表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花園で笑う  作者: 宮澤花
第2部 忍
92/211

2 波紋 -4-

「ええと。他には何か、ありませんか」

 杏子お姉さまが場をとりなすように言う。


 と。三年の穂乃花お姉さまが、手を挙げた。

 上級生のお姉さまの手前、言葉遣いは丁寧だが。穂乃花お姉さまは、いつも厳しい意見を言う方だ。

「これは由々しい事態だと思います。そこで提案ですが。我が校の風紀を守るために、私たちは委員として目を光らせ、規則違反の物や疑惑を抱かれるような物を見かけたらその場で没収、先生方への報告をするべきではないでしょうか」


 この発言は、教室をざわめかせた。

「反対」

 即座に小百合お姉さまが言った。

「姉妹どうしで監視し合うとか。私はイヤだね。そんなことしないよ」

「でも、お姉さま。それが風紀委員としての義務だと思いません?」


 そう言う穂乃花お姉さまを。

 小百合お姉さまは、真っ向からにらみ返した。


「思わない。そんなもん使うな、ってことは言うよ。本人のためにもならないし。持ってたら出せ、って言うのもいい。薬やってると思えば、注意もするよ。でもそれって、姉妹同士なら当たり前のことだろ。風紀委員だからどうだって問題じゃないよ。むしろ、風紀委員だから特別の権限を持つってのは、おかしいと思う」


 穂乃花お姉さまは。ギュッと唇をかみしめた。

「私は、ただ。それがみんなのためになると思って」

「ああ。別に、アンタの気持ちを疑ってるわけじゃないよ」

 小百合お姉さまは言った。

「ただ、私は反対。もし、やると決まっても、抜けさせてもらう」


「小百合お姉さま。それは風紀委員として、職務怠慢になります」

 杏子お姉さまがやんわりと言う。

「別にいいよ。それで委員を首になっても、呼び出し食らっても、私はやりたくないことはやらない」

 小百合お姉さまはそっぽを向いた。


「では」

 十津見先生の、凍るような声が後ろからした。

「出て行きなさい、白濱小百合。六年松組は、直ちに新しい風紀委員を選出するように。それを伝えるのが、君の最後の仕事ということになるな」


 小百合お姉さまは黙って立ち上がった。

「分かりました。じゃ、そういうことで。お世話になりました」

 そのまま。まっすぐに出口に向かう。


 穂乃花お姉さまがそれを見て、一瞬。得意そうに肩をそびやかす。

 茶色のボブが揺れた時。

 腐臭が漂ったような気がした。


 思わず、忍は顔をしかめ、手で鼻を覆う。

 辺りを見回す。だが、誰も気付いていないようだ。

 あの時と、同じだ。小林さんの時と。誰にも届かない腐臭を、忍だけが嗅いでいた。


 ダメだ。一度気付いてしまうと、どんどん気分が悪くなる。

 悪臭は教室に充満し。粘膜を塞いで忍の呼吸を妨げる。息苦しくて息苦しくて。座っていることさえ、困難になる。


 視界の中で、ドアの横に立った小百合お姉さまが振り返り。一礼してから教室を出て行く。

 待って。ドアを閉めないで。ここに閉じ込められるのは辛い。


 その一幕で起きたざわめきは、先生の咳払いで収められて。

 杏子お姉さまの進行で、また話し合いが始まったけれど。

 忍はもう、集中できなかった。教室にいるだけで、精一杯だった。


 穂乃花お姉さまの提案については、その後、多少の議論があったが。

 結局、怪しいものを見かけた際には即座に教職員に報告することになり。緊急の場合には、風紀委員に生徒の私物の没収権限を持たせることを生徒会に提案することに決まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ