九十三話 北欧の戦乙女(ヴァルキュリア)
「あっ! いたいた! ぬオオお久しぶりでーす……ッ!」
『迷宮サークル』の活動を一旦止めて、メンバーそれぞれが各地に散らばっていった日。
俺とズク坊組は北陸新幹線に乗って――生まれて初めての北陸、石川の金沢へと到着していた。
あ、ちなみに席はグランクラスってやつだったぞ(ドヤ顔)。
鳥かごに収まったズク坊と共に、探索者の財力をフルに発揮して、生意気にも一番良い席での列車旅を満喫させてもらった。
……で、そんな俺達を駅まで迎えに来てくれたのが――、
「久しぶりね太郎君。ようこそ私達のホームへ。ズク坊ちゃんも元気にしていたかしら?」
「よっ、太郎にミミズクちゃん! ……ほほう。大変な目にあったからか前よりも精悍な顔つきになってるねん」
『北欧の戦乙女』のリーダーで受付嬢の日菜子さんの姉、吉村緑子さんと副リーダーの渡辺葵さんだ。
全七人の少数精鋭(&美女!)パーティーのうち、トップ二人の美女がわざわざ迎えに来てくれていた。
「お二人共よろしくお願いします。力になれるよう頑張りますので!」
「ホーホゥ。緑子も葵も短い間だけど世話になるぞ」
「フフ、こちらこそ。では立ち話もなんだから、移動しながら色々とお話しましょうか」
「だねん。車はこっちに置いてあるからちょい歩くよー」
と、いつ見ても女神な緑子さんの言葉で早速、場所を移す事に。
たしかに、観光地でしかも土曜日だから駅前は混雑しているからな。
ここじゃ積もる話も落ちついてできないし、何よりズク坊が目立つから移動した方がいいか。
俺は鳥かごから出せ出せとうるさいズク坊を右肩に乗せて、緑子さん達に続いて近くの駐車場へ。
そして、葵さんが愛車と呼ぶ車に乗り込むわけだが……。
「うおッ!? まさかのジープですか葵さん!」
「へへっ、カッコイイっしょ? やっぱり車はアメ車に限るわねん♪」
俺のリアクションが嬉しいのか、仁王立ちで満足げに言う葵さん。
いやいや、二十八歳の女性、それも黒髪ツインテールな人がジープ(青)って……。
でも冷静に考えたら、あの脳筋な葵さんならあり得るか。
たしか異名は『女オーガの探索者』だっけか?
他にも緑子さんに聞いた話じゃ、『男勝りの葵総長』とか恐れられているみたいだしな。
岐阜では竜のせいで見られなかったが、戦闘も性格も男っぽいのは確定だろう。
「これも葵の趣味よ太郎君。もう一台は黒のハマーだしね。……さあどうぞ、ホームの迷宮近くに馴染みのお店があるから、そこで他の皆と合流してお昼にしましょう」
「あっはい。そうですね。何だかんだでもう昼時ですしね」
「ちなみにミミズクちゃんも一緒で大丈夫だよん。ウチのメンバーの親がやってる店だから」
「ホーホゥ。それはありがたいぞ。俺もバタローも金沢の食を楽しみにしてたからな。もうお腹ペコペコだぞホーホゥ!」
というわけで、迷宮に向かう前にまずは腹ごしらえを。
俺とズク坊は葵さんの男前な車と運転に揺られて、金沢の街を走っていく――。
◆
「……おお、ここが緑子さん達のホームの一つですか」
「何か今まで見た中でダントツで派手だぞホーホゥ!」
残りの『北欧の戦乙女』メンバーと合流し、品がある高そうな寿司屋で昼食を取った後。
金沢市をひたすら南下していった俺達は、装備万端で迷宮の入口に立っていた。
――『金沢の迷宮』。それが緑子さん達のホームの一つである迷宮だ。
迷宮の顔である入口は、真っ赤な巨大な花(ラフレシアみたいなの)がドン! と咲いている。
山の中腹に位置し、探索者を待ち構えるようにある様は……派手というより不気味に感じるぞ。
あ、そうそう。
さっきから『ホームの一つ』と言っているのは、『北欧の戦乙女』は北陸三県を中心に探索しているからだ。
石川に福井に富山。
それぞれにホームと定めた迷宮があり、基本的にその三つを順々に潜っているらしい。
なぜそんな面倒な事をしているのか?
移動中に美しきお姉様方に聞いたところ、どうやら北陸の迷宮は『季節が影響』しているとの事だった。
春夏秋冬、一年を通じてモンスターの出現数が変化するため、季節が変わる毎にホームを変えているらしい。
極端なものでは、まるで冬眠したかのように一体も出てこず、『空の階層化』する場合もあるようだ。
日本だけでなく、世界的に見てもこの現象は珍しく……理由に関してはまったく不明なのが現状である。
「ねえ太郎。それより例の喋るザリガニの話をもっと聞かせ――」
「オホン。ほらその話はまた後で。……葵、慣れていると言っても命懸けなのよ? 集中しなさい」
「へいへーいお姉様―」
と、緑子さんから注意を受ける葵さん。
ばるたんの話題にまだ食いついていたのか……。たっぷり話したつもりなんだけどな。
断固拒否だが、相変わらず俺との『手合わせ』もしたがるし……副リーダーとしてどうなんですかい。
……まあ、とりあえずそんな葵さんは置いといて。
迷宮に潜る前に、軽くだが他の五人のお姉様の紹介をしておこう。
一人目は緑子さんと同じく正統派な美人さん。
シュッとした顔に黒髪セミロングの、とても三十歳には見えない年長者だ。
昼に食べた絶品寿司は、この人の親がやっている店だった。
二人目は百五十センチくらいの小柄な女性。
キレイというより可愛い系で、茶髪ポニーテールがよく似合う、年齢は緑子さんや葵さんと同じ二十八歳だ。
三人目はジト目が特徴的なザ・和風系。
口数も少なめで大人しいとはいえ、普通に美人の部類に入る、パーティーの中では二十五歳と最も若い女性だ。
四人目はベリーショートのボーイッシュ風美女。
小顔で九頭身くらいあるが、まさかのアニメ声という、ギャップが光る二十七歳の女性だ。
最後の一人は……何かエロい。うん、エロい。
タレ目で巨乳な二十七歳のお姉さんで、グラビアアイドルと言われても信じてしまう見た目と空気感だ。
今、改めて見てみると……よくこんな美女ばっかり揃ったな。
それぞれ兜なしの鎧姿をしていても、男なら普通に心奪われるだろうレベルだ。
同じ大学の同期、先輩後輩でパーティーを組んだらしいが、一人くらい残念な容姿の人がいても良さそうなものなのに……。
「(まあ、俺にとっては眼福ですけどな!)」
「んン? 何か言ったか太郎?」
「あ、いや何でもねえです葵さん!」
と、とにかく! 石川まで呼ばれたんだ、気合いを入れてお手伝いするとしますか!
この『金沢の迷宮』の難易度は上の中――。
『上野の迷宮』と比べて少しばかり高く、かつ初めてだから気をつけないと。
出現するモンスターもパワー系やスピード系、地上型に空中型にと幅広いと聞く。
その点も『上野の迷宮』と違って偏りがないから、臨機応変に戦わないとな。
「では行きましょうか。太郎君にズク坊ちゃんも準備はいいかしら?」
「はい! もちろんですハイ!」
「いつでも大丈夫だぞホーホゥ!」
「フフ、ならいいわね。前衛は決めた通りに、私と葵と太郎君が一列で。後衛は残る五人が扇状に広がって、最後方にズク坊ちゃんよ」
最後に陣形の確認をして、先頭で迷宮に入っていく緑子さん。
一人だけ普通の鎧ではなく軽鎧だが、強者のオーラ(と女神オーラ)があるから、心配どころかとても心強い。
その後すぐに、修理から戻ってきた『プラチナ合金アーマー』を纏った俺と、一風変わった木製の鎧を纏った葵さんが続くが……、
巨大で鮮やかな花の入口に入っていくのは、何だか匂いに誘われる昆虫気分だぞ。
とはいえ、くぐってしまえば同じだけどな。
『金沢の迷宮』はスタンダードな洞窟型で、最先行パーティーである緑子さん達が『十四層の途中』まで切り開いている。
そして『石像』。
俺が呼ばれた理由、十四層の奥にいるという、この『ちょっと特殊な』モンスターを粉砕せねば。
俺は同じ前衛の二人、さらに後ろの五人のお姉様方に聞こえるように。
体から『闘牛気』を沸き上げながら、鼻息荒く力強く宣言する。
「さてやりますか。ちょっと足音と震動がうるさいですが――その分しっかり働きますので!」
男っぽい車はジープとハマー。……にしたけど果たして合ってるのだろうか?
あと女性キャラも珍しくドバッと出ます。……けどなんか二人以外空気になりそうな予感(汗)。




