暖炉の中
田原にあんな大口を叩いたことを後悔したのは帰宅した直後だった。もう後の祭りだが。
しかし、僕だって男だ。武士に二言はない。
現在僕は有言実行する為に風呂場で湯に浸かりながらヴァルクロにログインしたスマホをいじっている。攻略本と課金に勝つにはとにかく相手より長い時間プレイする他ないという結論に至った結果だ。
ヴァルクロは僕の誇りなのだ。一秒でも早く田原からクラスナンバー1の座を取り返さなければ。
「よし、まずは雑魚撃破」
小さく呟きながら目を押さえる。あまり長時間ブルーライトを浴びていた為に眼球が痛くなってしまったのだ。
少しの間目を休めようと、瞼を下ろして上を向く。
「…今日はここまでかな」
少しの間の休憩だけのつもりでいたが、キリのいい所までストーリーは進んだし、気付いたら身体から大量の汗を吹いている、もう今日は限界だろう。
数秒たって目を開け、湯船から身体を上げようとする。しかし、
「_______あれ!?」
大事に握っていた筈のスマホが手元にない。浴室を見渡してもそれらしき物は見当たらない。
最悪のシナリオを想像すると…
「……………湯船に落とした?」
だとしたら一大事だ。咄嗟にに湯の中に顔を突っ込む。瞼を上げると______________水は黒かった。
丸めているはずの身体も大の字に近い体制になっている感覚だ。全身に力が入らない。
………何が起こった?
この状況に脳が追いつかない。そこまでで、僕の意識は途絶えた。
視界に光が戻った場所は、とても狭い場所のようだった。
「…え、どこ?」
いきなりの眩しさに、あまり目が働かない。ゆっくり身体を起こすと、ドッという鈍い音が聞こえると同時に頭にジ-ンという痛み走った。後ろに頭をぶつけたらしい。
光に目が慣れてくると、スイスのお洒落な洋風ハウスのリビングの様なものが見えてきた。
この状況を確認する為狭い場所から出ようと態勢を整える。と、慣れている触り心地の物が手に触れた。
「あった!僕のスマホ!」
濡れてはいない様だが、固唾を飲みながら電源ボタンを押してみる。いつも通りのロック画面が表示され、僕は胸をホッと撫で下ろした。すると
「ウワァァァアァァァア!?不、不審者!?」
耳がキーンとする様な高い声が耳を刺した。悲鳴が聞こえる方へ顔を向けると、金髪青目の美少年がこちらを指差しながら震えている。見たところ僕と同い年位だ。
少年は僕と目があったと分かった途端「ゥ、ウワァワアアヮ」とうめきながらジリジリと後退りする。
変な誤解をされても困るので、手を上げながら狭い場所を出る。どうやらそこは暖炉だったらしい。火が付いてなくてラッキーだった。
と、そこで僕は重要な事に気付いた。
______________僕、全裸だった。
そういえば入浴中だった。何故か身体は綺麗に乾いているが。
しかしこの状況、この少年からしたらとんだ災難だろう。
自宅の暖炉に全裸で端末を握りしめた少年が現れ、自分に向かって歩いてきたのだ。
僕なら即通報していたか、恐怖のあまり固まってしまっただろう。この少年の場合後者の様だ。
少年から誤解を解くにはどうしたら良いだろう。まずは警戒心を解してもらわねば。
しかしその前に….
「服、借してもらえるかな?」