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百二十七話 冷凍庫

「おいちょっと待っ……勘弁してくれ――ぶわっくしょん!」


 朝イチでダンジョンアスラを倒し、そのまた次のアローウィング(岩の羽をぶっ放すヤベエの)も撃破して。


 昼食休憩を挟んだ午後の部。

 その舞台となる部屋は、予想外にトンデモない事になっていた。


 ……寒い。寒すぎる。

 これで六番目、倒せば折り返しとなる『門番(ゲートキーパー)』がいる部屋は、凍えるような寒さに支配されていたのだ。


「こ、これは……。ホーホゥ。アイスビートルがいる上野ホームの四層よりも寒いぞ……!」


 いつもの鎧の右肩の上、は激戦でヘコんで乗り心地が悪いため左肩の上から。

 ブルルと白い体を震わせて、真っ白い息と共にズク坊が言う。


 たしかにその通りだ。

 上野の四層アレを冷蔵庫とするなら、こっちはもっと寒くて『冷凍庫』だぞ。


「これがフロストテイルですか……。部屋にまで影響を与えるとは厳しいですね」


 同じく真っ白い息を吐きながら青芝さんが言う。


 扉を開けて進んだ俺達の前には今、部屋の中央に立つ『トカゲ風』のフロストテイルと、

 明らかに氷点下を下回っている、『氷の世界』と化した部屋が広がっていた。


 足元に茂る光る草の絨毯は凍りつき、天井からは水滴などないはずなのに立派な氷柱が何本も。

 壁一面も薄くだが凍りつき、全体的に白く染まって無駄に幻想的となっている。


 フロォオオオ……!


 ――っと、また悠長に観察している場合じゃないか。

 風の音なのか声なのか、何とも判別がつかない音を発して。


 二足歩行な岩のトカゲ、尻尾だけ氷でできているフロストテイルが、ギョロっとした目玉で俺達を見下ろしてきた。


「さあやりましょうか。この寒さです、注意しつつも急ぎ倒してしまいましょう」

「はい。今まで以上に激しく同意です!」


 凍死が先か撃破が先か。

 こうして俺達は六体目の『門番(ゲートキーパー)』――フロストテイルとの戦闘を開始した。


 ◆


「――ッ! 分かっちゃいたけどやっぱりキツイな……!」


 戦闘を始めてまだ三十秒と経たず。

 俺は『高速猛牛タックル』を敵の右足に見舞いつつ、早くも泣き言を吐いてしまう。


 ……フロストテイルの力が問題なのではない。

 むしろ動きは早さがない分、これまででもやりやすい相手だ。


 だから問題なのは……心配の種だった寒さである。


 寒い中で動くから喉が早々に痛み始めた。

 また全身鎧だから余計に冷えるため、手足が少しかじかんできたのだ。


 後方のすぐるが『火ダルマモード』で気温を上げてくれるとありがたいが……酸素の問題があるからな。

 火があっても使えないというジレンマに陥っているというわけですよ(泣)!


『クルォオオオッ!』


 そんな中、攻撃陣で元気なのはガルポンだ。


 青芝さんも寒さで少し動きが鈍いのに、さすがはズク坊以上のモフモフ生物か。

 寒さに凍える事もなく、休みなく『小竜巻(ミニサイクロン)』を撃ちまくってくれているぞ。


「本当に助かるな! 一つ前のアローウィングにトドメを刺して、また二つ牛力が上がったと言っても――寒さには関係ないみたいだし!」


 門番地獄な罠にハマってから、六牛力も上がって『三十五牛力』に。

 重く強く。よりフィジカルモンスターの名を欲しいままにしている。


 ちなみに、三牛牛力の新能力は不明のままで三十五牛力に達したが、うんともすんとも違和感も変化もない。


 体の中に感じる、説明しづらい違和感は三十牛力のやつだけ。

 さらに五牛力上がってまた新能力を得た違和感は、これっぽっちも存在していなかった。


「てなわけで倍の『七十牛力』! からの『狂牛ラッシュ』は――厳しいかくそっ!」


 草が茂っているため、凍ってはいても普通の地面よりは滑らない。


 だとしても、高速で何度も動く切り札には足元が悪すぎた。

 一度だけの『高速猛牛タックル』と比べたら格段に滑るリスクがあるのだ。


 推定体重『五十六トン』が凍った草を踏み砕く。

 同時、冷気を切り裂いた俺の体が高速で左肩から衝突する。


 くそっ! 風で余計に寒いな! けど動けているからよしとするか……!


 真っ白い吐息と『闘牛気』がごちゃ混ぜになり、どっちがどっちか分からない状況でまた衝突。

 いつもの反対、左肩からのタックルは思ったよりもすんなりできて、きっちり体重を乗せられている。


「――ッく……!?」


 と、ここで同じ最前線の右隣から。

 六度目の戦闘にして初めて、青芝さんのうめき声らしきものが聞こえた。


 まさか……!?

 俺は慌てて兜の下から右の方を見てみると――。


 二本あった包丁が『一本』に。

 おそらく寒さで手がかじかみ、さらに斬りつけた氷の尻尾が硬かったのだろう。


 手から離れた包丁の一本が空中をくるくると舞い、地面に突き刺さった光景が見えた。


「リーダーのピンチ! ――闘牛野郎いきますッ!」

『クルォオオ!』


 青芝さんが落ちた包丁を拾おうとした瞬間。

 追撃をかけたフロストテイルの尻尾(氷塊)に、俺のタックルとガルポンの『小竜巻(ミニサイクロン)』がぶつかり合う。


 ――ぐッ! やはり岩の体よりも氷の尻尾の方が硬いな!

 質量もなぜか岩の体よりもあるあらしく、ズシンと重い衝撃が伝ってきた。


 ……まあ、だからと言って俺に深刻なダメージが入るかと言ったら……そうでもないぞ。


 一人闘牛集団肉塊(?)で体は肉厚タフだし、鎧も所々ヘコんでいても健在なのだから。


「助かりました友葉君! ガルポン君!」

「いえいえ、お安いご用です!」

『クルォオッ!』


 軽く言葉を交わして、再び自分が担当する箇所に攻撃を加える俺達。


 しつこいようだが……本当に寒いのだ。

 もうとっくに体は芯から冷えている。動いているから多少はマシでも、時間をかけたら普通に凍死するレベルだ。


 加えて、戦いの震動でガシャンガシャンと。

 天井からは邪魔で鋭利な氷柱も落ちてくるし……!


「このくっそ! お前がいると寒いんだよ早く沈めぇえ!」


 真っ白い息と共に気合いの咆哮。

 増えに増えた体重に怒りも乗せて、すでにヒビが入っている右足首にまたタックルをブチかます。


 直後、冷凍庫な戦場に乾いた破砕音が。

 七十牛力に達したパワーとエネルギーは凄まじく――まだ【過剰燃焼(オーバーヒート)】を使って二分半くらいで足を潰すのに成功した。


「次! 顔! いや氷の尻尾が先か……!」


 巨体のバランスが崩れる、と思いきや。

 砕けた右足の代わりとして、極太の氷の尻尾で支えるフロストテイル。


 そのまま器用に大質量の豪腕を振るい、何事もなかったかのように攻撃を繰り出してきた。


 ――が、しかし。

 体勢を保って反撃に転じたのも束の間、青芝さんの包丁が担当する左足を切断。


 たまらずフロストテイルはスローモーションのように頭から転倒し、岩トカゲな顔を俺達に晒してくる。


「――ポン! ……ル』だよっ!」

『――ルゥウ!』


 氷の粉塵と崩落音に支配された中。

 チャンスに【過剰燃焼(オーバーヒート)】が切れて、片膝をついた俺を包む桃色の霧。


 巨体が崩れ落ちたせいで風が吹き抜け、余計に体が冷えた一方、

 体力だけは体の奥底から湧き出るように、瞬く間に元の状態に戻ってきた。


「えぇい寒い! あと【過剰燃焼(オーバーヒート)】ッ!」


 そして再び七十牛力の大台に。


 落ちてきた氷柱が兜に直撃しても、顔の表情筋がどんなに冷え固まっても。

 温まらない体に鞭を入れて、すでに戦いで粉々になっている凍った草の絨毯を踏み潰す。


 ……さあ、さっさと仕留めてしまおう。マジで本気でガチのリアルに寒いからな。


 勝ちは確定でもこれ以上はヤバイので、俺は心に業火をつけるべく、

 ガタガタ震える口を動かし――腹から声を出して叫ぶ。


「お前なんか調子に乗ったクソイケメンだ! 今すぐブチのめしてあの世に送ってやらアァアア!」

次は閑話(自宅警備編)を挟む予定です。

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