百三十五話 門番の王
連続投稿の最後となります。
少し長めです。ちょっと推敲が甘いかもしれません(汗)。
「出たなキングめ! 今からバタロー達に敗北するがいいホーホゥ!」
最後の部屋に入った。
ここを抜ければついに横穴の外へ、そしてやっと迷宮の外へと出られる。
そんな運命を左右する場所で、ズク坊の叫びを受けたのは――中央に待つ十二番目の『門番』だ。
「うおおう……。『半分だけ』でここまでデカイとは……!」
俺は思わず息を飲む。
これまで十一体、様々な個体を見てきたがコイツは……。
「『ダンジョンキング』。これが間違いなく最強の『門番』です」
「出たー! 『半身浴の』王様っ!」
青芝さんの冷静な声と、花蓮の興奮気味な声が響く。
俺も含めて全員が、目の前に存在するダンジョンキングに目を奪われていた。
サイズは当然、十メートル超え。
ただそれは腰から上、『上半身だけで』の大きさだ。
下半身は地中に埋もれているのか、花蓮が『半身浴』と例えたように、腰から下は完全に隠れていた。
顔は……鬼なのか何なのか? とにかく『憤怒』を連想させる。
猪みたいに下顎が発達し、頭部には名前の由来でもある、王冠のように生えた白濁色の立派な角が。
肌の色はほぼ黒に近い濃紺色。
胸も肩も腕も腹も、ボディビルダーのごとき筋肉(岩)を纏っているのを見ても、人型の『門番』のようだ。
……などと色々と言っているが。
雰囲気も含めて、一言で済ませるなら『ラスボス感がスゴイ』である。
「ヤバイな。何か知らんけど――俺の脳内でモ○ハンのあの曲が流れてきたぞ!」
「え、先輩もですか? 実は僕も流れてますよ……この大物を前にすると!」
つい出てしまった心の声に、すぐるがテンション高く同意してきた。
すぐるよ、お前もか……!
やはり知らず知らずのうちに、俺もテンションの方が高ぶって――。
ゴゴゴォオオオオ――!
「「いッ!?」」
その時、ボス感溢れるダンジョンキングが動いた。
侵入者の俺達を威圧するかのように。
ぶ厚い濃紺色の胸板を張ったと同時、下から上へと謎の強風(オーラ?)が吹き上がった。
「あちらもやる気満々みたいですね。……皆さん、準備はいいですか?」
「はい、もちろんです!」
「やったれホーホゥ!」
「久しぶりに僕も暴れますよ!」
「レッツらゴー!」
『ポニョーン』
『キュルルゥ!』
『クルォオオッ!』
全員の口から力強い声が上がり、俺達はダンジョンキングと向かい合う。
――さあ、やろうか。
皆で無事に地上へと帰るために。
十二番目の最後の部屋にて、ついに最終決戦の幕が上がった。
◆
「食らえ! ――『食い溜めの一撃』!」
最終日最終決戦、その先制攻撃はもちろん俺からだ。
現在、【過剰燃焼】を使って『八十二牛力』に。
だが百牛力を超えるであろう一回限りの切り札で、俺は『高速猛牛タックル』を見舞う。
狙いは地上付近にあるシックスパックな腹の部分。
普通は足を崩すのがセオリーだが……何せ腰から下が埋まっているのだから仕方ない。
――ズドォオオオン!!
直後、相変わらずデタラメな轟音と震動が発生。
見れば腹の一部に亀裂が入り、脚みたいに一発粉砕とはいかないまでも、しっかりとダメージを与える事に成功した。
「――ッと!」
そこへ間髪入れずに柱のような右腕が振ってくる。
肩の筋肉の盛り上がりも腕回りの太さも過去一番。
バチンと掌で叩き潰すように、けれどドゴォオン! と凄まじい衝撃と音を部屋全体に響かせてきた。
……うむ、今の一連のやり合いでほぼ分かったぞ。
さすがに十二体目ともなれば、コイツがどの程度強いかは自分でも判断できる。
まずパワーは圧倒的にナンバーワンだ。
立て続けに放たれた、青芝さんへの左の掌底の攻撃を見ても、
空振った事により起きた暴風だけで、『当たればタダでは済まない』と本能に理解させてくる。
タフさもおそらくはナンバーワンか。
腹にブチ当たって分かったが、手応えやその後の反応からして相当に硬い。
個人的にはゴムのラバーゴーレムの方がキツくはある。
ただアレは特殊で、硬さではなく『柔らかさ』が武器のため、単純な硬度に関してはダンジョンキングが一番だろう。
「で、スピードはモスビーストが上で、技術的にはパールナイトの方が上だけど……!」
もう一つ。
実は戦いが始まってから、他の『門番』とは明らかに違うものが存在していた。
「ぐっ! これが『門番の威圧』ですか……!」
と、後方から絞り出すようなすぐるの声が。
『火ダルマモード』から『火ダルマずる剥け』も使った【火魔術】を発動。
魔力と炎を込めた渾身の『火の鳥』を放つも――術者本人も魔術の方もいつもより少し動きが鈍い。
……ダンジョンキングが何かをしたわけではない。
ただ戦闘体勢に入って『威圧感』を垂れ流す事で、敵である俺達、特に俺と青芝さん以外の動きを鈍くさせていたのだ。
似たようなものを一度、実際に体感した経験があると思ったら……。
『亜竜の威厳』。
稲垣事件の際に柊さんが見せた、『周囲に恐怖やプレッシャーを与えて動きを制限させる』という、単独亜竜撃破者のみが使えるアレだ。
ゴゴォオオ――!
威圧により勢いが弱まった火の鳥が、ダンジョンキングにたどり着いて顔面に直撃。
鳥の形をした炎が一気に爆散すると……そこには小さな亀裂が入っただけの憤怒の顔があった。
「くっ!? レベル6の魔術でこの程度とは……!」
すぐるの口から悔しそうな声が漏れる。
だがまあ、仕方ないか。
上から下へ、重力みたいに押し潰す形の威圧があるのは、飛ばす系の魔術にとっては影響が大きいはずだ。
まだ練習中の『レベル7』の魔術ならあるいは……いや、危険すぎるか。
すぐるの【火魔術】でこの結果なので、ガルポンの『小竜巻』は効いていない。
連射力に優れても威力では負けるため、表面に傷はついても亀裂は入っていなかった。
――やはりこの戦い、俺達前衛組が重要だな。
ギンギィン! と包丁一本の青芝さんは左腕の方を担当している。
ただ少し押され気味だ。圧倒的なパワーを鮮やかに受け流していても、二刀流の時のようにあまり攻撃に迫力が出ていない。
「まさに責任重大。火力担当のアタッカーは俺か!」
叫び、俺は『高速猛牛タックル』を仕掛ける前に――その場で思いきり全身に力を込める。
……何をやっているのか?
その答えはすぐに変化となって訪れた。
『白』から『赤』へ。
俺の持つ能力の中でも地味な方の『闘牛気』。
常に体から出ていて当り前となっている白い湯気が、『真っ赤』に変色していたのだ。
◆
おさらいすると、『闘牛気』とは飛ぶ打撃である。
射程はおよそ二メートル。
間合いを詰めきらずにダメージを与えられる一方、通常の打撃よりも三、四割ほど威力は落ちるというものだ。
「ところが、どっこい!」
しっかりと腰を回した右ストレートで、いつもの激しい打撃音が鳴る。
俺が飛ばした『赤い闘牛気』のパンチが、五メートルほど離れたダンジョンキングの腹に決まっていた。
『闘牛気』の『性能アップ』。それが四十牛力で得た能力の正体だ。
パールナイトを倒した後、こっそり壁を相手に試してみたら。
『食い溜めの一撃』とは打って変って、あっさりとその能力は判明していた。
「射程は『約五メートル』。威力は通常の打撃と『ほぼ同じ』。離れていても普通通りに戦えるのは――地味だけどありがたい!」
アウトボクシングな距離でインファイトできる。
本来はあり得ない安全と攻撃力を両立させた、メリットしかないありがたい能力だ。
「うおおおお!」
だからこそ、今までとは違う攻め方を。
腹の下に力を込めてどっしりと構え、左右のパンチを連打。
葵さんに金沢で鍛えられ、その後もジムで鍛え続けた拳をダンジョンキングの腹へと叩き込む。
ズドドドド! と面白いように離れた位置から当たる赤い湯気のパンチ。
さすがのダンジョンキングも効いているらしく、わずかに腹がくの字に曲がっている。
「うおお!? 色といい戦い方といい……何か今までとはちょい別物だぞホーホゥ!」
「赤い湯気を噴き上げる闘牛……これぞ本当のレッ○ブルだねっ!」
なんて悠長な声が後ろから聞こえるが、これで倒せるなら『門番の王』などとは呼ばれない。
ラッシュをかけても余裕で返ってくるカウンター。
『門番の威圧』も発動しているため、後衛組の魔術ほどではないにしても、俺の飛ぶ打撃にも威力低下の影響はある。
それ以外の他の特殊能力はなし。
パワーとタフさを前面に、隕石みたいな拳が絶え間なく襲ってきていた。
……特に左側、青芝さんが担当する方は激烈だ。
二刀流を封じられて本気を出せないために。
圧倒的なパワーを完全には捌ききれず、じりじりと劣勢になってきている。
「――けど、ここまできて負ける気なんざサラサラないぞラスボスめ!」
何度も何度も打撃を見舞い、たまにこっちも掠りの一撃を貰いながら。
すぐるとガルポンの援護射撃もある中、ひたすら脇腹への一点集中攻撃をかける。
そうして【過剰燃焼】が切れて、フェリポンに回復してもらい、また発動して倍の八十二牛力になる事――三回目。
ゴゴゴォオオオオ! と。
王様の口からうめき声、ではなくて。
本日二度目。戦闘体勢に入った時のように、『門番の威圧』とは違う下から上へと抜ける強風? が巻き起こった。
「さあ、きますよ皆さん! ここからが『本番』です!」
その吹き上がる強風の中、眼鏡を押さえながらリーダーの青芝さんが叫ぶ。
……やっときたか。
事前に青芝さんから説明を受けていたので、誰も突然の事態に慌てる様子はない。
今度はダンジョンキングの方が『濃紺』から『赤』へ。
地面から出ている岩の筋肉で膨れた屈強な上半身。
それが元の濃紺色は残しつつも、赤く染まり始めたのだ。
理由は浮き出た『血管』。
岩製の体なのに何で血管があるんだよ! という疑問はもう全力でブン投げておいて、
とにもかくにも、極太の真っ赤に滾る血管が。
白濁色の王冠の角だけを除き、顔にも浮き出てより『憤怒』のイメージが強烈になっていく。
「ッ……!」
当然、それに伴って存在感、ヤバそうな感じもさらに一段上がっている。
……もはや人が相対するような存在ではない。今まで戦ったどの大型モンスターよりも命の危険を覚えてしまう。
正直、わけの分からない形態変化をされるよりマシだが……。
これでも十分、見る者に恐怖と威圧を与えてきた。
ドーム状の体育館サイズな巨大部屋の中央にて、そんな威容を見届けて。
俺も真っ赤な湯気を噴き上げたまま――改めて気合いを入れ直す。
「さあくるならこい! その『狂化状態』も叩き潰してやるよ!」