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花園で笑う  作者: 宮澤花
第1部 千草
8/211

2 百花園の三魔女 -1-

 翌日は、朝から母に追及を受ける。

 細かいことは話さず、『婚約を決めた』こと、『家柄の確かな人である』こと、『詳しいことは淑子叔母さんが知っている』こと、を話して早々に離脱。これで、とりあえず母の矛先は叔母さんに向くはず。

 私と克己さんが婚約したと知ったら、叔母さん叔父さんは勇んで介入して来ようとするだろうが。その辺は、克己さんに対処してもらおう。矢崎の叔父さんが、あの人に太刀打ちできるとは思えないし。

 で、早々に離脱。家にいると面倒なので、確認がてら『北堀運命鑑定所』へ向かう。

 一晩明けたら『昨日は酔ってました』なんて言われたら、洒落にならない。


 ノックをしても返事がないのでドアを開けてみたら、克己さんは電話をしている最中だった。

「ええ。分かっています、だから手を打たなくてはならない。相手は強くなっていますから。もちろん、全力を尽くしていますよ」

 私に気付いた彼は、入れ、とジェスチャーする。素直に中に入り、ソファーに腰掛けて電話が終わるのを待った。複雑な要件らしく、少し時間がかかった。


「すみませんね。今日は仕事で忙しい」

 克己さんは言った。

「ちょっと出かけて来ないといけないですが、どうしますか?」

 どう、というのは何かと思ったら、自分が帰ってくるまでここで待つか、ということだった。

 家に帰るのも面倒なので、待ちますと言った。

「それじゃあ、好きにしてください。仕事の資料はいじらないでくれれば、何をしていてもいいです」

 そう言って、さっさと出かけてしまった。不用心なこと極まりないな! 私が不逞の輩だったらどうするんだろう。


 まあ、別にそういうわけではないので、棚にある本などを適当に読んで過ごす。哲学、古典などの本が結構あった。

 昼過ぎに克己さんが帰って来て、二人で食事に出た。

「結納の件、兄に頼んでおきましたから」

 と言われた。

 公園などをだらだらと散歩して、その日は夕方に別れた。私は、次の日から百花園の寮に戻ることを話した。克己さんは「そうですか」とだけ言った。何かほかのことに気を取られている感じだった。



 そして月曜日。早々に、妹と一緒に家を出て百花園に向かう。

 電車で二時間ほどの距離だ。荷物が多いので、祝日とはいえラッシュ時は避けた。

 母は最後まで結婚のことをぶうぶう言っていたが、父が帰って来てからちゃんと紹介するから、となだめ。結納品が届いたら受け取ってくれるように頼んだ。

 いや、当事者不在の時に結納品が届くのもどうなのかという気もするが。その辺、どういう段取りになっているのか、私はおろか克己さんもよく分かっていない。すべてお兄さんまかせである。更にどうなのかという感じだが。


 何だか、そんなことを考えているうちに、あっという間に電車は学校の最寄駅に着いてしまった。妹も、何か考えていることがあるらしく、あまり話さなかった。まあ、元から忍はあまり話し好きな子ではないのだけれど。

 忍はいい子なのだが。そういうところで誤解されやすいのか、小学校の時のクラスメートとあまりうまくいっていないようだった。なので、私が百花園を受験することを勧めたのだ。

 入学してからは、特に問題もないようだ。ひと安心である。


 駅からてくてく歩いて二十分。我が百花園女学院に到着である。

 広々とした前庭には季節の花が咲き乱れ、美しい校舎のフォルム、チャペルに講堂などを校門から望むことが出来る。

 ここで忍とは別れた。百花園には四つの寮があり、生徒は必ずそのどこかに所属するが、家族の者は同じ寮に入ることは出来ない。私は桜花寮、忍は柊実寮という寮に入っている。

 ちなみに他には藤花寮と楓葉寮があり、それぞれ『サクラ』『フジ』『カエデ』『ヒイラギ』と通称されている。


 そうして、小一時間ほど後には。私は寮の自室で、悪友たちと顔を合わせていた。

「げー。マジかよソレ。お前正気か、千草」

 お嬢様学校の生徒にあるまじき乱暴な口調で言ったのは、私と同室の白濱小百合。口調のとおり、ガサツで粗暴な女子である。

「小百合さん。そんな言い方をしなくても。千草さんにもついに春が訪れたということで、お祝いして上げなきゃと思いますよ」

 おっとりと、小百合と対照的なお嬢様口調で話すのは、隣室の瀧澤撫子。室町時代から続く武家の末裔とかの、本気のお嬢様である。


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