十五話 二つ目の【スキル】
4/30 回復薬の描写を少し修正しました。
「ホーホゥ! 何か知らないけどまたツイてるなバタロー!」
ギロチンクラブとの激闘を制し、無数の甲殻の欠片が足元に散らばる中。
テンション高めなズク坊は俺の右肩に戻ると、戦場跡の中心に浮かぶ【スキルボックス】を翼で指した。
「にわかには信じられないな……。最近は出てなかったけど、まさかもう三つめとは……」
「ん、とにかくだバタロー。さっそく確認してみるぞホーホゥ!」
ズク坊に翼でファバサッ、と頬を撫でられ、その合図で俺は【スキルボックス】のもとへ。
そうして驚きつつも好奇心に満たされた目で、肝心の内容を見てみると……、
【スキル:過剰燃焼】
『習得者の体力の『三分の一を消費』して発動。三分の間、身体能力及び反応速度を飛躍的に上昇させる。効果が切れると同時、体力の消費による疲労と倦怠感が体を襲う』
「……、マジですか」
「ホーホゥ。これはまた何と言うか……」
【スキルボックス】の中身を確認して、俺とズク坊は揃って困惑した。
まあ、我ながらそれも仕方ないと思う。
今度は何かな? と思ってワクワクしていたら、箱を開けたらまたも普通ではなかったからだ。
【過剰燃焼】。
誰もが知るメジャーな【スキル】――とはいかないまでも、
ちょいちょい知る者もいる、そこそこレアな【戦闘系スキル】だ。
【モーモーパワー】ほどではないが、十分に変わり種の一つである。
「ったく、どうなってるんだ? 俺に普通の【スキル】はあげません! ってか」
「変な運命だなバタローは。ホーホゥ。強力でもデメリットやリスクのある【スキル】を引き寄せるか」
「うん、否定できませんな」
三つの【スキルボックス】に出会い、【絶対嗅覚】を除けば二つともマイナス要素のあるタイプ。
一応は理系の学生でも、数学は苦手でよく分からないが、とりあえずこれは確率的に見ても相当だろう。
「うぬぬぬぬ……」
「ホーホゥ。バタローよ。これを取らないと次いつ【戦闘系スキル】が出るか分からないぞ?」
残る一枠に入れるか否か。
悩む俺にズク坊は顔の横から至極正論な事を言ってくる。
【過剰燃焼】……。
たしかにリスクはあるが、その分ハイリターンでかなり強くはあると思う。
こういう強化タイプの【スキル】と【モーモーパワー】を組み合わせれば、さらなる火力を叩き出すはずだ。
俺は一度、宙に浮かぶ【スキルボックス】から、その下にあるギロチンクラブの死体に目を移す。
武器に頼らず戦かった結果、戦闘時間で見れば今までよりも圧倒的に長くて苦戦した。
一対一でこれなのだから、ほとんどのモンスターが複数で行動している五層では……先が思いやられるな。
よし、決めた。
俺の戦闘スタイル、『牛の流儀』を貫くためにも取ってみよう。
「友葉太郎二十二歳、こいつと心中します!」
「覚悟を決めたか。それでこそ俺の相棒だぞホーホゥ!」
ズク坊の後押しを受けて、俺は【スキルボックス】へ手を伸ばす。
瞬間。美しく輝く青い光の六面体の形が崩れ、無数の粒子となって俺の全身に吸収されていく。
こうして俺は、二つ目の【スキル】を覚えて最後の一枠を埋めたのだった。
◆
「……俺、本格的に人間をやめてしまったかもしれない」
【スキル】習得後、早速、試しに使ってみた俺はそう呟いた。
強い、強すぎる。反則的と言ってもいい。
ズク坊に苦労して単体のギロチンクラブを探してもらい、安心して一対一を仕掛けてすぐ。
【モーモーパワー】と【過剰燃焼】を重ねて発動してみたところ、とんでもない事態が発生したのだ。
まさかの一撃粉砕。
衝撃吸収で打撃に無類の強さを発揮するギロチンクラブの甲殻を、『闘牛ラリアット』一発で粉々に砕いてしまったのだ。
ギリギリ死んでこそいないものの……すでに瀕死状態。
自慢の鋏を開閉する力さえなくなっております。
「いやだ何これ。想像より全然強いんですけど?」
「ホーホゥ。なるほどな……。どうやら身体能力を強化するって、『バタロー本来の身体能力』じゃないってわけか」
「ん、というと?」
「ホーホゥ。多分【モーモーパワー】を使った後だと、『六牛力を得た身体能力』を元に強化してるんだろな」
俺より頭の良い(人としてちょっと複雑……)ズク坊の推理によると、
俺が体感的に見た【過剰燃焼】の上昇効果が約二倍として、
『身体能力』×二倍+『闘牛六頭』ではなくて、
『闘牛六頭+身体能力』×二倍になっているとの事だった。
そうなると、前者と後者の叩き出す威力はまるで違うし、さっきの激烈な一撃も納得できる。
未知なる『十二牛力』超えの力で、衝撃吸収の限界を突き抜けて大ダメージを与えたようだ。
……恐るべし【過剰燃焼】。
そして三分後。俺はまたも恐れるハメになった。
「うおおおぅ!?」
効果が切れた直後、津波のように襲い来る疲労と倦怠感。
息は切れるわ全身の筋肉に乳酸は溜まるわで、激しい有酸素運動&無酸素運動を同時にした感覚に陥ってしまう。
「こ、これが払わなきゃいけない代償……。消費していた体力三分の一ってわけか」
「ファイトだぞバタロー。ホーホゥ。あんな『怪物モード』はタダでは使えないからな」
そんなズク坊のエールを受けつつ。
中々キツイ反動を受けた俺は、腰のポーチからギルドにもらった回復薬を出して飲む。
ただし、当然ながらそのままではなく、きちんと牛乳を混ぜてある。
回復薬は飲みものに分類されるからな。
念のために牛乳は多め、割合は五:五くらいにしておいた。
その下準備をしてある小瓶から、青白い液体がノドを通って胃に落ちると……あら不思議。
間髪入れずに疲労と倦怠感がスーッとどこかに引き、体の調子が戻っていく。
「おお、これもある意味恐ろしいな」
普通の医薬品ではありえない、さすがはモンスターの血から作られた代物だ。
俺は感動を覚えた後、忘れないうちに仕留めたギロチンクラブから剥ぎ取りを開始した。
小さな剥ぎ取り用ナイフを用いて、魔石と左右二つの鋏に、最も価値ある野球ボール大の美しい『魔真珠』に。
慣れた手つきで剥ぎ取っていき、マジックバッグのリュックへと放り込む。
その作業が終われば、また次の素材を求めるのが探索者、である。
「さて、『ミルク回復薬』がなくなるまでは蟹尽くしといきますか!」