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百十八話 五番目の男

強キャラ投入。

「ははは、たしかに。ミスター料理上手とは言い得て妙ですね」


 多くの探索者に囲まれる中、青芝さんが苦笑する。


 見た目も中身も文系な強者は、そのまま歩み出ると俺達一人づつ(ズク坊とも)と握手した。


「あなた達は『迷宮サークル』さんですね? 友葉君とズク坊君を見てすぐに気づきましたよ」

「あ、どうも光栄です! まさか青芝さんに覚えてもらっているとは……!」

「ホーホゥ。岐阜で会った時以来だな」

「ですね。あの時はほとんど喋れませんでしたが……。いやはや、こうしてお会いできるとは嬉しい限りです」


 言って、メガネをクイっと直してにっこりと笑う青芝さん。


 いや会えて嬉しいのは俺達の方ですよ!

 そんなツッコミが脳内にすぐ出てくるくらい、この人は凄腕の探索者だぞ。


――『五番目の男』。

 これは迷宮業界において、青芝さんの事をさした言葉だ。


 ついた異名の『ぶった切りの探索者』とは別。

 青芝優太という探索者の実力を褒め称えたものである。


 最強の探索者は誰か?

 この疑問に答える時、出てくる答えは『単独亜竜撃破者』の四人の名前のどれかだ。


 ……ただ明確な答えは出ていない。

 四人の中で誰が最強の座にいるのか、人によって全くバラバラな意見だった。


 では、逆に。

 序列不明な上位四人に次ぐ、五番目に強い探索者は誰か?


 その答えが目の前にいる、文系男子な青芝優太さんだ。


『DRT』の他の隊長でもなく、『黄昏の魔術団』の副団長でもなく、女神な緑子さんでもなく。

『遊撃の騎士団』の副団長こそが五番目だと、そう推す声がほとんどである。


 理由は単純。【スキル】の一つが怪物四人を除けば、唯一『レベル9』に達しているから。


 亜竜はまだ討伐していない。

 だが、例外なく強敵の『門番(ゲートキーパー)』を一人で倒した経験があるらしい。


 正直、状況とか相性で上位ランカーの対戦結果は変わるとは思う。

 それでも俺も納得、『五番目の男』というのに異論はないぞ。


「ああ、そうだ友葉君達。私は牛肉の調達係として一人で来たのだけれど……。もし良かったら一緒に潜りませんか?」

「え? 青芝さんと一緒にですか!?」


 と、向こうから声をかけてきたと思ったら。


 ここで凄腕大先輩探索者から、まさかの『共同探索』の申し出が。


「ぜひ友葉君達の力を見てみたいと思いましてね。――ほら、あの稲垣も止めてくれたでしょう? アレは私達の団長が殺さず捕まえた結果、あなた達に迷惑をかける事になってしまいました……」

「あ、いえいえ! あの件は草刈さんも青芝さんも悪くないですよ。ただアイツが想像以上にヤバかったって話ですから!」

「……申し訳ないです友葉君。そう言っていただけると助かります。実はずっと私達も気にしていてね……」


 言葉を発する度に青芝さんの表情が曇っていく。


 全く一ミリもそんな顔をする必要はないのだが――と、とにかくだ!


「この話はここまでって事で。共同探索の方はもちろんオーケーです。一緒に潜りましょう!」


 俺が白い歯を見せてサムズアップ! すると、青芝さんがホッとしたような顔をする。


「本当ですか? いやあ、それは嬉しいです!」

「ホーホゥ。こりゃ頼もしすぎる戦力だぞ。そう思うだろ? すぐるに花蓮!」

「もちろんですズク坊先輩。青芝さんがいればとても心強いですよ」

「その通りっ! 何せあのミスター料理上手さんだしねー!」


 うん、皆も断るわけないよな。


 戦力が多いに越した事はないし、調査済みとはいえ新迷宮&初探索では特に警戒が必要だ。


「おお! 『ぶった切り』と『迷宮サークル』の共闘か!」

「上位の探索者のコラボレーション……終わったな牛肉モンスターは」

「まさに過剰戦力……。少しウチにも分けてほしいなあ……『火ダルマ』とか」


 出会って二分で共同探索決定。


 俺と青芝さんが改めて握手をすると、周囲の探索者達が騒がしくなったとさ。


 ◆


「友葉君、ズク坊君、木本君に飯田さん。忘れものはないですか?」

「はい、大丈夫です」

「ちゃんとスカーフも巻いてるぞホーホゥ!」

「問題なしです!」

「遠足よろしく準備万端ですよっ!」

「よし、では行きましょうか。――『郡山の迷宮』へ」


 仮設の探索者ギルドを出て、俺達はすぐ近くにある『郡山の迷宮』へと向かった。


 位置的には、郡山駅から猪苗代湖方面に移動した場所にある新迷宮だ。


 山の中に無数にある、何の変哲もない普通の木。

 そこに人一人がギリギリ通れる細長い洞があり、迷宮への出入り口となっている。


 ……だけなら、もっと早くに見つかったかもしれないが……。

 出入り口の洞を隠すように、昔の甲○園みたいに大量の蔦が伸びていた。


 本当にどうやって見つけたんだこれ?

 でもとりあえず、おかげで食用可能モンスターが発見されたのだから……グッジョブだぞ見つけた人!


「では入りましょうか。先頭は私がしっかり務めさせてもらいます」


 今回の共同探索は、真面目で年長者で一番の経験者でもある青芝さんがリーダーだ。


 当然っちゃ当然である。

 俺達からしてみれば、共同探索を申し込まれた側だが、『してもらっている』感覚だからな。


 ――ちなみに、あれだけ多くいた探索者(五百名以上)を含めても、青芝さんが先頭だ。


 某ベテラントリオの鉄板ネタみたいに、『どうぞどうぞ!』と譲られて。

 目標階層までの道のりを切り開くべく、暗黙の了解でモンスターの掃除を任されていた。


「まあ戦力的に考えたら当り前か。それくらいやってくれって話だよな」


 独り言を呟きつつ、青芝さん、俺&ズク坊、すぐる、花蓮の順に迷宮内へ。


 最後尾の花蓮が『従魔召喚』で三体を出したのを確認し、すぐるも『火ダルマモード』になってから、いざ階段を下りていけば――。


 開示されている情報通りの、牛肉が住まう迷宮の景色が広がっていた。


「「「おおおー」」」

「ホーホゥ」


 俺達『迷宮サークル』一同の感嘆の声が響く。

 一見すればオーソドックスな洞窟型だが、声が漏れた原因は淡い光が出ている場所だ。


 足元に生えている十数センチ程度の草。

 それが下から上へとライトアップするように光り、どこか幻想的な景色となっている。


 今まで光るとしたら壁や天井だったからな。草が発光しているタイプは珍しくて初だぞ。


「緑の要素もある洞窟型。食用可能モンスターがいる迷宮と考えれば、ある意味自然ではありますかね」


 一方、青芝さんは薄い反応で冷静沈着だ。

 俺達なんかより経験豊富だから、この手の迷宮も見た事があるのだろう。


「あ、早速お出ましだぞホーホゥ!」というズク坊の声とほぼ同時。

 意識はすでに敵の方へ、腰に提げた武器に手をかけていた。


 その青芝さんから視界を移せば――光る草の絨毯の奥からモンスターが迫ってきている。


「さて。せっかく友葉君達と一緒に潜ってもらいましたし、まずは私の戦いからお見せしましょう」

「お、お願いします!」


 顔色一つ変えずに落ちついた声で、先頭の青芝さんは臨戦体勢に入った。


 纏う防具は薄い金属製の胸当てと籠手と脚甲だけ。

 まるでカナブンの外殻ように鮮やかな七色に輝くそれは、覆う部分が少なくても、俺の全身鎧よりも高くて上等なものだと分かる。


 ……だが正直、そっちはどうでもいい。


 おそらく『億越え装備』である防具よりも、注目すべきは鞘から抜いた『二本の武器』だ。


「「「おおおー」」」

「ホーホゥ」


 再び俺達『迷宮サークル』の口から揃って声が漏れた。


『遊撃の騎士団』副団長、青芝優太さんが抜いたのは剣にあらず。

 左右の手に握られたその武器は、刃物は刃物でも戦場とはかけ離れた――『包丁』である。


 しかも二本。しかも漫画やアニメに出てくるクソデカイ人斬り包丁みたいなものでもない。


 見るとするなら料理店、それも中華限定だろう。

 青芝さんが手に持ち構えたのは、平べったい幅広の刃で長方形な『中華包丁』だった。


 もちろん、ただの鉄製ではない。

 ここへ来る道中で聞いたところ、『アダマンタイト製』(純百%)との事だ。


 ……とはいえ、である。

 その異質で滑稽で常識外れな、けれど強者特有の痺れるような雰囲気を見て。


 我らが従魔師の花蓮が、早くも三度目となる的を射た(?)あの発言をする。


「出たっミスター料理上手さん! いざモンスタークッキングの時間だねっ!」

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