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百二十一話 ボーナスエリア

「……スゴイな。こんなのド○クエでしか見た事ないぞ……!」


 四層の途中にあった深い亀裂、改め『横穴』。

 その横穴を一列に進んでいくと、扉の奥には無数のイエロースライムがひしめいていた。


 ボーナスエリア。

 ドーム状の体育館くらいはある巨大な部屋は、探索者として美味しい場所だったのだ。


「これは良い方に……いや、文句なしに最高の方に転がりましたね」


 青芝さんは目の前の集団を見て、さらに奥にある『次の扉』に視線を移す。


 ――そう、次の扉。横穴はここで終わりではなかったのだ。


 今、開けて入ってきた扉と全く同じものが部屋の奥に確認できる。

 しかもその奥にも「『高級プリン』がわんざかいるぞホーホゥ!」と、ズク坊からの報告も入っていた。


「一つでもありがたいのに複数あるとは……青芝さん」

「ええ。もちろん根こそぎ経験値をいただきましょう」


 言って、今度は後ろのすぐると花蓮に振り向く青芝さん。


 同じく俺も二人を見ていたので――考えている事は同じらしい。


「ホーホゥ。すぐると花蓮に食べさせるって感じか」

「その通り。特に花蓮は従魔三体と経験値を分け合うからな。大器晩成な従魔師を成長させるチャンスってわけだ」


 ズク坊の額をひと撫でして、俺は隣の青芝さんの方を向く。


「けどいいんですか? こんなイエロースライムの大軍勢ですが……」

「私は大丈夫です。【スキル】のレベルがレベルですからね。もうここまでくるとイエロースライムでは足りませんから」

「なるほど。たしかにコイツらは経験値が多いですが……。は○れメタルとかメ○ルキングほどじゃないですしね」

「……うん? その二つはよく分かりませんが……とにかく私には必要ないですので、遠慮せずに皆さんで倒しちゃってください」


 ……あ、ミスったな。青芝さんはド○クエを知らなかったか。


 ま、まあとにかくだ!

 いざ経験値の稼ぎ時。早速、帰還させていたスラポンとガルポンの二体を花蓮に『従魔召喚』してもらって――。


 ポニョル、ポニョル……!


 大きな二体が現れた瞬間、ようやく慌てたように動き出すイエロースライム軍団。


 ただ……向かってはこない?

 跳びはねながら我先にと、部屋の隅っこの方へと一斉に動いていた。


「とりあえず半分づつでいいか。……あ、すぐるは気をつけるんだぞ? 練習中の『レベル7』の魔法は禁止。『火弾(ファイアボール)』とかでチマチマとな」

「はい先輩。お任せを!」

「ようし! ガンガンやっちゃうよ皆っ!」

『ポニョーン』

『キュルゥウ!』

『クルォオオ!』


 左からすぐる、スラポン、ガルポンと並び、真ん中のスラポンの後ろに花蓮とフェリポンが陣取る。


 すぐるに関しては、魔力の節約で『火ダルマモード』は切っている。

 それぞれゆっくりと前進を開始。炎やら竜巻やら伸ばしたスライムの触手やらでゴリゴリと削っていく。


 イエロースライムから反撃らしい反撃は……なし。

 弱い上に臆病だからな。加えて逃げ足も速くなく、そもそも逃げ場などないから、どんどん端っこの方にモリモリと集まるだけ。


 ――結果、ただの一方的な狩りの開催だ。


 すぐるとガルポンは魔術の連射で。スラポンは『生命吸収』するまでもなく、普段は使わない打撃で。


 ゴォオ! ブォオオ! バチィイン! と。

 優に二百体はいるだろう大軍団が――見る見るうちに数を減らしていく。


 ――――…………。


 最終的に一分半くらいで殲滅してしまったぞ。

 経験値をごっそり頂いたすぐる達は、そのまま奥に続く扉の前へ。


 後ろの俺達に振り返ったのでうなずいてやると、すぐる達もうなずき返して扉を開け放つ。


 そこからはもう同じ作業の繰り返しだ。

 細長い通路を進み、また扉を開けて、部屋にひしめくイエロースライム軍団を蹂躙する。


 俺とズク坊と青芝さんのやる事と言えば……拓けた道を後から歩くだけだった。


 ◆


「――ここが最後のボーナスエリアみたいだな」


 皆の活躍を後ろで見ながら、しれっと兜を脱いでいた俺は呟く。

 足を踏み入れたドーム状の巨大な部屋の奥には、ついに(やっと?)次への扉が存在していなかった。


 これでボーナスエリアも打ち止めだ。

 最初の部屋から数えて、その数『十二』。……もう一度言おう、何と十二である。


 串団子みたいな形(団子が部屋で串が通路)の横穴は、想像以上の規模だった。


「まさかここまで続くとは思いませんでした……。凄まじいまでのボーナスエリアですね」

「……同感です。これだけの経験値を稼ぐのに、普通ならどれだけかかるか……」


 隣の青芝さんの言葉に、俺は苦笑しながら答えた。


 一番目の部屋から今いる十二番目の部屋まで。

 全てにイエロースライムがぎっしりいて、すぐる達は休み休み進んでいたからな。


 一部屋につき二百体と仮定しても……合計『二千四百体』!?

 蹂躙とはいえ、もはや立派な重労働だぞ。


 まあその分、『高級プリン』とも呼ばれる経験値タンクなモンスターを倒したのだからウハウハではあるが。


 一方で、まずすぐるに関して――【火魔術】は『レベル7』のままだった。


『すぐる! レベルが上がったら火ダルマガッツポーズを取るんだホーホゥ!』と、ズク坊が伝えていたが、

 今も両腕は上がっていないので、どうやら上がるまではいかなかったようだ。


 とはいえ、ベースとなる魔力量は確実に増えたな。

 まさにイエロースライム軍団様様、十分なレベルアップと言えるだろう。


 花蓮の方はと言うと、【従魔秘術】が上がる事はもっとない。


『三体』から『四体』への枠の増加。

これは聞くところによると、余裕で一年以上かかるらしいし。


「まあ、とにもかくにも素晴らしい臨時収入だぞ。俺もキリよく『三十牛力』に上げてもよかったけど……焦る必要もないしな」

「ホーホゥ。現状ではバタローの強さは十分だしな。……倒すのが面倒ってのもあるだろうけど」


 ……ぬおうっ。さすがはズク坊、お見通しじゃないか(汗)。


 ええそうですよ。あの軍団をチマチマやるのが面倒だったのが一番の理由ですよ!


 ともあれ、これで徹底的なすぐる達の強化に成功。

 無関係とも言える俺達は、出入り口近くの壁に背を預けて、仲間達の最後の戦闘を観戦する。


 ――そして、ついに。


 あれほどいたイエロースライムの数がゼロになった事で。

 巨大な部屋の光る草の絨毯の上には、二人と三体の従魔だけとなった。


「皆さんお疲れ様です。いくら弱くても数が多いと大変でしたでしょう?」

「お疲れ。とりあえずおやつ休憩にでもしようか」

「見事な蹂躙だ。よく頑張ったぞホーホゥ!」


 すっからかんな部屋を進み、俺達見学組もすぐる達と合流。

 せっかくならと中央ど真ん中を選び、草の絨毯もあってピクニック気分で腰を下ろす。


「ホーホゥ。バタロー、俺はバナナシェイクと固揚げポテチがいいぞ」

「あいよー。ちょい待ち」


 リュック型のマジックバッグをゴソゴソして。

 ポテチをはじめ適当にお菓子を詰めたビニール袋と、水筒を何本かまとめて取り出そうとして――。


「――は?」


 と、その時だった。


 俺は摩訶不思議なマジックバッグの中で正確に狙ったものを掴み、他の皆はぐでん、と力を抜いてリラックスしていたら。


 突然、腰を下ろした地面が閃光のように、大きく激しく『光った』のだ。


 光る草の絨毯が一際強く輝いた? ――いや違う。

 すぐに目線を落として見てみれば、ただの光ではなく『模様の形』をした、それも『青白い光』で――!?


「ッ、『魔法陣』!? 皆さん早く離れてくださいッ!」


 出会ってから初めて青芝さんの叫び声が響く。


 直後。その声と魔法陣の異様さを確認した俺達は、マジックバッグは置きっぱなしでそれぞれ後方へと飛び退いた。


 そして、全員が大きな魔法陣(直径十メートル?)の外へと出ると同時。

 草の絨毯、否、地面に刻まれた魔法陣から、


 ズズズズズ……! と、『何か』が浮き上がるように姿を現し始める。


「(んなっ……一体どこまで……!?)」


 見る見るうちに『何か』は膨れ上がり、その巨体を俺達の前に晒していく。


 巨体を構築する材質は――『岩』か?

 表面は磨かれたように光沢があるが、恐らくは模様から見て岩に違いない。


 さらに頭、腕、足とあって、形はどう見ても『人型』。

 顔のパーツはなぜか一つもなく、つまりは『顔なし』だ。


 手に持った二本の巨大な岩の斧よりも……よほどそっちの方が恐ろしかった。


 ――明らかにヤバイ雰囲気。当然ながら同じ層にいた暴れ牛やイエロースライムの比ではない。


 いきなり何事だよ! さっさと皆でトンズラするか!?

 そう思ってチラッと出入り口の方を見てみれば……。


「何で!? これじゃまるで……!」


 慌てふためくすぐるの姿と、開けっぱなしだったはずの扉が、いつの間にか『閉じている』のが俺の目に入ってきた。


 おいおい、まさかこれ……!


 目の前のヤバイ岩の巨人と、何度も経験している今の状況を鑑みるに――。


「ここでボス!? ……いやまさか、この見た目と雰囲気は……『門番(ゲートキーパー)』か!?」

おいしい話には裏がある……。

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