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花園で笑う  作者: 宮澤花
第1部 千草
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15 放課後の挑戦 -1-

 気分を切り替えて、実行委員会に顔を出す。本番は明日からだから、もう実行委員はしっちゃかめっちゃかだ。

 とりあえず、天気予報は今日から三日間快晴だから、今のうちに校門前に受け付け用のテントを組み上げてしまおうという話になっていた。

 ちなみに、テントも、受け付け用の机や椅子も、全部女子のみで運ぶ。


 噂によれば、共学校には進んで力仕事をやってくれる男子なる生き物がいるそうであるが。百花園にはそんな便利な生物はいない。

 男の先生方も、ある者(吉住先生)は「ガンバレー」と他人事のように応援し、ある者(十津見)は冷笑のみで去る。

 だから、頼れるのは自分たちしかないのである。


「さあ、皆さん。頑張りましょう!」

 委員長の三田村心のかけ声で、折り畳み机の周りに少女たちが集まる。男子であれば一人か二人で一台を運べるそうだが、私たちは可能な限り人数を集める。

 なので、一台あたりに十人くらい女の子が集まっている。

「まいりますよ!」

 号令と共に、ゆっくりゆっくり、亀の歩みで進んでいく。


 校門は遠い。無駄に遠い。

 会議室から廊下を歩き、階段を下り、昇降口を経て、前庭を通り過ぎ、トドメに坂道を下る。土地の無駄遣いである。もっとコンパクトにまとめられなかったのか。特に、最後の坂イラナイ。途中で休み休み、時間をかけて校門前までたどり着いた。


 まだである。次は、テントの部品を運ぶために、半数の子が倉庫まで戻っていく。

 私たちは残って、折り畳み机を組み上げた。これも数人がかりでやる。

 テントの組み立てでまたひと騒動。毎年必ず、一度は倒れるのがお約束である。ケガ人だけは出さないよう、十二分に気を付けて作業を進める。

 大変だが、やり切ってしまうと妙な達成感があるのだった。何だ、私たち出来るじゃん。男なんか要らないじゃん。みたいな。


「これで設営はひと安心ね」

 私は、出来上がった受付をほれぼれと眺めた。

「風が強くならないといいんですが」

 三田村心は、神経質に言った。スマホを操作している。

「天気予報は穏やかだったじゃない?」

「でも、西の方に大きな台風が上陸しそうだって。だから、急に予報が変わったらと思うと、気が気でなくて」


「そうねえ」

 私は一応、うなずくが。

 たとえ、明日の朝、このテントが風で倒れていたとしても。ここに物があるのだから、設営し直せばいいだけの話である。今のような、運んでくる苦労はない。


「とりあえず、テントの脚に石を載せて補強しておきましょうか」

 と提案してみる。

 百花園女学院校門脇には、こういう時のため、あちこちの植栽の陰に女生徒でも持てるくらいの石やコンクリート片が常備されているのである。


「ぎゃー! 石の下に虫が! キモい!」

「気持ち悪いとおっしゃい」

「トカゲもいたー!」

 とか、大騒ぎしながら補強作業を終了。テントの足元部分にやたら石が乗っていて、ちょっと見栄えは悪いが。実用優先で行こう、うむ。


「案内や、招待券のモギリ用の箱なんかは明日の朝に運べばいいわね」

「後は、各クラスの出し物の準備状況の確認が必要ですね」

「当日の分担も各自確認しておいて」

 実行委員の仕事は多いのである。


 とはいえ、六年の私たちはお姉さま特権で割と軽い仕事を当てられている。

 私は午前中は受付担当、午後の自由時間を経てその後は他の子と組んで巡回パトロール担当。


 で、会議室に戻って。一緒に担当する子たちと受付の準備を済ませたら、ヒマになった。

 他の子たちは、あちこちのクラスに準備状況を確認する仕事を割り振られているが。六年生には振りにくかったのか、私は何も言われてない。どうしようかな、自主的に見回りをするか? と思った時。

 携帯が鳴った。


 また母か。ウンザリして画面を見ると。

 北堀克己、という名前が躍っていた。


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