百十五話 それいけガルーダ
ちょっと短めです。
「いやっほおーいっ!」
洞窟型の二十四層にて、花蓮の歓喜の声が反響する。
理由はもちろんシンクロの成功だ。
十八回連続で大きな炸裂音(失敗の証)を聞きまくった末に、
やっと十九回目にして眩いばかりの閃光が生まれ、ガルーダが新たな従魔となってくれた。
「長かったな……。ちょっと諦めかけてたぞ」
「ホーホゥ。まさかここまで手こずらされるとは……」
「ガルーダは気性が荒いですからね。天然不思議キャラの花蓮とは……なかなか性格が合わなかったようです」
嬉しさよりも安堵の気持ちが大きく、俺達男衆は揃ってフーッと息を吐く。
当の本人である花蓮も同じく、いやそれ以上に安堵したらしい。
歓喜の声を上げた後は、すぐにへなへな……と地面に座り込み、そのまま大の字に転がってしまった。
『クルォオオ』
そこへ二メートル超えの巨大なワシ、ガルーダが地面に降りてくる。
ズク坊の静かな隠密飛行とは正反対。バッサバッサ! と翼で空気を叩いて、
『おい大丈夫か?』的な感じで、花蓮の頬をツンツンと優しく突き始めた。
「……へへへ、私は大丈夫だよ。従魔になったからって事もあるけど、やっぱりこの子は優しいねえ」
満面の笑みで起き上がり、ガルーダの体をわしわしもふもふと触る花蓮。
見ているだけでもその白と茶色の毛は……うむ、肌触りが良さそうな感じだな。
なので、それに釣られるように俺、すぐる、ズク坊も参加。
翼の音と同じくズク坊の羽毛とはまた違い、温かくてよりモフモフしているぞ。
――とまあ、可愛がるのはこれくらいにしておいて、と。
花蓮の従魔、そして『迷宮サークル』の新メンバーとなったガルーダに対して。
初対面の人間にするのと同じように、俺達はしっかり自己紹介をする。
「私があなたの主人の飯田花蓮だよ。んでこっちの子がスラポンで、こっちの子がフェリポン。従魔同士仲良くやっていこうねっ!」
『ポニョーン』
『キュルルゥ!』
「俺はこのパーティーのリーダーの友葉太郎だ。ちょっと足音と震動がうるさいけど、まあそのうち慣れるから大丈夫さ」
「俺はズク坊だ。ホーホゥ。体はお前の方が大きいけど、先輩は俺だから上下関係はしっかりとだぞ?」
「僕は木本すぐる、魔術師だよ。基本は燃えているから注意してね」
一通り自己紹介を終えると……あ、そうだ。最後に俺からあと一つだけ足しておく。
ここにはいないし、多分会う機会はないだろうが……。
一応、ザリガニで自宅警備員のばるたんの事も伝えておいた。
ガルーダは従魔となって言葉を理解できるからな。
翼を広げて『クルォオオ!』と鳴いたその顔は――何だか笑ったようにも見えた。
さて、とりあえずガルーダとの出会い編はこんなものか。
次にやるのは当然、この新たな三体目の従魔を組み込んだ戦闘だ。
敵としては嫌と言うほど、十九回も戦ったからな。
『小竜巻』の威力とか軌道とか、大体の能力面は理解している。
果たしてその力が『迷宮サークル』でどんな感じになるか……即席ながら試してみよう。
◆
……の前にもう一つだけ。
せっかく仲間になったのに、ガルーダと呼ぶのは味気ない。
そこで主人である花蓮が、すぐに名前をつけたようで――。
「さあいくよ! 『ガルポン』!」
『クルォオオ!』
……うん、だろうな。そうなると皆分かっていたぞ。
今はようやく外したが、つい最近までリュック型のマジックバッグにつけていた、ぬいぐるみの『くまポン様』。
幸運をもたらすというそれから始まり、スラポン、フェリポンときて、すぐるもすぐポンと呼ばれているからな。
絶対に譲らないポン縛り。……まあ、本人が気に入っているから別に文句はないが。
そんなガルーダ改めガルポンは、予定通り『中衛』だ。
前衛組と後衛組の間に陣取らせて(すぐるの射線はあけて)、高さ五メートルはある天井付近を飛ばせている。
少し離れた後方にはズク坊がいて、体格や位置的に『空中の壁』として作用する感じだ。
「んじゃズク坊、まずは二体いるところで頼む」
「ホーホゥ。了解したぞ」
新戦力が加入した俺達『迷宮サークル』は、ズク坊の案内で迷宮を進む。
苦戦した影響ですでに二十四層の奥まで来ていたからか……。
ものの一分でバッサバッサと、空気を叩く複数の翼の音が聞こえてきた。
さすがはズク坊、遭遇したのは注文通りにガルーダ二体。
複数いたところで脅威でもないから、多少ちぐはぐになっても全員参戦の連携で倒したいところだ。
「ガルポン、竜巻アタックで牽制だよっ!」
『クルォオオー!』
花蓮の指示に、ガルポンが翼を振るって『小竜巻』を放つ。
しかも左右両方の翼で計二発。
器用に狙いを分けて、交差するように進んだ竜巻が二体のガルーダへと襲いかかる。
――さらに、ゴォオオゥ! と。
竜巻を追うように放たれた炎――無詠唱からのすぐるの『火弾』が二つ飛んでいった。
『『クルォオオッ!』』
対して、ガルーダは一体が『小竜巻』で迎撃を、もう一体はひらりと巨体に似合わぬ回避を敢行。
どちらもギリギリではあるものの、ダメージを負わずに風&炎の初手を対処されてしまう。
「でもまあ、チェックメイトってやつだな。俺、チェスのルールは知らんけど!」
魔術が消え去った後の、独特な一瞬の静寂。
もうその時すでに、前衛組の俺とスラポンは距離を詰めていた。
迎撃した方のガルーダはスラポンが担当。
地上からスライムな体を伸ばして、半人半鳥(?)な脚をキャッチ。
翼で荒々しく羽ばたかれて抵抗されるも、そのまま引きずり下ろして『生命吸収』に入った。
もう一方の回避した個体は俺が担当だ。
対飛行系に有効な『闘牛気』を用いた飛ぶ打撃(射程二メートル)。
狙いが上方向だから打ちづらいものの、強引な連打を見舞って叩き落とす。
――以上、ガルポンとの初めての連携……って言うほどでもないか?
ともあれ、本格的に呼吸や戦術を合わせていくのはこれからだ。
単純な前衛や後衛より立ち回りが複雑だから、育てるのは大変だろうが……。
日本一の従魔師に鍛えられた花蓮ならば、きっとやりきってくれるだろう。
「ではでは。せっかくここまで潜ったし、最下層の二十五層まで行って攻略しちゃうか」
迷宮の難易度から見ても、まだまだ余裕はあるからな。
その後はガルポンとの連携強化も兼ねて、最短ルートからは少しだけ外れる形で進軍。
『四日市の迷宮』の最下層奥まで、苦戦のくの字もなくタッチダウン! ――パーティーとしては『伊豆の迷宮』に次いで二つ目の攻略となった。
ほんの少しだけとはいえ、これでガルポンも野生の時から成長して、『迷宮サークル』の戦力はさらに充実。
楽しそうにサークル感が増した皆を見て、リーダーとして頼もしく思っていると――。
ファバサァ、と右肩に戻ってきたズク坊が、一人一人の顔を見てうなずきながら。
最後にバッサバッサ! と滞空しているガルポンを見て、同じく翼を広げて満足げに言う。
「これぞ『スーパー迷宮サークル』だ。けど、まだ遥かなる頂にはたどり着いてない――目指せ『ウルトラ迷宮サークル』だぞホーホゥ!」