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十話 研究室にて

ちょっとした説明回です。

「おはよーさーん」


 初ボス撃破の翌日。

 疲れからか遅く起きた俺は、昼前に大学の研究室に来た。


 大学敷地内の奥にある棟の一階端に位置する、書類やら実験道具やら遊び道具やらが散乱する小汚い部屋だ。


「おはよう友葉っち。今日も無事生き延びてこられたね」

「おう。俺も皆と同じく地上で、地下なんかで死にたくないからなー」


 部屋に入ってすぐ、ぼさぼさ頭でしわくちゃネルシャツの、これまた小汚い男が声を返してきた。


 彼は俺と同じ卒論を行う研究パートナーの涌井俊樹わくいとしき

 皆からワッキーと呼ばれる、Fラン大学にしてはかなり優秀なやつで、卒論の研究では大いに助けられている。


「おいーっす友葉っち」

「ちゃんと五体満足で戻ってきたカ?」

「最後に友葉っち登場だし。これで四年全員揃ったし」

「ああああ、きちんと単位を取ったのに最後に卒論とか超面倒くせえええ」


 と、立て続けに研究室にいた仲間達が口を開く。

 全員、俺の仲のいい友人だが……説明が面倒なので、心を鬼にして友人A、B、C、Dとする。


 で、なぜ俺が来たかというと、もちろん卒論に取り組むためだ。

 ……いや、半分ウソですハイ。ただお喋りとお遊びをしに来たという部分もあります。


「ちょうどコーヒーが入っているから飲むかい友葉っち?」

「おおマジかワッキー。んじゃ飲もう――とはならないぞ死ぬわ!」

「え? ああそうだった! 牛乳系以外はアウトだったね」


 俺の置きっぱなしのマグカップに手を伸ばしたところで、ワッキーがハッとした表情で言う。


 そう、俺は【モーモーパワー】の影響で飲めないのだ。

 俺が探索者である事も、手に入れた【スキル】の事も。話の種として喋っていたので皆理解している。


「【モーモーパワー】だっけか? 名前は可愛らしいのにエゲつない制約だよな」

「その通り。飲んだ瞬間、ぶっ倒れて発熱するぜ友人Aよ」

「いや何だ友人Aって」


 俺は友人達といつものように喋り、自分の席に着くと過去の先輩達の卒論を見た。


 もう十二月後半。忌まわしきクリスマスもあと三日に迫り、時期的にも卒論の作成がいよいよ本格的に。

 ワッキーの有能さで研究はついこの間終わったので、あとはそれを纏めて教授の納得する卒論を書くのみ。


 と、そう分かっているのに俺といったらアホ大学生。

 何より情熱が探索者に向かっているので……。購買でカップラーメンを買って食った後は、六人揃って探索者の話に花を咲かせる。


「それで友葉っち。探索者をやってみてどうだい?」

「まあ楽しいかな。ちょっとグロいけど、頑張れば普通にバイトするより稼げるしさ。ワッキー達も俺みたいに内定取れてなかったら誘ったのに……」

「どうかなー。稼げて人気職業の一つと言っても、さすがに命を賭けんのはな」

「そうだし。それに友葉っちの話を聞くに、どれだけ【スキル】を『早く手に入れるか』でだいぶ生存率も効率も違うし」


 ダラダラと、卒論に手をつけずにだべる俺達。

 五人共に探索者になるつもりはないみたいだが、やはり興味自体はあるらしい。


「『横浜の迷宮』カ。たしか初心者向けだったヨナ。どうせなら『盛岡の迷宮』とカ『那覇の迷宮』にハ行かないのカ?」

「おいおい、どっちも日本有数の難関迷宮じゃないかよ。探索歴数日の新米は行かないって。つうか遠いし!」


 友人Bこと、中国からの留学生の質問に突っ込む俺。

 彼の口から出た『盛岡の迷宮』はシンプルに日本最難関、『那覇の迷宮』も迷宮内の環境が過酷過ぎて難易度が高いのだ。


 続いて友人Cが、器用にガ○プラを作りながら聞いてくる。


「僕はどれくらい稼いでるか聞きたいし。友葉っち、正直に若手芸人みたいに吐くんだし!」

「はいはい了解。昨日は五万超え、その前は三万超えだったよ。熟練探索者というか、凄腕の人なら一回の探索で五百万を軽く超えるらしいけど」


 俺は隠さず俺や探索者の稼ぐ金額を教えた。

 まあ、ネットで調べればすぐに探索者レベルに応じた相場は出てくるけど。


「うぬぬぬぬ、そりゃたしかに超稼げてるな。でもよ、やっぱり迷宮内で迷ったり大ケガをして動けなくなったら死を待つのみだろ?」


 今度は友人Dが、自分の事のように青ざめた顔で問うてくる。


「まあ、な。でも一応、厳しく出入りのチェックはされてるからな。二、三日も自力で生き延びれば、『例の部隊』が救出してくれると思うぞ」


 こちらもネットで調べればすぐ分かる情報だ。

 自衛隊のSAT(特殊急襲部隊)に並ぶ、迷宮専門の特殊部隊――『DRT』(迷宮救助部隊)。


 その実力はニュースでしか知らないが、熟練探索者にも劣らぬ人間離れした身体能力と【スキル】を持つらしい。


「なるほどなあ。ところで友葉っち、そんな危険な迷宮の中で、前に見せてくれた【モーモーパワー】はどれくらい持つんだい? ほら、ゲームとかだと色々ルールがあるしね」

「うむ、実は俺もよく分かってないんだけど……。とりあえず二時間以上発動しっぱなしでも全然問題ないな。切ってもまたすぐ使えるみたいだし……」


 ワッキーこと卒論の相棒の知的好奇心を受けて、俺は明確な答えを出せなかった。


 散々【スキル】に頼って戦うも、言われてみればそこら辺は正確に分かっていない。

 発動時間・発動回数・クールダウンに必要な時間。


 命懸けの探索の中で突然、支障が出たら困るので……これから要検証だな。


 その後、またしばらく探索者や迷宮の話をしてから、やっとそれぞれ卒論に取り掛かった。

 二時間ほどやってある程度進めて、その後は研究室に置いてあるテレビゲームに皆で興じる。


「そうだ友葉っち。今日は三年も集めて今年最後の飲み会をするけど、どうする?」

「あ、そういえば! ……悪い。今日は帰らないといけないんだよ」

「何だよー。また探索かよー」

「いや、ちょっと晩御飯を作ってやらないといけなくてさ」

「晩御飯を作ル? 友葉っちは一人暮らしなノニ……犬猫でも飼い始めたカ?」

「うん? あー……えっと、そうそうハムスターだ! ウチのアパートはペット禁止だからそれしか飼えなくて!」


 皆のジト目を一身に受けてなお、俺はペット、いやズク坊の存在は言わなかった。

 別に信用してないわけじゃないが、なるべく隠しておきたい事だしな。


【人語スキル】を覚えたミミズク。

 雪のような白い体に琥珀色のつぶらな瞳が可愛い上に、レアな【絶対嗅覚】まで覚えている。


 もはや断言できる。絶対、バレたら誘拐されると。


 ただでさえ喋る動物は大人気なのに、有用な【スキル】まであると知れたら大変だ。


 なので俺は、色々申し訳ないと思いつつも研究室を後にする。

 一応、謝罪の気持ちを形にして、飲み会費の足しにと五千円を渡しておいた。


 俺が命を賭けて稼いだお金、きっとアイツらなら有効活用してくれるだろう。


 そうして、チャリに乗って帰路につく途中で――俺は思い出す。


「おっといけね。帰る前にバナナと牛乳を買わないと。ズク坊のやつ、バナナシェイクを気に入ったみたいだしな!」

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