百十三話 出会いの季節
「それではこれより、パーティー会議を始めます!」
季節は流れて――春。
リビングの窓から見える満開になった桜……はスル―して。
俺達『迷宮サークル』は、顔をつき合わせてテーブルを囲んでいた。
「ホーホゥ。やっとこの時がきたか」
「ついに、ですねズク坊先輩」
「へっへー。成長した私を褒め倒して、いや褒め殺していいんだよっ!」
「うむ、我慢強くよく頑張ったじゃねえか花蓮。『仲間』が増えるってはこうも気分がいいものなのか」
テーブル上のパーティー開けした特大ポテチ、あとポッ○ーとカン○リーマアムと歌○伎揚げと……とにかく、色々なお菓子をつまみながら。
俺達の視線はそのテーブルの中央。ぶ厚い本の『モンスター大図鑑』に注がれていた。
……もうお分かりだろう。
冬から春にかけて迷宮に潜り続けて、花蓮の【従魔秘術】の熟練度が『三体』にアップしていたのだ。
つい最近、『上野の迷宮』十五層にある、ボス部屋のボスを倒したところ、
トドメを刺させたスラポンに、喜んだ花蓮が後ろから走って抱きついたからすぐに分かったぞ。
『子供探索者』という異名通り、二十一にして相変わらず中三女子な見た目ではある。
だが一方で、従魔師としてはとても成長できていた。
……ちなみに、ウチのもう一人の後衛職。
火ダル魔術師(?)すぐるの【火魔術】も、花蓮よりお先に上がって『レベル7』になっている。
一々技名を言わなくてもいい『無詠唱』を覚えて、『火の鳥』以上の新たな魔術も覚えたが……。
高レベルの魔術ゆえか、今までみたいにすんなり使えなかったので……しばらく新魔術の練習に時間を当てていた。
この前、ズク坊に言われるがまま全力で撃ったら大惨事になったからな。
火力もサイズも本数も、きっちりコントロールできるまでは封印である。
――って、今は花蓮と次の従魔の話だったか。
俺はオッホン! とせき払いをしてから、改めてリーダーとして宣言する。
「んじゃ、楽しい楽しい仲間選びの時間といきますか!」
◆
俺の言葉を合図に、従魔の主人である花蓮が代表して『モンスター大図鑑』を開く。
そこには数多くのモンスターの名前、外見、能力、出現する迷宮とその階層などが詳しく載っている。
うむ、やっぱりいつ見てもテンションが上がるなこれは。
まして自分達とこれから出会い、仲間にするのだから……皆、少しばかり鼻息が荒いぞ。
「なあ、今のヤツはどうだ? 何かデカくてたくましいから強そうじゃねえか」
と、まず最初に口を開いたのはばるたんだ。
俺の頭の上から、ペラペラめくられていた『モンスター大図鑑』を鋏で指差した。
そのばるたん、【人語スキル】を覚えた時から、また大きくなっている。
約三十センチだった体が、ついに四十センチにまで成長。
あと少しで完全にロブスターの仲間入りなサイズだ。もうリストバンドの腹巻もだいぶキツくなっている。
本人いわく、『しっかり栄養を取ったから』との事だ。
ただ、このところは大きくならずに、成長限界に達したよう――って、また話がブレたな。
「うーん、トロールか。種族的な強さはいいけど、ちょっと邪魔になるからなあ……」
ばるたんの意見に、俺は腕組みをして言う。
――今回、花蓮の三体目の従魔となるモンスターは『指名首』以外となる。
どうやら強敵指定されたモンスターとシンクロできるのは、四体目かららしいのだ。
まあ、それは仕方ないとして。
トロールだと前衛になるが、さすがに巨体すぎるからな。せっかくの俺とスラポンの連携の邪魔になってしまう。
「ではデュラハンなどはどうでしょう先輩? 体長も二メートルくらいですし、立ち回りも上手いから邪魔にならない前衛かと」
「ん、あの首なし騎士か。たしかにトロールよりは良さげだな。……ただそもそも、前衛なのか後衛なのか、そこもまだ決まってないしなあ」
現在の『迷宮サークル』は前衛二枚、後衛三枚だ。
非戦闘員のズク坊はカウントしないので、戦闘時はこの構成となっている。
「枚数的には後衛が一枚多いけど……花蓮は従魔への指示役だからな。前衛と後衛のどっちを増やすべきか……。花蓮はどう思うよ?」
「うーん、そうだなあ……。今だとどっちを増やしても正解のような気がするかも……?」
従魔の主人である花蓮も、アゴに手を当てる名探偵スタイルで悩んでいるようだ。
……たしかに、どっちを増やしても問題なさそうではあるな。
俺はポテチをパリパリ食べながら、指についた塩をきちんと拭いてから『モンスター大図鑑』をめくる。
「ホーホゥ。なら『中衛』というか、どっちもできる『二刀流』なヤツはどうだ?」
「ん? 中衛……二刀流となズク坊?」
「そうだ。ホーホゥ。前衛もこなせるタフさに、後衛もこなせる遠距離攻撃。自由で縛られないのが一体いれば、戦い方も幅が広がりそうだぞ」
今度は右肩より、ズク坊が意見を出してきた。
……ふむふむ。なかなか説得力があるな。
言われてみれば、絶対に前衛と後衛に分ける必要性もない、か?
どっちもこなせる器用さというか、使いやすい仲間がいたら、戦場では頼もしい気がするぞ。
正直、あのズク坊だからな。
ばるたんと同じく、もっと男っぽくて外見の強さ重視で言うと思ったが……なるほどな意見だ。
「さすがはズク坊先輩です。もしそれに該当するのを選ぶとなると、『打たれ強い魔術系』が真っ先に浮かびますが……」
ズク坊の意見を受けて。
すぐるが早速、『モンスター大図鑑』の最初にある、モンスター一覧のページを開く。
『打たれ強い魔術系』。
本はぶ厚いだけあって、モンスターは軽く数百種類いるため、それに該当するモンスターは結構いる。
「ふーむ、ここからどう絞るか……」
「ホーホゥ。大変な作業になりそうだぞ」
「……ザリガニの比じゃねえな。モンスターってのはこんなに種族がいるのか」
「あ、そうだっ! なら空を飛べる子にしようよ!」
皆で迷っていると、花蓮が人差し指を立てて急に叫んだ。
「え? 空を飛べる子って……飛行系か」
「うん。だってそれなら前後以外に『上』からも戦えるし――何より! ズク坊ちゃんへの危険も減るかなーって」
指も言葉もズビシィ! と。
花蓮の自信溢れる意見を聞かされて、リーダーの俺はまた腕を組む。
だが、今度は納得の意味で、だ。
ズク坊は【気配遮断】と『暴風のスカーフ』による高速飛行で、よほどの事でもないとまず捉えられない。……しかも最後方にいるからな。
とはいえ、迷宮において絶対はないわけで――。
モンスターの中には、目や鼻が進化した『索敵能力』が高いヤツもいるのだ。
もし、ズク坊がそいつらに真っ先に狙われたら?
天井付近、高い位置にいる仲間を助けにいくのは、当然ながら平面上にいる仲間よりも困難。
そのピンチの際、同じく空を飛べる従魔がいれば……。
ズク坊が撃墜される危険性は、ぐぐっと減るのは間違いないだろう。
「……だな。たしかに花蓮の言う通りだ」
俺も含めて、他のメンバーからも特に異論はなし――というわけで。
『打たれ強い魔術系』に、新たに『翼もしくは羽』という条件を加えてモンスターを探していけば――……。
最終候補に挙がったのは三体。
そこから三十分に及ぶ議論の末に、ついに満場一致で決定となった。
去年の夏以来、およそ八カ月ぶりの新戦力の増強だ。
だから俺は、腹の底から喜びを込めて宣言する。
「よし決まりだ! 決行日は明日、皆で三体目の従魔を迎え入れようじゃないか!」
今年の投稿はこれで最後となります。
年末年始は出かけたり(&ぐーたらしたり)で……次は四日くらいになると思われます。