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花園で笑う  作者: 宮澤花
第2部 忍
91/211

2 波紋 -3-

 後期初日なので授業はなく、いろいろな注意事項の後、昼前に学校はおしまいになった。

 みんなは寮に向かったが、忍は風紀委員のミーティングのため三年梅組の教室に向かった。風紀委員会は時間に厳格だ。予定の時間前には全員が集まり、速やかにミーティングが始まった。

 委員長である、五年生の杏子お姉さまが教壇に立つ。ちなみに、彼女の名前は『杏子』と書いてANNE、『あん』と読む。


「我が校の生徒から、薬物使用の疑惑が出たことは大変遺憾なことです」

 杏子お姉さまは言った。

「学校側がプリントを作成したので、これを明日のホームルームで全員に配布してください。香りのあるものは、当分一切禁止です。特に、アロマオイルやお香は絶対持ち込み禁止。この辺りを、改めて各クラスで注意してください。それから、これからの風紀委員の活動について、皆さんの意見を求めたいのですけれど」


 しばらく沈黙が落ちる。みんな、お互いの顔をチラチラと見つめるが、何も言わない。

 やがて。

「ちょっと、質問なんだけど」

 六年松組の、小百合お姉さまが手を挙げた。この人はお姉ちゃんの友達で、長期休暇に家に遊びに来たこともある。

「あのさあ。香りのあるものって、何か意味あるの? うちの寮でも、軒並み没収食らってみんなカンカンなんだけど。その辺、説明してもらえないと、私も他のヤツらに話できない」

 何人かが、ウンウン、とうなずいた。


 そして。

 杏子お姉さまの目が、助けを求めるように。

 小百合お姉さまの目は、返答を求めて。

 後ろに座っている、十津見先生の方に向かう。


「詳細は、これから配布してもらうプリントに記してある。それを読めばわかることだが」

 先生は、ぶっきらぼうに言った。

「まあ、簡単に教えておこう。小林夏希の持ち物から見つかったのは、燃やして煙を吸引するタイプの薬物だ。香の形など、もっとも怪しい。没収し、いつでも警察に提出できるようにしておく必要があるだろう。あちらとしては、彼女がどうやってそれを摂取することになったのか、それを探りたいのだからな」


「けど、先生」

 小百合お姉さまは食い下がった。

「関係ないものまで没収することないじゃん。お茶とか、薬とか。範囲が広すぎると思うんだけど」

 その言葉に。十津見先生の眉間に、皺が寄る。

「白濱小百合。君は、バカか?」

 言われて。今度は小百合お姉さまが、口をぽかんと開けた。


「薬物はどんな形で頒布されているか分からん。小林夏希の体から見つかったものは吸引されたものだが、それ以外にも経口摂取のものや、注射で取り入れるものもあるかもしれん。だから、怪しげなものは没収する。それが当たり前ではないのか」


 小百合お姉さまはむむむとうなって、それから。

「けど。明らかに無害なものは……」

 と言いかけた途中で。


「それでは尋ねるが。君は何をもって、それが無害だと判断する?」

 先生の冷たい声が遮った。

「薬の箱の中身は有害なものに入れ替えられているかもしれない。ティーバッグの中身が、問題ない物だとどうして分かる。判別する方法があるのなら、ぜひ教えてもらいたいな。そうすればもちろん、生徒たちに無駄な心労をかけることはないし、我々の仕事も少なくて済む」

 眼鏡の奥で。先生の目が、嘲うように細くなる。

「もっとも、超能力者か、薬を流している本人でもなければ判別はつかないと私は思うが。君はそうなのか、白濱小百合」


 小百合お姉さまは、拳を握りしめて、ぐぐぐ、とうなり。

 そのまま、前を向いて席に座った。


 近くにいた忍には。

「コロス。アイツ、いつかコロス」

 という物騒な呟きが聞こえたような気もしたが。聞かなかったことにしよう、と思った。



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