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百二十六話 動き出す仲間達

主人公視点ではありません。

ちょっと短めです。

「んあ? ……おいおい、そりゃー一体何の冗談だよ?」


 迷宮業界を動揺させた、青芝優太と『迷宮サークル』の行方不明事件。


 すぐに捜索隊を出したが空振りに終わったその日の昼前、一人の男にも連絡がいっていた。


『いや冗談ではない。私も聞いた時はまさかと思ったが……。五百人以上の探索者が潜って、彼らだけが戻ってきていないのだ』


 電話の相手はギルド総長の柳信一郎だ。

 そして彼に連絡を受けたのは、行方不明の一人、青芝優太の所属する『遊撃の騎士団』団長の草刈浩司である。


「いやそうは言ってもよー。仲良く潜ってキャンプでも張ってんじゃねーのか?」

『そんなわけがあるか。あそこは調査済みの六層まで『空の階層』はないのだ。それに五層より下にいった形跡もなかったのだからな』

「え? そーなのか……?」


『DRT(迷宮救助部隊)』と、残っていて捜索を手伝った探索者達によると。


 彼らの形跡(『ミミズクの探索者』の体重による足跡)は五層までしかなかった。

 そもそも四層で地上に戻る姿が目撃されているため、その可能性は最初から低かったが。


「つまり五層以下で迷った。あるいはられたっつー話か」

『その通りだ。だが、くまなく捜索をして発見できなかったのだから、まだ迷っている可能性は限りなくゼロだろう』


 ……ならばモンスターに殺られた?


 その可能性も限りなくゼロ。

 口にした草刈も聞いていたギルド総長も、そう頭の中で確信している。


「それこそ冗談キチーわな。あのメンツで殺られるとか、しかも『全滅』とか……。全員揃って寝てたのかっつー話になるぜ」

『だな。そんな事はあり得ない。暴れ牛に催眠系の能力などついていない。もし彼らを全滅させられるとしたら――』

「『二体以上の亜竜』か『竜』か。けど、その形跡もねーんだろう?」

『ああ、そちらも間違いない。大体、竜種が出て戦闘になったのなら、時間的に考えても目撃者――いや、他の犠牲者がいて当然のはずだ』


 ……ますます意味が分からない。

 草刈は眉をひそめて困惑するも――取るべき行動はすでに決まっていた。


「しゃーねえ、俺も捜索に加わるぜ。優太はウチの副団長だし、ミミズクのヤツには稲垣の件で結果的に迷惑をかけちまったしな」

『すまない、頼む。一度目の捜索は切り上げたが、またすぐ二度目の、もっと大規模な捜索隊で捜索を行う予定だ』

「了解。あの迷宮に『何か』があるのは間違いねーな。俺の探索者のカンがそー言ってるぜ」


 その後、ギルド総長との電話を終えた草刈は、今いる探索者ギルドから出る。


『姫路の迷宮』。

 日本でツートップのパーティーが一つ、『遊撃の騎士団』のホームの迷宮だ。


 難易度は日本で七番目と、一見、パーティーの力からしたら低いようにも見えるが……。


 出現するモンスターは硬くて素早い相手のみ。

 腕や尻尾が剣や槍になっているのが大多数で、剣士や騎士タイプにとっては厳しい場所だ。


 だからこそ腕を磨け、高い技量と戦闘力を培える。


 ……そんな迷宮で日々鍛えて、単独で『門番(ゲートキーパー)』をも倒す仲間が、牛肉の仕入れなどで死ぬはずがない。


 草刈は愛剣『精竜刀』と纏っていた防具を外してマジックバッグにしまう。

 そして仲間の窮地を救うべく、団員達にはいつ通り探索をするように指示を出して、一人福島を目指す。


「――っと、その前に。あのヤローにもちょっと連絡しておくか」


 ◆


「チュチュ!? ズク坊達がっチュか……!?」


 ところ変わって大阪の堺市。

 つい一ヶ月前に引っ越した立派な一軒家のリビングにて、テレビを見ていたハリネズミのクッキーはソファから跳び上がって驚いた。


「あァ、そうだクッキー。太郎達『迷宮サークル』と青芝のヤツが一緒に消えちまったらしい」


 彼に情報を伝えたのは白根玄。

 クッキーの相棒の『ハリネズミの探索者』で、太郎達の兄貴分な存在だ。


「そんなバカなっチュよ玄! だって皆、岐阜の後にそれぞれ修行をして――さらに強くなったってオイラは知ってるっチュ!」

「……信じ難ェ話だが本当だ。俺もさっき草刈からの電話で知らされたが……。これはギルド総長からの情報だから間違いねェ」

「チュ、チュチュウ……!?」


 白根の頭の上によじ登り、驚愕に目を見開くクッキー。


 大親友のズク坊はじめ、太郎にすぐるに花蓮が行方不明になるとは夢にも思っていなかったからだ。

 また青芝の能力も知っていたので、余計にクッキーは混乱してしまっている。


「ま、まさか竜!? あの包丁剣士と『迷宮サークル』が一緒なら、亜竜でも倒せるはずっチュよ!」

「いや、その線はねェらしい。目撃も被害もなく、形跡すらねェようだしなァ」

「じゃ、じゃあ何でっチュか……!?」


 頭の上のクッキーからの問いに、白根はふむ……と考える。


「何か未知の『罠』にかかった――。俺はそう考えてる。じゃねェとさすがにあの戦力、負けて消えるなんてありえねェよ」


 太郎とは連絡を取っていたので、本人からの報告もあって正確に『迷宮サークル』の戦力を把握している白根。


 さらにクッキー同様、『五番目の男』とも呼ばれる青芝の力も知っている。


 ゲームみたいな転移魔法陣? それとも原始的な落とし穴?

 彼らが揃ってモンスターに負けたとは思えないので、何か全く別のものの影響を受けた可能性が高いだろう。


「な、なるほどっチュ。未知の罠なら予想外もありえる……。玄! だとしたらこうしちゃいられないっチュよ!」

「分かってる。巻き込まれたのは赤の他人じゃねェからな。草刈も動くらしいし、俺達もいこう」

「チュチュ!」


 善は急げ。一人と一匹は休日を返上する。


 ズク坊はクッキーと同じく、誘拐対策でGPSのマイクロチップを体に埋めているが……迷宮内では意味がない。

 たとえ場所は分からなくとも、いや分からないからこそ、白根達は動かずにはいられなかった。


百足むかで竜の鎧』など、必要な装備が入ったマジックバッグ(手提げ鞄型)を持って。


 兄貴分な者達は弟分を救うべく、ホームの『堺の迷宮』ではなく、『郡山の迷宮』に向かっていった。


 ◆


 ――そして、もう一人。

 日本を代表する探索者二人が向かうとほぼ同時、その男もまたくだんの郡山に向けて動いていた。


「まったく情けない……。それでも僕の『宿命のライバル』なのか!」


 心配する、というより憤りながら。

 東京駅の新幹線のホームで、準備万端な彼はフン! と鼻を鳴らした。


 東京在住のばるたんでも種田猿吉でもなく、もちろん『北欧の戦乙女(ヴァルキュリア)』でも『黄昏の魔術団』でも『従魔列車軍(モンスタートレイン)』でもない。


 彼はおそらく唯一、捜索&救助に行っても「お前かよ!」と太郎に言われるだろう人物。


『農薬王の探索者』――小杉達郎である。


 どこから漏れたのか、行方不明事件の情報をたまたま知り、自分の探索予定を全て放り投げて。

 すでに駅弁片手に防具を纏った状態で、新幹線に飛び乗ろうとしていた。


「待っていろ友葉バタロー。お前を倒すのは、暴れ牛でも竜種でもなくこの僕だ。早々にこの競争から脱落してもらっては困るのだよ!」


 ……何はともあれ、行方をくらました太郎達を救うために。


 頼もしい仲間達(一部を除く)は動き出した。

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