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百二十八話 地下も地上も忙しく

前半が主人公、後半が三人称視点です。

「本っ当、大変な目に会ったぞ……」


 巨大部屋を極寒に変えたフロストテイルを倒した。

 その後、モフモフ組を除いて体の芯から冷えた俺達は、我慢できずにすぐるの『火ダルマモード』で温まる。


 幸い倒した事で、すぐに部屋中にあった氷は砕け散って消えたからな。


 残ったままだと気温が下がらず、温まる時間が伸びて酸素が心配だったが……その状況は避けられていた。


 ――で、今は完全に体温は戻っている。

 加えて俺達も青芝さんも危機管理ができていたから、多めの食料を持参していた結果。


 毎回の戦闘後の休憩では、特に節約せずにしっかりエネルギー補給もできているぞ。


「時刻は三時ですか。次が本日四体目となりますね」

「そしてまた青芝さんも初の『未確認の門番(ゲートキーパー)』……と。何かもうヤツら専門の探索者の気分ですよ」

「ホーホゥ。まあ罠も含めて、必ず生きてこの情報を持ち帰らないとだぞ」


 全部で十二体いる中、三体連続で未確認とは……この中盤は未確認ゾーンってか?


 とにもかくにも、十分に休息は取れたのだ。

 リーダーの青芝さんが眼鏡をクイっとして立ち上がったのを見て、俺達も続いて立ち上がる。


 体温も体力も回復した事だしな。

 俺に関してはフロストテイルにトドメを刺して、また二牛力(固定?)上がって三十七牛力になっていた。


「……まあ、次は俺よりも『青芝さん向き』の個体だろうけど」


 ぽつりと言って、一番パワーがある俺が次の扉を開け放つ。


 そして、昨日から数えて七体目。

 もはや見慣れた光景の、部屋の中央に立つ巨体を確認して――。


「うわあ、ズク坊ちゃんの言う通り!? 『ゴム毬』みたいな子だねっ!」


 元気いっぱいな花蓮の声が部屋の中で反響する。


 ――そう、ゴム。

 待ち受けるコイツは巨大でまん丸で、ズク坊から伝えられた名前の通り、黄土色のゴムらしきもので体が構成されていたのだ。


『ラバータンク』。


 今にも破裂しそうな球体の体に、赤子みたいな小さな顔と、短すぎる手足が生えた奇妙奇天烈な姿。

 イメージするなら、太りすぎてベッドの上から動けなくなった、世界一のおデブ人間と言ったとところか。


 七体目の『門番(ゲートキーパー)』は、過去最高にトンデモなく不気味な個体だった。


 ◆


 ――ドムゥウウン!


「ぐぬッ!?」


 いつもの轟音、とは違う音が響く。

過剰燃焼(オーバーヒート)】で七十四牛力になった俺は、案の定、苦戦していた。


 圧倒的な重量からタックルをブチかますも――ゴムで、しかも球体でぶ厚いために。

 ほとんどと言っていいほど、左肩から伝う手応えがなかったのだ。


「友葉君のタックルを耐えるとは……っと!」


 少し離れた俺の隣で、驚異の物理耐久力を見せたラバータンクに驚く青芝さん。


 そこへ襲いかかったのは、短い腕でも足でもない。

 唾やたんでも吐くように、赤子な顔の口から放たれた『弾丸』だった。


 こっちも体と同じ黄土色でゴム製のようだ。

 だが、ドゴォオン! と地面に衝突。着弾場所を『クレーターに変えた』のを見ても、ただのゴムではないらしい。


 まるで金属の塊みたいな凄まじい硬度。

 口から飛び出したバスケットボールサイズのその塊は、時速百五十キロくらいは出ていそうで――。


 ドパァアアン!


「は!?」


 と、その時だった。

 謎の特大破裂音が部屋中に響き、タックルに入ろうとしていた俺はビクッ、として攻撃を中断させられてしまう。


 ――何だ!? そう思ってチラッと破裂音がした方向を見てみると、


 着弾して地面にメリ込んだ『硬化ゴム弾』。

 一切の形が崩れていなかったそれが、跡形もなく消えてなくなっていたのだ。


「まさか……破裂したのか!?」

「そうです先輩! 何か急に膨らんで破裂しました!」


 後方で一部始終を見ていたすぐるより、『硬化ゴム弾』の正確な情報が入った。


 ……なるほど、そういう感じか。

 おそらく標的に当ててダメージを与えて、さらに破裂する事で追加のダメージを与えるという『二段階攻撃』っぽいぞ。


 運よく俺には当たらなかったが、散弾銃みたいに放たれた破片が壁の至るところに突き刺さっている。


「了解した! 気をつける!」


 短く答えて、また一直線に突撃するも――ドムゥウウン!


 本日二度目。これまでの轟音と比べたら、コミカルにも聞こえてしまう衝突音が発生。

 どんなに気合いを入れて低く鋭く当たっても、やはり相性は良くないらしい。


 青芝さんが二本の包丁で順調かつ鮮やかに切り刻んでいる一方、

 俺の七十四頭分の打撃は、ゴム毬みたいな巨体に見事なまでに無効化されていた。


『クルォオオ!』


 もう一人(?)のガルポンの『小竜巻(ミニサイクロン)』は……まあまあ効いている。

 凄まじい風の回転で少し『切断系』でもあるので、完全に打撃な俺よりは相性は悪くないようだ。


「くそっ、今回は全然活躍できそうにないな! ……ならば仕方ないッ!」


 打撃が効かないならどうするか?

 スラポンのところまで下がって、一緒にすぐる達の盾になる手もあるが……。


 いや違うな。攻撃の担い手が青芝さんとガルポンだけになれば、二人の負担が増えすぎるぞ。


 ここで選ぶべき選択肢は一つ。

 今までの俺のやり方、『牛の流儀』を一時的に捨てるべきだろう。


「すいません! ちょっとだけ下がります!」


 青芝さんに伝えて、俺は一度下がって後衛の仲間のもとへ。

 そこで俺の考えを伝えて、花蓮が携帯しているダガ―を「ほいバタロー!」と受け取った。


「ホーホゥ。バタローが武器を持つとは新鮮な気分だぞ」

「だな。剥ぎ取り用ナイフ以外を持つのは……それこそ探索者デビューの頃以来だ!」


 気合いを入れて叫び、後方から前線へと戻る。


 ――さて、準備もできたしやるとしますか。

 剣術は当然のように素人レベル。青芝さんなどとは月とスッポンで、他の探索者と比べても普通に劣るだろう。


 だが、俺には七十四牛力の重さと強さがあるからな。

 上手く体重を乗せられずとも、腕力頼みで少しはゴムを斬れるはずだ。


「いくぞ。今回限定『闘牛重剣士』――いざ参る!」


 いつもと変わらずズシン! と地面を沈ませて。


 思いきり力んで振りかぶり、俺はダガ―片手にラバーゴーレムに突撃していく。


 ◆


「これはこれは! あなた方までいらっしゃるとは……!」


 一方、『郡山の迷宮』担当の探索者ギルド(仮設)にて。

 初老のギルド所長は緊張気味に、白髪混じりの頭を下げて口を開いた。


 ……それもそのはず。

 ギルド所長になったばかりの彼は、地方の小さな&特徴なしの迷宮のギルドで働いていたため、


 今まで地元の無名探索者だけで、有名な探索者とは接点がなかったのだから。


「まー身内に降りかかった問題だからな。動かないわけにはいかねーぜ」

「俺も可愛い弟分達のピンチなんでなァ。早速で悪ィが、今の状況を教えてくれるか?」


 草刈浩司と白根玄。または『剣聖の探索者』と『ハリネズミの探索者』。


 日本が誇る『単独亜竜撃破者』四人のうち、半分の二人が一度に郡山を訪れていた。


「ええ、もちろんです。ささ、こちらに――」


 そのオーラにビビりながらも、ギルド所長は二人(と白根の頭の上の一匹)をギルドの奥へ。


 緊急事態で探索は中止。

 多くの関係者はいる一方、今日はギルドに一人の探索者も入れていないが……彼らは事情により別だ。


 仮設ゆえに殺風景な小さな部屋に入って、他の職員も含めて現在の状況を説明していく。


「一度目の捜索は知っての通り空振りです。今は人数を増やした大規模な態勢で、五層以下も捜索しており――……」


 ギルド所長の説明に、黙ってうなずく草刈と白根。


 さらに他の職員から補足情報などを聞き、彼らは今の状況を改めて確認した。


「なるほどな。んじゃー俺達は……」

「六層から下に決まりだなァ。それだけ探していねェなら、罠にかかって下層に『飛ばされた』可能性もあるだろう」

「チュチュ! 必ず見つけて連れ帰るっチュよ!」


 気合いの入った表情で、二人と一匹はギルド奥の部屋を出る。


 そうして草刈は肩掛け鞄型、白根は手提げ鞄型のマジックバッグから。

『億越え装備』を取り出して、捜索に向かうため関係者しかいないガラン、としたギルド内で装着していると――。


「ここが『郡山の迷宮』の担当ギルドか! ……まったく、こんな遠くまで僕を来させるとは世話の焼けるヤツだ!」


 ギルドの扉がバン! と開かれて、つかつかと若い男一人が入ってきた。


 坊主頭でやたら濃い眉毛とまつ毛が特徴的なその男。

 なぜかすでにフル装備状態で、胸を張って大股で歩いてくる。


「あ、あのすいません。今日からしばらく『郡山の迷宮』は閉鎖中でして……」


 すぐに困惑の顔をした受付嬢の一人が男のもとへ。


 事前に情報を流してあるとはいえ、他にも来てしまった探索者もいたが、

 その全員がギルドの前に立てた看板を見て、踵を返していっていたのだ。


 にもかかわらず、ただ一人。

 威勢よく腕を振って堂々とギルドに入ってきた男は――小杉達郎。


 この場にいる二十名ほどの関係者の中でも、知っている者は数人しかいない。

『農薬王の探索者』の異名を持つ、有望でも変人な若手探索者の一人だった。


「うん? 何だあのゲジ眉ヤローは?」

「あァん? ……あれェ? アイツ何かどこかで……」


 声をかけた受付嬢と同じく、困惑の顔になる草刈と白根。

 装備完了となって、いつでも潜れる状態でその男の登場を見ていたら、


「むむ? あの顔と装備はもしや!」


 美人で若い受付嬢の注意は華麗にスル―。

 小杉はつかつかとギルド内を進み、二人の超一流探索者の方に近づいていく。


 そして臆する事なく、もっと言えば空気も読まずに。


 まるで対等な立場だと周囲の者達に錯覚させるほど――ハキハキとした声で宣言する。


「僕は友葉バタローの『宿命のライバル』、小杉達郎だ! 何としてもヤツらを連れ帰るため、共に捜索にいこうじゃないか!」

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