表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/233

九十五話 二十五牛力

「むむっ……?」


 全員が無傷で大した疲労もなく、ついに目的の十四層に到達してすぐ。

 この層の出現モンスターに、たまたまトドメを刺した俺の体に――ある『変化』が起きた。


「? どうしたの太郎君?」

「何よ太郎。もしかしてトイレ?」


 立ち止り、俺がぼそっと発した声に、同じ前衛の緑子さんと葵さんが反応する。


 続けて後衛組、五人のお姉様達とズク坊が、一体何かと前まで上がってきた。


「ホーホゥ? どうしたバタロー」

「ん、いやちょっとこの感覚が……あっ、やっぱり!」

「やっぱりって何よ太郎? 気になるじゃないの」

「それがですね葵さん。ちょっと体に違和感が生まれたので、【モーモーパワー】の状態を確認してみたんですが――」


 前進(というか進撃)を一旦止めて、俺はズク坊と『北欧の戦乙女(ヴァルキュリア)』の皆に報告する。


 今の戦闘で得た経験値により、【モーモーパワー】が『二十五牛力』に上がった事。

 そして十牛力で『闘牛の威嚇』を得てから、五牛力刻みで『新たな能力』を得ている事を。


「――つまり、太郎君は今、新たな能力というものを手にしたというわけね」

「はい。緑子さんの仰る通りです。……んで早速、それによる妙な違和感を覚えたという感じです」


 興味津津なのか、俺に予想以上に近づいてまじまじと見てくる女神、じゃなくて緑子さん。


 さらに加えて、葵さん達にも至近距離から観察される中――俺は心臓をバクバクさせながら兜を取る。


「ホーホゥ。じゃあお約束の新能力チェックだな!」


 というズク坊の声によって。

 俺達は迷宮内を進むのを中断して、ひとまずモンスターが出ない十三層と十四層をつなぐ階段へ。


 俺が覚えた違和感は、『皮膚や筋肉が引き締まる』感覚だ。

 それは全身に及んでいたため、面倒だが兜だけでなく鎧も全て外していく。


 そうして確認してみたところ。

 見た目には『闘牛気』みたいな明確な変化はなかったが……新能力はすぐに判明した。


「あら、とても『硬くなって』いるわね」

「ホントだ。『カチカチ』だねん」


 俺の頬を両サイドからつんつんしながら、緑子さんと葵さんが言う。


 ほか後衛の五人、清楚&小柄&ジト目&アニメ声&エロ系美女も、胸や腹、腕や足をつんつんしてきて、


「おー硬い」

「人間の皮膚じゃないね」

「……変な感じ」

「これが新能力ってわけかあ」

「うふっ、何かスゴイ感触ね」


 と、それぞれに驚いて反応している。


 ……正直に言おう。

 この状況は悪くない、否、素晴らしいご褒美タイムである。


 お姉様達に寄って集ってつんつんされるという至福――っていかんいかん!

 俺は紳士だ(?)。欲望とか興奮はさて置いて!


「これはどう見ても……『硬化』ですよね?」

「ええ、私もそう思うわ。鉄――ほどではないにしても、中々の硬さがあるようね」


 俺は頬を、緑子さんは首元を。

 つんつんではなく、指の背で軽く叩いてみたところ、人体とは思えないコン、という音が響いた。


 うむ、やっぱり硬いな。

 そして緑子さんの言う通り、鉄ほどではないにしろ、結構な硬さが手応えからも確認できる。


【モーモーパワー】、闘牛が宿っているという事を考えると……ちょうど『ひづめ』みたいな硬さだろうか?


 肌の色的には一切の変色もしていないし……。

 何と言うか、二十五牛力にしては少しばかり地味な能力だぞ。


「……まあ、確実に役立つとは思うけどな」


 俺は腕や足をぐるぐる回して動作確認をしながら呟く。

 関節までは固まっていないから、『硬さを保ったまま』動ける時点で戦闘力アップは間違いない。


 ――というわけで、十、十五、二十牛力に続いて四回目。


 十四層の奥にいるという『石像』とやる前に、新たな能力の性能を試してみよう。


 ◆


 シュー……シュー……シュー……。


 不気味な呼吸音だけが静かに響く。

 新たな能力のほどを試すため、俺は一人でモンスターと対峙していた。


 相手は強敵指定の『指名首ウォンテッド』である『エレメントミュータント』。

 火・水・雷の三属性を体に宿す、表面がヌメヌメ&テカテカな、紺色の人型モンスターだ。


 三種の属性攻撃と、常時展開している属性の防御膜。

 この二つを武器とする、攻守に隙のない相手である。


 だがぶっちゃけ……属性うんぬんはどうでもいいな。


 何よりも気になるのは超がつくほどの不気味な見た目だ。

 よく分からんが、迷宮というか『科学の暴走の果てに生み出された生命体』、そんなイメージのやつである。


 また素材面で見ても、三属性だからか魔石が三つあるというだけで……大して稼げない相手らしい。


「とにかくやるか。人型らしく実験体になってもらうぞ! 【過剰燃焼(オーバーヒート)】――『ブルルゥウウッ』!」


 惜しみなく全力モードになると同時、挨拶程度に『闘牛の威嚇』を一発。

 牛力が上がったとはいえ、『指名首ウォンテッド』クラスにはほとんど効かないが――、


 一瞬だけ、ピクッと体を反応させただけで十分だ。

 煩わしい属性攻撃がくる前に、俺は『牛力調整』からの『高速猛牛タックル』を敢行する。


 まずぶつかるのは属性膜(雷)だ。

 体を覆うような半透明のドーム状の膜に、右肩から勢いよく衝突した。


 瞬間、全身に雷のダメージが通るが――おお?

 さっきトドメを刺した時もちょうど雷の膜だったが、ビリビリ具合がかなり薄まっているぞ。


 痛いは痛いが、闘牛のタフネスでは十分に許容範囲。

 タックルの足を止められる事もなく、そのままエレメントミュータントを弾き飛ばす。


 敵は転倒せず、タックルの威力も膜によってかなり軽減させられるも……問題なし。


 さすがに一発で決められるとは思っていないからな。

 連打だ連打! つまりは奥義の『狂牛ラッシュ』のお見舞いといこう。


 ズドオォン! ズドオォン! と立て続けに衝突音と震動が響く。

 雷の次は水に火と、異なる属性に変化した膜とぶつかり合い、そして本体を数メートルほど弾き飛ばした。


 これは……鎧と右肩から伝う手応え的にもかなり違うな。

 一牛力上がっただけにしては威力の上がり幅が高く、衝突によるエネルギーが逃げない感じがある。


 実際、エレメントミュータントが受けたダメージは相当らしく、

 もうすでに足はフラつき、常時展開する属性の膜も弱々しく明滅していた。


 ただ単純に体が蹄みたいに硬くなるだけでこの違い、か。

 まあ、ボクサーのパンチで例えても、素手とバンテージで固めた拳じゃ威力は段違いだからな。


 拳自体も痛めにくくなるし、常に思いきり打てるのは地味だが大きなメリットだ。


「おおおお――ッ!」


 だから全力全開のタックルをもう一発。

 足も硬くなったせいか踏み込みのブレも改善されたらしく、スムーズな体重移動により、凶悪なタックルを敵のみぞおちに叩き込む。


 弱っていた膜は一瞬で霧散し、同じく弱っていた本体が宙に浮く。

 そのまま無抵抗な人形のごとく、激しくふっ飛ばされて岩の壁に叩きつけられた。


 これにて決着――だな。

 一応、二十秒ほど観察してみたが、手足は変な方向に曲がり、ピクリとも動く気配はない。


「……フーッ」


 俺は深く息を吐いて、いまだ二十五牛力を保った体を鎧越しに見る。


『闘牛気』に加えて、全身の引き締まった感覚は残っており、改めて己の肉体の力強さが感じられた。


 ふむふむ……。『硬い=強い』ってのは今の戦闘で十二分に分かったぞ。

 鎧の下にちょっとした鎧、言うなれば二重の鎧状態で、攻撃にも防御にも役立つらしい。


 これなら前にメルトスネイルに見舞った、落下からの『牛体プレス』での自滅も防げそうな気がするな。


 ――んで、この体の硬化。名づけるなら『全身蹄化』だろうか?

 何度も言うがかなり地味でも実用的。重さに硬さが加わるという、心強い新たな能力を得る事ができた。


 ……が、しかし。


 やっぱりどうしても腑に落ちないというか……一言言わせてほしい。


 俺は勝利の余韻に浸る間もなく、腹の底から、半分怒りを込めて【モーモーパワー】に抗議する。


「今かよ! あれからそんなにモンスターも倒してないのに……どうせなら稲垣戦の前に上がっとけっての!」

というわけで、威嚇、牛力調整、闘牛気の次は『硬化』です。すんごい地味です。

……いまさらですが、出す能力の順番を間違えた気が……(汗)。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ