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十三話 特定探索者

「……ツイてるな、俺」


 年が明ける前に事態は大きく動いた。


 四層デビューを果たして、次の日も電気ウナギならぬ電気ヘビを狩り、探索者ギルドに寄った時の事。

 再び十万近いお金を手にして喜ぶ俺(とズク坊)に、いつもとは違う展開が待っていたのだ。


『吉村君から推薦が出てね。一応、確認が取れたらぜひウチとしては支援させてもらいたい』。


 とは俺を呼び出したギルドの所長さんの言葉だ。


 久しぶりに、散々落ちまくって嫌な思い出が蘇りそうな面接部屋みたいな場所で。

 所長さんと、俺をここまで連れてきた美人受付嬢こと吉村日菜子さんとの三人で面談が開始された。


『前にも言ったでしょ? 探索歴数日で、しかもソロでボスを倒すなんて……。加えて不人気な四層のボルトサーペントまで複数狩るし、そんな新人探索者は珍しいのよ』


 俺を所長に推薦した日菜子さんがその理由を語る。


 そこから後は所長の口から、今回の事について色々と説明を受けた。


 いわく、将来有望な探索者は人材の宝であり、ギルドとしても国としても積極的に支援したいと。

 これはWIN―WINな関係で、探索者側にとって損はなく、より探索や攻略が捗ると。


『ぜ、ぜひお願いします! 新人だしまだ学生の分際なので助かります!』


 多分、俺はそんな感じの返答をしたと思う。

 願ったり叶ったりな申し出だったので、軽く興奮してよく覚えていない。


 で、それからは実力確認のために移動。探索者の戦いに詳しい職員さん数人を加えて、ギルドが管理する近くの空き地へ。


 もちろん、その際には【スキル】を発動しなければならないからな。

 ズク坊や研究室の仲間以外では初めて【モーモーパワー】を披露したぞ。


 すると、所長達はそれはもう驚いていた。

【スキル】の珍しさ。デメリットの存在。そして、『五牛力』のバカげたパワフルさに。


『牛というか……まるで山ね』、とは日菜子さんの感想だ。

 これに関しては誇らしかった事もあり、俺もよく覚えている。


 ――そんなこんなで、現在に至る。


「いや本当、もう一度言うけどツイてるよな俺」


 俺は公園の茂みの中にある、いつもと同じ見慣れた迷宮の出入口の前に立っている。


 ただ、ギルドからの支援――『特定探索者』となった俺自身はいつもとは違う。


 違い一つ目。

 背中に背負う新たな真っ黒なリュック、いわゆる『マジックバッグ』の存在だ。


 普通のリュックではすぐ満杯になり、大量には素材を持ち帰れないと所長に伝えたところ。

 ギルドに残っていたマジックバッグの中で、最大容量(三百(リットル)、ジャグジー風呂くらい)を誇るリュック型のものを無期限で貸してもらえた。


 違い二つ目。

 自前で用意した腰のポーチにある、小瓶に入った青い液体の『回復薬』だ。


 これはモンスターの血から作られた探索者の必須アイテムで、飲むと軽い傷や疲労を回復させてくれるという。

 計五本支給され、そう高いものではないので、なくなればまた補給してくれるらしいが……。


 俺、今までその必須アイテムを持っていなかったのね……反省。


 まあ、気を取り直して違い三つめ。

 実はこれが、最も見た目では違いがある。


『一般探索者セット』。

 今までの厚い革装備の『新人セット』よりも頑丈な、同じ革でもモンスターの素材を使った防具セットだ。


「ホーホゥ。様になってるぞバタロー。『ビッグブル』を使った防具か」


 周囲に人がいないのを確認してから、右肩に止まっているズク坊が言う。


「おう。牛の力を宿した男が牛の防具を纏う、ってな」

「図らずも牛縛りってやつだなホーホゥ!」


 ヘルムにアーマーにガントレットにグリーヴに、全てが立派でぶ厚い牛の革でできている。


 本当はもっと上等な防具を支給してもらえただろう。

 それでも今のところはこれで十分と思ったし、正直言うと多少遠慮もした。


 高価なマジックバッグを貸してもらっているしな。

 他にも手渡しだった素材の代金を振り込みに変えてもらうとか、細かい部分も色々やってくれたし。


 とにもかくにも、早速、防具の性能を試してみよう!


 ◆


「――いくぞ、『牛頭ぎゅうとうヘッドバット』!」


 一層のパンクリザードは無視して二層に下りた直後。

 階段付近にいたウォリアータートルに対して、俺は新たなヘルムを被った頭でヘッドバットを見舞った。


 グギャ! と短い断末魔の悲鳴を上げて絶命するウォリアータートル。

 この『牛頭ヘッドバット』は、『闘牛ラリアット』はもちろん、普通のパンチや蹴りと比べたら威力は低い。


 しかし、五牛力と強くなった今の俺なら、棍棒を持つ二足なカメさん程度なら一撃で倒せるのだ。


 で、だ。

 一番威力が低い技で、ヘルムの強度を調べてみたところ。


「うん、何の問題もなさそうだ」

「買えば二十万する防具だしな。ホーホゥ。モンスター素材はやっぱり頑丈だぞ」


 潰れて変形していなければ引き千切れてもいない。

 普通の素材ではあり得ない、本来の厚みからは考えられない頑丈さだ。


 新人セットと同じく、二の腕と太もも部分は露出したままだが……、

 胸当てが脇腹まで守れるアーマーになっているから、この頑丈さと合わせると十分に心強い。


「んじゃ、今日もサクサク下りていこう」


 俺は何の心配もなく、最短ルートで二層を抜けて三層へ。

 その際、遭遇したウォリアータートルを倒しても剥ぎ取りはしなかった。


 大容量のマジックバッグには、現段階で最も稼げるボルトサーペントだけ、と決めていたからな。


 なので、三層のスチールベアの魔石も牙も爪も無視。

 身体能力上昇と【スキル】の熟練度のためだけに、できるだけ遭遇を避けながら『闘牛ラリアット』で沈めていく。


 そうして二十分ほど。

 他の探索者が倒したらしく、運よくボス部屋にケルベロスがいなかったので、素通りで目的の四層に到着した。


「ホーホゥ。モンスター素材の防具……電撃にはどうだろうか?」


 定位置(右肩)から離れ、目の前に迫るボルトサーペントを見ながらズク坊が言う。


 たしかに相棒の言う通り。

 衝撃に強いのは分かったが、果たして電撃も軽減できるかどうか。


「ま、軽減率がゼロならゼロで別にいいけどなッ!」


 シャアッ! と威嚇して飛び込んできた、やたら好戦的な個体を俺は回避する。

 約四トンの体で地鳴りを生み出しながら派手に避け、どや顔をしてから一度距離を取り――俺は走り出す。


「喰らえ俺の最大火力! ――『猛牛タックル』!」


 低い姿勢から飛び出して、全体重をかけて右肩から衝突する破滅的なタックル。

 車など軽く廃車にするだろう俺の『切り札』が、振り返って迎撃しようとするボルトサーペントの巨体を捉えた。


 肉を激しく叩く音と電撃が迸る音、さらに勢いのまま壁に激突した衝突音が響く。


 刹那、轟音と土埃に包まれた俺の体に電流が流れてくるも……いつもより痛みは少ないか?


「おおっ。電撃にも効果ありかこの防具!」


 初戦闘の時と同じく【スキル】の熟練度は五牛力と増えておらず、身体能力は上がっていても抵抗力に大差はない。

 どう考えても『一般探索者セット』、このビッグブルの革の防具が役立ったようだ。


 ……が、しかし!?


 衝突した防具の肩部分は壊れておらず、逆に壁は破壊されたが崩落は起きていないけれど。


 俺の体と壁に挟まれ、原形を留めていない頭部から首を見て……猛烈に後悔してしまう。


「や、やりすぎた……! 魔石も電気袋もペチャンコになってもうたッ!」

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