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百十六話 息子、ついに空気となる

ほのぼの&短めです。

「ふぁあああ。帰ってきましたなー」


 桜が散って肌寒さもなくなった五月。世間はゴールデンウィークに突入した。


 俺達『迷宮サークル』も、ガルポンの特訓を中心に行っていた探索をしばし休止。

 俺はズク坊とばるたんを連れて、すぐるの運転(新車のレク○ス)で地元の群馬に帰ってきていた。


「では、先輩にズク坊先輩にばるたん。明後日また迎えに来ますので」


 そうして、実家の前ですぐるに降ろしてもらった後。

 すぐると別れた俺達は、正月以来となる田舎特有のデカイ玄関の扉をくぐって――。


「ただいまー」


 東京土産を渡し、二階の自室に上がって部屋着に着替えて……即行で居間にゴロンと寝転がりながら。


 帰省して五分。「母さん何か飲みものくれー」と、俺はちょっとした王様気分で催促する。


「はいはい。今持っていくわよ。……まったく、帰ってくるなりゴロゴロして……ねえズク坊ちゃん?」

「ホーホゥ。バタローの中のナマケモノが顔を出したぞバタロー母ちゃん」


 ……ぐぬぬ。おのれズク坊め……。

 帰って来て早々、どっちの味方につけば上手くいくか、立ち回りをよく分かっているじゃないかね!


 まあ、ウチはかかあ天下だからな。

 母さんの機嫌を損ねたら面倒――って、そういやばるたんの方はどうだろうか。


 ばるたんのみ実家に来るのは今回が初めてだ。

 会った時は父さんも母さんも、俺の『頭の上で喋るザリガニ』という存在に驚きはしたものの、事前に伝えておいたからすぐに喜んでいたが……。


「おっ、やるなばるたん! 良い手を打つじゃないか」

「ヘッ、だろうバタローの親父。自慢じゃねえが、最近はメキメキと腕を上げてるぞ!」


 寝転がったまま、机の下から反対側を見てみると。

 そこにはパチパチッと、『将棋』を打つ父さんとばるたんの姿が。


 座布団を何枚も重ねて厚くした上に乗り、二人で向かい合って楽しんでいた。


 そういえばばるたん、家にいる時は新聞やテレビでせっせと知識を溜める一方、

 ボードゲームを一人で飽きもせず楽しんでいたからな。


 オセロから始まり、教育テレビで興味を持った囲碁に将棋に。

 そんな複数に手を出して大丈夫か? と思いきや、ルールもコマの動きも完璧に把握。


 今や定石まで覚えたらしく、家でブツブツ言いながら鋏で器用に挟んで打っているぞ。


 あ、もちろん俺もルールは分かるから時々打ってあげているぞ?

 ちなみに戦績の方はオセロも囲碁も将棋も……いや、やっぱりやめておこう。


 俺の人間としてのプライドに関わるからな。

 とにかく言える事は……一つだけ。


 最初の頃は俺の方が勝っていたんだよ(震え声)! である。


「……ふむふむ。ばるたんも可愛がってもらえて良かった良かった……ふあああ」


 カーペットの上でゴロ寝したままミルクティーを飲みつつ、優雅に昼寝(というか昼前寝?)を決め込む俺。


 これぞ実家に帰省した息子のオーソドックススタイル。

 特にやる事もないので、俺は昼メシが出てくるまで穏やかな眠りについた――。


 ◆


「ほらズク坊ちゃんにばるたんちゃん、これがパンダよ。モフモフしてて可愛いけど……やっぱり喋れる子ほど可愛いものはないわね~」

「ホーホゥ。コミュニケーションを取れるのは大事だからな」

「ふむ。ズク坊はモフモフと喋りの二刀流――最強のマスコットてわけだ」

「でもばるたんはばるたんでカッコイイぞ? 赤い外殻はまさに甲冑、真田幸村の赤備えって感じだしねえ。はっはっは!」


 皆で昼食の牛肉チャーハンを食べた後の居間にて。

 父さんと母さんとズク坊とばるたんがソファに座り、テレビを見ながら楽しそうに談笑している。


 あ、あのー……もしもしご両親?

 ズク坊とばるたんを真ん中に挟んで、額や背中を撫でてワイワイするのは構わないが……。


 もう一人、一番肝心な存在を忘れていやしませんかね??


 昼食の後に少し自室の整理をして、ちょっと遅れて合流したらこの状況――。

 テレビ前のソファはすでに定員一杯、座るスペースは残っていない。


 もう十分寝たし腹も満たされたし……俺も喋ってもいいんだぞ?

 東京に出て危険な職業についた一人息子。それが無事に帰ってきたのだから、積もる話もあるだろうに……。


 なぜか俺は少し離れた、テレビから見て左四十五度の位置にて。

 カーペットの上で一人あぐらをかき、ぽつんといるのが現状だ。


「ふふふふ」

「ホーホゥー」

「おおおー」

「はっはっは!」

「…………、」


 パンダがスッ転んでコロコロしているのを見て、俺を除いた皆が笑う。


 ……ま、まあ今は仕方ないだろう。……うむ、仕方ない。

 久しぶりのズク坊と初めてのばるたん。この一羽と一匹との楽しい時間を両親に過ごさせるのも息子の仕事だ。……多分。


 だから俺は、離れた場所で持ってきたポテチを一人でパリパリパリパリ――……。

 ゆっくり噛んで食べ終り、ミルクティーをコップに注いでそれもチビチビ飲みきって――まだ蚊帳の外!?


「ば、バカな……」


 俺の目が正常なら、むしろさっきよりヒートアップして見えるぞ。


 いい歳こいて、お喋りと可愛がりに夢中も夢中。

 ペットどころか、何か孫とのイチャイチャタイムみたいになっていやがる……。


 ……俺、たしかこの家の息子だよな? 主要な登場人物の一人だよな!?


 久しぶりに帰ってきたのに、まさかここまで空気で放置されるとは……。


 断言しよう。前よりコイツら酷くなってやがるぞ。

 ばるたんが加わり可愛がる対象が増えて……恐れていた事態になっているではないかッ!


 別に俺はマザコンでもファザコンでも断じてない。

 断じてないが、こうも見事なまでに放置されると……さすがにヘコむぞコラァ(怒)!


「あー、ちょっとまたノド乾いたかなー。日頃の疲れが溜まってんのかなー?」


 さり気なく言って、チラッと賑やかなソファの方を見てみれば。


 年相応な顔と体型のおじさんとおばさん、そしてミミズクとザリガニ達は――華麗にスル―。

 結果的に独り言となり、余計なむなしさブーメランが俺の胸に突き刺さった。


 ――お、おのれ貴様ら……!


 ズク坊とばるたんはまだ百歩譲っていいとして、だ。


 車の買い替えもゴルフバッグも家のリフォームも、果ては豪華地中海クルーズ旅行も。

 仕送りで良い思いができているのは……全部孝行息子のあたしのおかげですよ!?


「ぐぬぬぬ……!」


 ……フン、そうですかいいですよ。もう息子は不貞腐れますよ。

 どうせ誰も気にしていないし、過剰股開きのスーパー大の字になってスペース拡大してやらあ!


 というわけで、強い覚悟を決めて一人ムスッと寝転がっていたら――。


 飽きもせずにズク坊とばるたんを撫でながら。

 ついに母さんと父さんが――自慢(?)の息子に向けて口を開く。


「あ、太郎。今晩はすき焼きにするから、手が空いてるなら好きな牛肉を買ってきてちょうだいな」

「そういえばビールもなかったな母さん。――よし、ついで探索者の健脚で買ってきてくれ太郎!」

次回から○○編みたいな感じに突入します。

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