表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
107/233

百話 日本最高難度の迷宮

何だかんだで本編百話目です。


すぐる視点の説明回みたいな感じです。

「――では始めようか。まずはここを照らしてくれるかい?」


 ここは『黄昏の魔術団』のホーム、日本最高難度を誇る『盛岡の迷宮』。


 その出入口である岩壁の亀裂に入り、階段を下りて一層に着いてすぐ。

 先頭にいた団長の若林さんは振り向き、すぐ後ろにいる僕に指示を出してきた。


「はい! では失礼して――【魔術武装】!」


 内部は出入り口から差す光が少し入る程度で、基本的には漆黒の闇の世界が広がって何一つ見えないほど。


 だから僕はいつものように、全身を燃え上がらせて『火ダルマモード』に移行する。


「おお、岐阜でも見たが素晴らしい火力じゃないか。匠もそう思うだろう?」

「ああ、そうだな。【魔術武装】――こうして体感するとたしかに面白い」


『火ダルマモード』でゴゴオオォ、と燃え盛る僕の状態を見て。

 若林さんと副団長の桐島さん、さらには他の同行した団員からも感嘆の声が上がる。


 ……何だか少し恥ずかしいな。

 自分よりスゴイ人達に見られるのは緊張するから、早いところ実力チェックに入りたいところだ。


 と、ここで光源の役割を果たす僕に続いて。

【光魔術】を持っている二人の団員が、右手を頭上に向けて一斉に魔術を発動した。


 瞬間、それぞれバスケットボール大の三つの光球が一直線に打ち上がる。

 およそ十メートルある天井付近まで上がると、ピタリと止まって証明代わりとなり、周囲が一気に明るくなっていく。


「うおお、今のが【光魔術】ですか……。それで、こっちの方はこんな感じになっている、と」


 もう一度言うけど、ここ『盛岡の迷宮』は日本最高難度の迷宮だ。


 出現モンスターの強さ、迷宮内部の過酷さから、ギルド関係者が集まる会議でも満場一致で認定されている。


 そんな場所に立ち、大きな火ダルマと六つの光球によって完全に視界が利く中で。

 僕の目の前には――聞いていた通りのある異様な光景が広がっていた。


「(……ゴクリ)」


 まず目に入ったのが、何を隠そう『魔法陣』だ。


 直径二メートルほどのサークル状かつ幾何学模様の黒いペイント。

 それが洞窟型の迷宮の、不自然なほど平らになった地面にいくつも現れている。


 ……一見、ただの模様(というか落書き?)みたいだからと言って……侮るなかれ。

 わずかでも踏んだ瞬間、待っているのは痛みと後悔。


 火なのか氷なのか雷なのか、それともそれ以外か。

 何かしらの『属性ダメージ』がランダムに発生して、踏んだ者に結構シャレにならないダメージを与えてくるのだ。


 こっちからの攻撃は効かず、消したければ踏んで発動させるしかない。

 だからズク坊先輩みたいに空でも飛べない限り、ずっと足元に注意しなければならないのだ。


 だというのに――まさかのモンスターには無反応。


 つまり、探索者だけに『一方的に発動』して、しかも黒ペイントで『発見しづらい』という、何とも凶悪かつ陰湿な罠なのである。


「……うぐぅ、まさか一層で進むのを躊躇させられるとは……」


 暗いとか歩きづらいとか、暑いとか寒いとか。

 そういう次元ではない、もっと直接的で暴力的な環境ってわけだね。


 そして、日本最高難度の迷宮なのだから……もちろんこれだけではない。


 実はもう一つある過酷な環境が、魔法陣のない他の地面の部分。

 よく見ると薄らとした『桃色の湯気』が、もわもわと怪しげに立ち上っている。


 こっちは魔法陣とは真逆。

 ダメージを与えるのではなく、『回復』させるためのもの。


 ただ魔法陣以外の場所にいるだけで、傷ついた体や溜まった疲労が癒されていくのだ。


 ゲーム的に言えば、まんまオートリ○ェネである。

 ここ一層ならそうでもないらしいけど、階層が深くなればなるほど回復量は増えていくらしい。


 で、この回復効果がある桃色の湯気。

 勘の良い人ならもうお分かりかと思うけど……こっちはモンスターにのみ反応する。


 ……うん、まあ当然っちゃ当然だよね。

 これで人間側も回復できるようなら、魔法陣の危険性が相殺されて過酷な環境ではなくなるのだから。


 いつもお世話になっている、フェリポンの『精霊の治癒(ヒール)』に色は似ているも……こっちは何の役にも立たないのだ。


 後はまあ、潜るにつれて他に細かい罠が出てくるようだけど、今はとりあえずこんな感じかな。


 なので一旦、整理するとこんな感じだ。


『盛岡の迷宮』は壁が発光せず真っ暗闇で、かつ属性ダメージを受ける魔法陣があり、敵ばかりが無限に回復できる湯気が発生している。


「分かってはいたけど……いざ目の前にすると理不尽すぎる!」

「まあ、とはいえ大した事はないと思うよ? 魔法陣は踏まないように気をつけて、素早く美しく、一気に敵を削ってしまえばいいのさ」

「……いや、それを軽くできるのはお前だけだけどな。……まあ、別に今日は攻略するわけじゃない。だから安心してくれ木本君」


 僕の弱気な発言に、若林さんと桐島さんがリラックスした様子で返してきた。


 ただし、二人とも地上にいた時よりも目が鋭く、周囲に視線を巡らせている。


 ……あ、そうか。

 いつもズク坊先輩に任せきりだったけど、普通は探索者が自分の目でモンスターを探すものだっけ。


 なんて反省しつつ、僕達は足元に無数にある魔法陣に気をつけて進む。


 ――すると、さすがは最高難度の迷宮か。

 モンスター密度も高いがために、十数秒歩いただけでもう通路の奥からモンスターが現れる。


「あれが『バーサクトレント』……。そして本当に魔法陣を無視して直進してきてるよ……」


 三メートルはあろうかという焦げ茶色の枯れ木で、何本もある枝は腕のように動く。

 根は足の役割を果たし、上下運動がまったくない這うような動きで、魔法陣の上を平然と通過して迫ってきていた。


 強さ的にはトロールより少し弱い程度。また名前の通り、モンスターの中でも屈指の凶暴性を誇る。


 枯れ木なのは見た目だけで、生きた大木かと錯覚するほどの耐久力と生命力があるらしい。


 ……と言っても、だ。

 普段からもっと強いモンスターと戦っている僕や若林さんにとっては、何の心配もない相手である。


 ただ、ここが『最上層の一層』というのを考えれば……この『異常さ』に気づくだろう。


 トロールは単独で狩れれば一人前、何とか片足だけだけど、一流の仲間入りを果たせたと言えるレベルの相手だ。

 それより少し弱い程度のモンスターが、もう一層から出現してくるという現実――。


 ハッキリ言って、異常なレベルの高さである。

 しかも、そこに加えて『スキル持ち』の出現頻度が普通よりも高いときている。


 全ての個体が【固有スキル】を持つ『指名首(ウォンテッド)』とは違い、それ以外のモンスターで『スキル持ち』なのは、せいぜい三百体に一体程度。


 ところがここでは『五十体に一体』。なんと五十分の一の確率で出てくるのだ。


 まさに最難関な迷宮だけあって、モンスターの強さも環境も死角なし。

 この『盛岡の迷宮』が発見された当初、他の迷宮と大体同じだと思って調査に入ったチームがどうなったかは……言うまでもないだろう。


「じゃあ木本君。早速、醜いアイツを美しく燃えやしてくれたまえ」

「はい。お任せください!」


 僕は若林さんの期待に答えるべく、火ダルマの右手を前に突き出す。


 一撃で仕留めるためにも威力が高く、あと見た目にも華やかな、持てる魔術で最も強い炎を放つ。


「一瞬で消し炭にしてみせる――行けッ『火の鳥(ホウオウ)』!」

改めてですが、本編百話に到達しました!

まさかここまで続けられるとは……と驚いています。これも読者の皆様がいるおかげ、本当に感謝です。

重厚なストーリー! 鮮やかな伏線回収! ……とかはまったくないですが、読みやすさを心がけて、和気あいあいとした感じのものを書いていけたらと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ