表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
123/233

百十四話 二羽の鳥

少し遅いですが明けましておめでとうございます。

今回はちょっと長めです。

「いよーし! ついにきたぞ新たな出会いの場所へ!」


 新幹線と在来線を乗り継ぎ、俺達は西に足を伸ばした。

 神奈川、静岡、愛知と越えて――やってきたのは三重県の『四日市』である。


 ここにある迷宮が今回の目的地。

 選びに選んだ三体目の従魔を加えるべく、もちろんパーティーメンバー勢揃いだ。


「電車ってのは初めて乗ったぞ。……ありゃいいもんだな。旅をしてるって感じがたまらねえぞ」


 とは頭の上のばるたんの声だ。


 金沢、盛岡、宇和島に散らばった時はお留守番だったからな。

 自宅警備員とはいえ、今回はせっかくの『従魔ゲットだぜ! の旅』だからと、ばるたんも同行させていた。


 ……まあ、迷宮は危険(あと本人が嫌い)だから、すぐに担当の探索者ギルドに預けるのだが。


「んじゃ、まずはそのギルドにいきますかい!」

「はい、あとマップも貰いましょう。調べたら攻略済みの迷宮なので、最下層まで完璧なものがあるようです!」

「なら最下層まで潜っちゃう? 目当ての従魔ちゃんは下層にいるしねー♪」


 新たな仲間を得る旅だからだろうな。

 すぐるも花蓮も、あと俺も、いつもとは比較にならないノリノリ気分だった。


 ただ、こういう時一番ハイテンションなズク坊のみ……かなり眠そうである。


 なぜか? 実は昨日の夜、新たな仲間が加わるのが楽しみすぎて、全然眠れなかったのだ。


「ダメだ。目が冴えちゃったぞホーホゥ」と、ベッドから起きてリビングへ。

 いつもは録画したのを見る深夜アニメを、一人オンタイムで見てしまっていた。


 移動の際に入る鳥かごは嫌いだしな。ここでも落ちついて眠れなかったらしい。

 今にも琥珀色の目が閉じそうな感じで、右肩から落っこちそうになっている。


 そんなズク坊を俺の右手とばるたんの右鋏で支えながら。

 俺達『迷宮サークル』は、駅から徒歩圏内の探索者ギルドまで歩いて目指していく。


 ……ちなみにこの時、俺は日常な事すぎてつい忘れていたが。


『ミミズクとロブスターを体に乗せた変な男』――。

 SNSでそう拡散されていたのは、全てが終わった後で判明しましたとさ。


 ◆


『四日市の迷宮』。

 未来の従魔が待つこの迷宮は、俺達のホームと同じく、『住宅街のド真ん中』というクソ迷惑な立地にある。


 出入り口は一軒家と一軒家の間。

 その隙間に挟まる形で、潰れたような細長い岩が存在していた。


 元いた住人は『怖すぎて無理!』と引っ越したらしい。

 そうして空き家となった二軒に挟まれて、『四日市の迷宮』は我がもの顔で居座っている。


 迷宮内部に関しては……特筆すべき点はなし。

 少し壁が発光して明るいくらいで、オーソドックスな洞窟型の迷宮だ。


「――どけどけぇ! 邪魔だァアア!」


 そんな迷惑な出入り口から潜り、俺は猪突猛進、爆進中だ。……猪ではなく牛だけど。


 探索者ギルドでマップを貰い、ばるたんを預けた後。

 ちょっと本当にズク坊の眠気が限界だったので――二時間ほど睡眠を取らせてから。


 いざ迷宮に潜って、一番足が遅いスラポンを除くメンバーで進んでいた。


 戦闘は『一度も』していない。

 現れたモンスターには速度を落とさないまま正面衝突。追突事故みたいに吹き飛ばしているだけ。


 とはいえ、これもモンスター側から見たら立派な攻撃だろう。

 圧倒的重量による天地ほどの階級差で、軽い方は死ぬか重傷かの二択しかない。


「軽い軽いッ! もっとメシを食うんだなお前らァア!」


【モーモーパワー】は現在、さらに一牛力上がって『二十九牛力』。

 推定体重二十三・二トンの全身鎧の男を、今のところ止められるヤツは出現していなかった。


 ――で、だ。

 何でそんな感じで、ランナーズハイみたいに爆走しているかと言うと……。


 ここ『四日市の迷宮』の難易度と階層、目当てのモンスターを考えれば至極当然である。


 迷宮の難易度は中の下レベル。階層は全二十五階層からなっている。

 そして狙うモンスターは、非『指名首(ウォンテッド)』でも、なかなか強い種族であるわけで。


 目指すは最下層の一つ上の二十四層。

 となるとそこまでの長い道中、いくら相手が弱くても、一々立ち止って戦っていたら日が暮れてしまうからな。


「何て爽快だ! モンスターが邪魔な小石扱いだぞホーホゥ!」

「本当に先輩はパワフルですね……。着地の震動がもう地震と同じです!」

「ふぉおお!? これはまさにボーリングでストライクなパーフェクトゲームのごとしっ!」


 と、後ろからついてきている皆の声が。


 だが、すぐにズシンズッシィン! という俺の足音(というか衝突音?)で、どこかの彼方にかき消される。


 ――そんなこんなで、爆走しつつも他の探索者には十分注意を払いながら。

 戦いらしい戦いはせずに、片っ端から吹き飛ばしていけば――。


 長い長い二十三層を最短ルートで走破。

 無傷でも息を切らした状態で、俺達は目的の二十四層に到達した。


 ◆


 ――クルォオオオ――!


「くっコイツか! ……おのれ、図鑑で見るよりも『空の王者感』がヤバイぞホーホゥ!?」


 二十四層に着いて、少しのおやつ休憩を挟んだ後。

 進み始めてすぐに出会ったそいつを見て、ズク坊が悔しそうな声を上げた。


 次いでスラポンとフェリポンの従魔組も何かを感じたのだろうか。

『ポニョーン』『キュルルゥウ!』と鳴き声を上げて、二十四層の出現モンスターをガン見している。


 見た目は大きな『ワシ』だ。

 体長は二メートル超え。鋭いくちばしに鋭い眼光、首から上はズク坊みたいに真っ白で、それ以外は茶色の毛で覆われている。


 ……見た目で気になるとしたら脚の部分か。

 先には鋭利な爪こそあれど、ワシなのか人間なのか? 判断がつかないどっちつかずな形をしていた。


『ガルーダ』。

 神話に出てくる鳥の名前をつけられたコイツが、選びに選んだ三体目の従魔である。


 非『指名首(ウォンテッド)』の中では強く、トロールよりも少し格上。

 鍛えられて種族の限界に達した、今のスラポンと同じくらいの力関係だ。


「というわけで早速、花蓮にシンクロ……は危ないな。ちょっと頼むわスラポン」

『ポニョーン』


 主人ではないが同じ前衛、信頼関係がある仲間だからな。

 俺の声に反応したスラポンは、ススッとガルーダの正面に陣取った。


 まずやるべきは『弱らせる』事。

 ピンピンした状態で花蓮に触れさせたら……普通に反撃されるからな。


【煩悩の命】で百八個のライフポイントがあっても、無駄に減らす必要はない。

 弱らせて危険を減らしてから、確実にシンクロを行うべきだ。


 あ、ちなみにフェリポンの時だけは例外だぞ?

 弱らせずに真っ先にシンクロを試みたのは、戦闘力が低くて、俺の『闘牛の威嚇』がばっちり効いたからだ。


 普通はポ○モンみたいにある程度弱らせてから。

 一応、俺も『ブルルゥウウ!』と『闘牛の威嚇』を使ったが……大きくビクッ! とはしても行動を縛るほどではなかった。


 ――クルォオオオ!


 ……というか、逆に怒らせちゃったなこれ。

 ガルーダは怒りの咆哮と同時。数多くの候補の中から従魔に選ばれた、その理由の力で牙を剥く。


 ズザン! とスラポンの青い体に何かが衝突。スライム状の柔らかな巨体が揺れる。

 五メートル離れた位置の中空から、ガルーダは片方の翼を平手打ちのように振ってきた。


「ふむ、やるな。現時点でも強烈だぞ」


 俺はスラポンを襲った衝撃の正体――一メートル半ほどの小さな『竜巻』を確認して呟く。


 さすがは風属性の魔術系攻撃だ。速度に特化したものが多いだけはあるな。

 探索者として動体視力が上がっていないと、何か風の塊が当たったとしか分からないだろう。


 これがガルーダを選んだ理由である。

 飛行系モンスターで頭上をカバー&ズク坊への救援ができ、大型ゆえに打たれ強く、

小竜巻(ミニサイクロン)』という、ハイスピードな遠距離攻撃を持つ。


 ……うむ、こうして実物を見ても素晴らしい。

 焦りは禁物だが、早く仲間にして『迷宮サークル』二羽目の鳥にしたいところだ。


 だから小細工抜きの真っ向勝負! ……スラポンが。

 ほぼ同じ実力同士、空飛ぶワシと巨大なスライム(約三メートル)が一対一でやり合っていく。


 スラポンは体を変形させて、何とか捕まえて『生命吸収』を試みる。

 かたやガルーダは距離を取り、『小竜巻(ミニサイクロン)』を連打する。


 ダメージはスラポンだけに溜まっていくが、そこはフェリポンがすぐさま回復。

 徐々に相手の動きを把握してきたスラポンが迫り、あと少しの捕まえ損ねがある事、六回目――。


 グニョン! と。

 ついにガルーダの半鳥半人な右脚を捉えて、空から引きずり下ろして『生命吸収』に入った。


 もちろん、スラポンは理解しているので最後まではやらない。

 体内で暴れ回る敵をいい感じで弱らせたところでペッと吐き出し、主人である花蓮の前に転がした。


「ありがとうねスラポン。ではでは参るっ!」


 そして、花蓮が右手を伸ばしてガルーダの翼に触れて――。


 瞬間、聞いた事のない大きな『炸裂音』が迷宮内に響いた。


 従魔にした『成功の証』、心の同調シンクロによる閃光は……ない。

 その逆の失敗時に起こる、心の反発(レジスト)による炸裂音が発生したのだ。


 花蓮は成長しているので格上、ガルーダとの能力差はないはず。

 ……となれば、残る要因は一つだけ。


「うぬぬ、性格が合わなかったかあ……」


 残念そうに言って、持っているダガ―で留めを刺す花蓮。

 肩は落としているものの、従魔ではなくモンスターなら危険な存在のままだからな。


「まあ仕方ないさ。スラポンの時も最初はダメだったんだろ?」

「ホーホゥ。確率的には失敗の方が多いしな」

「これからだよ花蓮。フェリポンの時はたまたま上手くいっただけさ」


 俺を含めた男衆が慰めの言葉をかける。


 花蓮自身も「うん、そうだね。次の子に行こうっ!」と、早くも気持ちを切り替えていた。


 さあ次だ次!

 俺達は気を取り直して、ズク坊の案内で他の個体に当たっていく。


 ……が、しかし。


 弱らせて花蓮が触れども触れども、発生するのはうるさい炸裂音。

 皆が見たい成功の閃光は、薄暗い迷宮を照らす事はなかった。


 そして、とうとう『十五体目』――十五回連続となる炸裂音が響いた直後。


 さすがの花蓮もついに爆発。

 ちゃぶ台があったらひっくり返しそうなテンションで叫ぶ。


「う……うまくいっかーん! 性格の不一致が深刻だよぉおお!?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ