百二十三話 勝ち抜き戦
「――ふう。終わったか。……いや、正確に言うと終わってないのか……はあ」
『門番』のノーフェイスを撃破した。
光沢ある岩の残骸だらけとなった部屋の中、俺はホッと一息……に続いてため息をつく。
そりゃそうだろう。
普通、『門番』を倒したら、ボス部屋に進まない限り大きな戦闘はないというのに……。
「ホーホゥ。一体を倒してもやっぱり他はいるぞ……。ぷ○ぷよみたいに全消しとはいかないか」
「あと十一体、ですか。これはかなりハードですが、とにかくまず休みましょう」
青芝さんの号令で、すでに扉前に合流していた俺達は通路内へ。
十二番目の最奥の部屋にある扉は、倒すと同時に開いたらしい。
光る草の絨毯が途切れている通路の先。そこには次の『門番』が待つ、十一番目の部屋への扉がある。
「くっそう。僕も参戦できれば先輩達の負担を減らせるのに……」
「仕方ないよ、すぐポン。ダメージを与えるのも大事だけど、酸素の方が一番だしねー」
待っていたすぐる達にケガはなかった。安心安心。
俺はがっくりしているすぐるの肩をポンと叩き、
続いて援護してくれたガルポンと、回復をしてくれたフェリポンと盾役をこなしたスラポンを撫でる。
「まあ、とにかく青芝さんの言う通り休憩だ。六分以内と戦闘時間は短くても……決して楽じゃないからな」
――結果だけ見れば、このまま連戦も可能だろう。
だが何度も言うが、次の相手も『門番』。
少し疲労(精神的なものも含む)がある時は無理をしない。強敵相手では命取りになるからな。
ちなみに、休憩場所が通路になったのは念のためだ。
光もあって広い部屋で休む方が気分的にいいのは分かるが……。
あんな前代未聞な状況が起きてしまったからな。
衝撃展開がもうないとは限らない。またすぐ復活&扉が閉まり、ノーフェイスとの無駄な二戦目へ! とか断固拒否だぞ。
なので、スラポンとガルポンの大きな二体は『従魔帰還』。
細い通路には入れないから、次の戦闘まで花蓮の中で休んでもらう事に。
……あ、そうそう。
さっきの戦いについて忘れないうちに一つだけ。
肝心の『トドメ』を刺したのは青芝さんだ。
どうも最後の方、気を利かせて攻撃の手を少し緩めてくれたものの、
なかなかトドメの一撃の判断が難しく。加えて、絶命直前までノーフェイスが猛烈な攻撃を繰り出し続けたために。
『闘牛ラリアット』の連打の合間。
青芝さんが牽制気味に放った、包丁での一撃がトドメとなってしまっていた。
まあ、あと十一体もいるから何体かはトドメを刺せるだろう。
ボス以上に経験値も多いし、あっさり三十牛力を超えてくるはずだ。
「んじゃ改めて。今度こそおやつ休憩にしますか」
何とか無事だったマジックバッグ(リュック型)を回収していた俺は、ドバドバとお菓子袋や水筒を取り出していく。
そうして始まった休憩時間では――青芝さんを中心に、もちろん今後についても話し合う。
勝たないと永遠に出られない、十二体が相手の過酷な『勝ち抜き戦』――。
「とはいえ、焦っても良い事はありません。今日中に出ようとは考えないでください。幸い食料もありますし、着実に一体づつ潰していきましょう」
「「「はい!」」」
「了解だぞホーホゥ!」
お菓子や飲みものを補給しながら。
この窮地について話し合った結果、『一日に最大四体まで』という方針に決まった。
つまりは、早くても『三日』。
探索者ギルドには心配をかけるとしても……無事に帰るための選択である。
◆
「では皆さん。……行きましょうか」
俺達は扉を開ける。
戻るために開け放った二つ目の扉の先には――それが待ち受けていた。
『門番』。正確に言えば『モスビースト』。
全長は当り前のように十メートル超えだ。
ダンジョンアスラやノーフェイスと同じく、体は岩でできているが、大量の『苔』が生えて岩には見えない。
むしろ緑色の毛に見える上に、二足ではなく『四足歩行』な姿は、まさしく獣である。
また二つある無色透明な魔石。
それが顔のちょうど目の部分に位置しているので……余計に獣というか生物感があるぞ。
――んじゃ、説明も終わったしやるか。
すぐるは二戦目も酸素の関係でお休み。
スラポンは『ポニョーン』と、壁となるためすぐる達の一メートル前へ。
攻撃に参加するのは俺、青芝さん、ガルポンと一戦目と同じメンバーだ。
「全力で切り刻ませてもらいます!」
「いくぞ苔のバケモノめ!」
『クルォオオオ!』
青芝さんが斬り込み、ガルポンが空中より『小竜巻』×二を放つと同時。
俺は【過剰燃焼】を発動し、ワンテンポ遅れて攻撃に参加する。
――対して、モスビーストはと言うと……。
「うおッ!? そうきたか!」
苔が生えた緑の巨体を揺らして、回避、回避、回避。
どうせ受け止めるんだろデカブツ! と思っていたら、
斬撃も竜巻もタックルも、跳躍やサイドステップで避けられてしまう。
……なるほど。お前はそっち系か。
ズク坊の鼻で事前に種族や【スキル】の有無は分かるが、戦闘スタイルまでは分からないからな。
見た感じではダンジョンアスラはもちろん、ノーフェイスよりもパワーとタフさは低そうだ。
逆にスピードと反応は上。重量級で軽量級に近い動きが可能らしい。
「!」
と、回避から時間差での引っかき攻撃が。
爪(ここだけ苔なし)で地面を払うように、まとめて俺と青芝さんを狙ってきた。
おいおい、それは横着しすぎだろうデカブツ!
モスビーストは一度に二人を倒そうと大振りしたがために。
青芝さんの斬撃を腕にもらい、俺からはジャンプでの回避体勢からの『蹄落とし』(踵落とし)を叩き込まれていた。
そして伝わる踵への衝撃という手応え。
やはりタフはタフでも、『門番』基準では耐久力は低めなようだ。
なので一気に削ってしまおう。
狙いは前脚――は外れそうだから胴体部分だ。
俺は斜め上方向に『高速猛牛タックル』で発射、飛び上がって突き上げる形でブチ当たる。
――ズンズズゥウン!
お馴染みの轟音が部屋中に響き渡る。
激突に成功する回数は……二回に一回くらいか。
敵は回避主体のカウンター狙いのため、どうしても避けられる&被弾も多くなってしまう。
自慢の体重で弾き飛ばされはしないが、多少なりともダメージは喰らっている。
「くそっ、やりづらいな! 耐久力が低めでも削りづらいぞ……!」
もう一人の前衛、青芝さんもノーフェイス戦ほどダメージは与えられていない。
俺より動きが速くて一発ももらっていない――というか、このクラス相手に一発でももらったらヤバイからな。
普通に喰らっている俺が異常なだけ。そりゃ無茶はもちろん、強引にはいけないだろう。
結果、ダメージの蓄積は予定よりも遅い。
間違いなく一度の【過剰燃焼】(三分)では倒せないぞ。
とはいえ、焦らずやるしかないのだ。
俺達はガルポンの顔面への竜巻攻撃で生まれた隙も利用して、苔だらけな岩の体を削っていく。
そうして【過剰燃焼】が切れ、フェリポンに回復してもらい、二度目の【過剰燃焼】で攻め立てていたら――。
「なッ!?」
ここで突然、モスビーストが予想外な動きを取ってきた。
ズッシィン! からのペタリ、と。
巨体で重いはずなのに、昆虫みたいに天井に張りついてしまったのだ。
……さらに、そこで終わりではなかった。
後ろ脚二本と前脚一本で張り付きつつ、残る前脚一本を離して『上から攻撃』してきたのだ。
「おいズルいぞ!? そんなのアリかよ!」
あっちは十メートル超えの巨体、もれなく腕も長いので下の俺達に攻撃は届く。
逆にこっちは……届かなくはないが跳び上がるから隙だらけになる。
青芝さんは身体能力のみで、俺は『牛力調整』で重力に逆らわなければならない。
まさにやりづらさ百%。さっきまでの比ではないぞ。
「うぐぐ、何と面倒な……」
「友葉君! ものは試しです。超重量級の君の重さで落とせないですか?」
「え? 俺の重さで……あ、なるほど! そういう事ですか!」
頭上からの猛烈なハエ叩き攻撃を躱しつつ。
一度、合流してきた青芝さんの言葉に、俺はすぐにハッと気づく。
たしかに試してみる価値はあるか。……というか多分、それしかない。
リーダーの青芝さんの言葉の意味を理解して。
俺はズッシィン! と地面を沈めて跳び上がり――タックルではなく、そのまま苔だらけの脇腹にしがみついた。
――これでどうだ!?
そう思った瞬間、ガクンと高度が下がるモスビーストの巨体。
見れば天井に接地していた三本の手足が離れ、見事に落下が始まっていた。
さすがは五十八頭分! 推定体重『四十六・四トン』だ!
傷つけていた前脚のダメージも相まってか、とても体重を支えきれなかったらしい。
というわけで、俺は地面と押し潰される前に緑の体を蹴って離脱。
ズズゥウン! と着地した後、同じくズズゥウン! と轟音を立てて背中から落ちたモスビーストに――。
「うおおおお!」
ガラ空きの逆さ顔面(?)への集中攻撃。
モスビーストはその反応の良さで素早く起き上がるも、二人と一体の猛攻で一気にダメージを与える事に成功する。
右目の魔石は砕け、左目の魔石は砕けきらずとも深刻なヒビが。
途端、反応も含めた全体的な動きが鈍くなるモスビースト。
それでも『門番』、さらにはディフェンシブなスタイルだからか――驚異の粘りで最期まで戦ってきた。
決着がつき、部屋が岩だらけの苔だらけになった時には……。
悔しいかな、三度目の【過剰燃焼】を使わされてしまっていた。
まあ、とにかく勝ちは勝ちだからな。
ただ俺の口から出たのは……勝利の雄叫びではなく全く別のものだ。
「し、しんどい……! まだあと十体もいるとか悪質なイジメだろこれ!」
やはり相手が強いと文字数が……ギリ4000字以内に収まりました。