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九十六話 門番(ゲートキーパー)

「うおお!? こりゃまたドエライのが……!」


【モーモーパワー】が二十五牛力に上がり、新たな能力を得るという予定外を経て。

 仕切り直して十四層奥に進んだ俺達を待っていたのは、やはり聞いていた通りの『石像』だった。


「な、何だコイツは!? 思っていた以上にデカブツだぞホーホゥ!」


 俺の驚きの直後、ズク坊からも驚きの声が上がる。

 緑子さん達は一度見ているからか、俺達とは違って特に驚いてはいないが……。


 現れたのは巨大な石像。より正確に言うと、『阿修羅』みたいな恐ろしい見た目の石像だった。


 体長は優に十メートルを超える。

 ちょうど五階建てのマンションくらいの高さで、明らかに魔力を感じさせる石で体が構成されているようだ。


 阿修羅な顔は三面あり、腕は全部で六本。

 まるで腕のいい職人達が長い年月をかけて、巨大な岩壁から削り出したかのような精巧な造りの見た目だ。


 ただ見ているだけでも圧倒される、どこか神々しささえ感じてしまうほどの存在感だぞ。


 日本有数のパーティーである『北欧の戦乙女(ヴァルキュリア)』から、

『ちょっと手を貸して欲しい』と言われた時から相当な相手だとは分かっていたが……、


 これは正直、俺の想定を上回ってきやがりましたよ。


「――名は『ダンジョンアスラ』。ここ『金沢の迷宮』の攻略を止めている原因よ。そして――」

「『門番(ゲートキーパー)』。扉の先のボス部屋を守る存在であり、同時に入るためのカギになっている。だから先に進みたければ、倒す以外の選択肢はないってわけねん」


 緑子さんと葵さんが今まで以上に真剣な顔つきで言う。


 ……そう、『門番(ゲートキーパー)』。

 事前に教えてもらった情報そのままに、ダンジョンアスラはボス部屋の前で仁王立ちになっている。


門番(ゲートキーパー)』とは、高難度の迷宮のごく一部、ボス部屋前に陣取って探索者を阻む厄介な存在だ。

 その数と報告例は極めて少なく、居れば迷宮の最下層が近いと言われるほど。


 だからこそ、段違いに強い。

 それこそ奥のボス部屋にいるボス以上で、俺は今日まで知らなかったが、


門番(ゲートキーパー)』>ボス――という力関係が普通らしい。


「つまり、俺にとっては過去最強の相手ってわけか」


 出会っただけなら当然、岐阜にいたドス黒竜が文句なしに最強だ。

 だが実際に戦った相手となると、おそらく『上野の迷宮』十二層ボスのメルトスネイルになる。


 それが上書きされて、過去最強の対戦相手はダンジョンアスラに。

 迷宮の難易度の差、階層の違い、ボスと『門番(ゲートキーパー)』の優劣――。


 あらゆる面から見ても、メルトスネイルより数段格上なのは確実だ。


 ……まあ、一度倒せば『数か月は復活しない』という点だけを見ても、コイツが凄まじく手強い相手だと分かるけどな。


「雰囲気もかなりヤバイしな……。二十五牛力に達したはいいけど、持ってる手札を全部使っても、サシじゃ絶対に勝てないぞ」

「ホーホゥ……。まさか竜系以外でバタローより明らかな格上がいるとは……」


 俺の言葉に、右肩に乗るズク坊がしょんぼりとする。


 ……その反応も仕方ないか。

 何だかんだで今までは、力押しのゴリ押しで勝利街道まっしぐらだったからな。


 しかし、それもここまで。

 オーガロードも子供扱いするだろうコイツは、パワーもタフネスも『闘牛五十頭分』(【過剰燃焼(オーバーヒート)】使用時)以上なのは一目で分かる。


 もう何か垂れ流しているオーラから重苦しいと言うか……。

 淡いオレンジの壁の光に照らされた精巧な巨体は、二割増しくらいで大迫力だぞ。


 あ、ちなみに。そんな恐ろしきダンジョンアスラを前にしているのに、


 非戦闘員のズク坊を肩に乗せていていいのか? という心配ならいらないぞ。


 ダンジョンアスラは『門番(ゲートキーパー)』だけあって、ボス部屋の扉からは離れない。

 別に倒されない限りボス部屋は開かないので、離れて突撃しても大丈夫なのだが……そこはしっかり門の番をしているらしい。


「――んじゃ、とりあえず見てなよ太郎。わざわざアンタを呼ぶほどのモンスターのヤバさを見せてあげるよん!」


 叫び、葵さんは扉から四十メートル離れた安全地帯から飛び出す。

 武器である木の棍棒を片手に、恐れもなく一気に距離を詰めていく。


 ――よし、ならお言葉に甘えて少し見させてもらおう。


 オーガキングな葵さんですら砕けない、石の門番のヤバさってやつを。


 ◆


 ゴオオォン! と轟音が響く。

 葵さんが思いきり振りかぶって叩きつけた、棍棒による重い重い一撃だ。


 ……だが、続いて聞こえたのは石の体が砕ける音ではなかった。


 オーガキングな葵さんの渾身の一撃を上回る、さらなる轟音。

 ダンジョンアスラが【空中殺法】で宙にいる葵さんを迎撃。繰り出すも避けられた破滅的な『チョップ』が、勢いのまま地面に直撃した音だ。


「ぬおおッ……!」

「ホーホゥ……!?」


 轟音と同時に伝わる凄まじい震動に、俺とズク坊は面食らって思わず声が出る。


 いやいや、冗談だろ今の!?

 もう攻撃というか、建造物が倒壊したみたいな音と衝撃じゃねえか!


 轟音も震動も慣れている俺でさえ……感じた事のない規模の攻撃の余波が迷宮内に響き渡った。


 ――と、そんな規格外な攻撃(衝撃映像?)から八秒後。

 回避した流れのまま、射程圏内から脱した葵さんが、宙を蹴って俺達のもとまで戻ってきた。


「どう? 本気でヤバイでしょ。私の全力でも効かないってわけねん」


 さっきまで命を危険に晒していたのに、葵さんは平然とした顔で言う。


「ええ、見た目と雰囲気に違わぬ手強い相手のようですね……」

「ホーホゥ。見かけ倒しならよかったのに……」


 ダンジョンアスラの威容を見上げながら、弱々しい声で言う俺とズク坊。

 だが、今のデモンストレーションのおかげでハッキリと理解できた。


 脳筋……いや失礼。パワフルな葵さんの攻撃が通用しないほど、前方四十メートルに立つ阿修羅の石像はヤバイ相手だと。


 まあ、だからこその俺なんだよな。


 ダンジョンアスラは、一定以上の威力の攻撃で『亀裂を入れないと』戦闘にならない。

 やっとそこから一定以下でもダメージが入る状態となり(それでもある程度の威力は必要だが)、対等な勝負に入れるという寸法だ。


 だからこその、俺。もう一度言おう、だからこその俺なのだよ(ドヤ顔)!


 総合的な戦闘力なら、俺よりも緑子さんの方が高いのは間違いない。

 おそらく葵さんも俺より上で、仲間ならめちゃくちゃ頼りになる存在だ。


 ところがどっこい、全力の一撃が叩き出す威力なら俺の方が上らしい。


 手応えから葵さんの全力フルスイングで、『あと少し威力が足りない』ようで、俺なら可能性があるとの事。


【モーモーパワー】+【過剰燃焼(オーバーヒート)】の状態からの『牛力調整』――。

これによる『高速の質量兵器』ならイケると、緑子さん達は踏んでいるようだ。


 ……ならばやるしかあるまいよ。


 ついさっき二十五牛力に上がり、『全身蹄化』を得て戦闘力も向上しているし、

 ここまで来て『できませんでした……』では、男として情けなさすぎるしな。


 俺は右肩のズク坊を後方に飛び立たせて、美女達の期待に答えるべく。


 すでに『ミルク回復薬』で体力は戻していたので、本日二度目となる【過剰燃焼(オーバーヒート)】を発動して――覚悟を決める。


「相手にとって不足なし。とりあえずデカイ亀裂を入れさせてもらうぞ!」

強そうな感じがうまく出ていたら幸いです。

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