後、早速、試しに使ってみた俺はそう呟いた。


 強い、強すぎる。反則的と言ってもいい。

 ズク坊に苦労して単体のギロチンクラブを探してもらい、安心して一対一を仕掛けてすぐ。


【モーモーパワー】と【過剰燃焼(オーバーヒート)】を重ねて発動してみたところ、とんでもない事態が発生したのだ。


 まさかの一撃粉砕。

 衝撃吸収で打撃に無類の強さを発揮するギロチンクラブの甲殻を、『闘牛ラリアット』一発で粉々に砕いてしまったのだ。


 ギリギリ死んでこそいないものの……すでに瀕死状態。

 自慢の鋏を開閉する力さえなくなっております。


「いやだ何これ。想像より全然強いんですけど?」

「ホーホゥ。なるほどな……。どうやら身体能力を強化するって、『バタロー本来の身体能力』じゃないってわけか」

「ん、というと?」

「ホーホゥ。多分【モーモーパワー】を使った後だと、『六牛力を得た身体能力』を元に強化してるんだろな」


 俺より頭の良い(人としてちょっと複雑……)ズク坊の推理によると、

 俺が体感的に見た【過剰燃焼(オーバーヒート)】の上昇効果が約二倍として、


『身体能力』×二倍+『闘牛六頭』ではなくて、

『闘牛六頭+身体能力』×二倍になっているとの事だった。


 そうなると、前者と後者の叩き出す威力はまるで違うし、さっきの激烈な一撃も納得できる。


 未知なる『十二牛力』超えの力で、衝撃吸収の限界を突き抜けて大ダメージを与えたようだ。


 ……恐るべし【過剰燃焼(オーバーヒート)】。

 そして三分後。俺はまたも恐れるハメになった。


「うおおおぅ!?」


 効果が切れた直後、津波のように襲い来る疲労と倦怠感。

 息は切れるわ全身の筋肉に乳酸は溜まるわで、激しい有酸素運動&無酸素運動を同時にした感覚に陥ってしまう。


「こ、これが払わなきゃいけない代償……。消費していた体力三分の一ってわけか」

「ファイトだぞバタロー。ホーホゥ。あんな『怪物モード』はタダでは使えないからな」


 そんなズク坊のエールを受けつつ。

 中々キツイ反動を受けた俺は、腰のポーチからギルドにもらった回復薬を出して飲む。


 ただし、当然ながらそのままではなく、きちんと牛乳を混ぜてある。


 回復薬は飲みものに分類されるからな。

 念のために牛乳は多め、割合は五:五くらいにしておいた。


 その下準備をしてある小瓶から、青白い液体がノドを通って胃に落ちると……あら不思議。


 間髪入れずに疲労と倦怠感がスーッとどこかに引き、体の調子が戻っていく。


「おお、これもある意味恐ろしいな」


 普通の医薬品ではありえない、さすがはモンスターの血から作られた代物だ。


 俺は感動を覚えた後、忘れないうちに仕留めたギロチンクラブから剥ぎ取りを開始した。


 小さな剥ぎ取り用ナイフを用いて、魔石と左右二つの鋏に、最も価値ある野球ボール大の美しい『魔真珠』に。

 慣れた手つきで剥ぎ取っていき、マジックバッグのリュックへと放り込む。


 その作業が終われば、また次の素材を求めるのが探索者、である。


「さて、『ミルク回復薬』がなくなるまでは蟹尽くしといきますか!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ