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花園で笑う  作者: 宮澤花
第1部 千草
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1 運命の出会いとは、かくあるものか -5-

 それから私は、克己さんの家に行った。いきなり、相手の家とか緊張するし、いいのかとも思うが。

「君は僕の妻でしょう。僕の家に一緒に帰るのは当たり前です」

 と言われると断れないし。


 お坊ちゃまだし、てっきり実家だと思っていたら、連れて行かれたのは古いビルだった。

 下の階には流行っていなさそうな歯医者とか、人気の少ないコンビニが入っている。上の方は法律事務所とか、何をやってるんだかよく分からない会社の事務所のようだ。

 動くのかどうか心配な、旧式の狭いエレベーターに二人で乗った。動作が遅い上に、なんだかガタガタいう。これ、途中で停まらないだろうな。


「ええと、千草さんは僕のことをどのくらい知っているのかなあ」

 聞かれて、私は釣り書きに書いてあったことを暗誦した。

 名前、生年月日、学歴、身長、家族の名前、職業。(ちなみに、お母さんは専業主婦、兄弟はお兄さんが二人、一番上のお兄さんは政治家秘書で、二番目のお兄さんは商社勤め。二人とも既婚)


「そうか。それなら教えておきます。この建物と土地が僕の唯一の財産でね。親父は、僕には遺産は渡さないそうです。遺言状も作成済みだそうだ」

「そうですか」

 私は言った。


 どうやら、いろんな意味で克己さんは、淑子叔母さんの思惑には当てはまりそうもない人だ。

 叔母さん、私が克己さんと結婚しても、北堀代議士の遺産は手に入らないそうですよ。事前サーチはしっかりやってね。


「驚きましたか?」

 そう、克己さんは少し冷たい調子で言う。

「そうですね」

 私はうなずいた。それから考える。

「建物はともかく、土地だけでも売れば相当の額になるでしょうから、悪くはないのではないですか」

 この場所は都心から近いし、駅も近い。物件としては悪くないと思う。そのくらいは、女子高生にも分かる。


「それだけですか」

「建物も、建っている間は家賃収入が見込めそうですね。建て直すとなったら、大変かもしれませんけど」

 克己さんは笑った。

「千草さんは、本当に面白いですね」


 最上階に着く。エレベーターを出ると、狭くて短い、暗いホールになっており。左側には、個人の家らしいドア。

 右側には。

「ここが僕の事務所兼住所です」

「はあ」

 私は、看板を眺めた。

 《北堀運命鑑定所》という、黒々とした墨字が、そこに躍っている。


「克己さん。お仕事というのは」

「占い師です。この仕事をやると言ったら、父に勘当されたんですよ」

 私は、成程と思った。


 自由業とは聞いていたが、こう来たか。それは代議士先生のお父様は、気に食わなかろう。そして、お家柄に合うような縁談も来ないわ。

 しかも見るからに、流行っている感じはしない。どうやら、私たちの将来の生活は、この古ビルと土地の資産運用にかかっているとみた。


 克己さんが鍵を開けて、中に入る。

 部屋の真ん中に、申し訳という感じの応接セットが一組。テレビや何かが置いてあるところを見ると、リビングも兼ねている感じである。その横は広々としたオープンキッチンになっていた。


 克己さんは、長い脚で大股に応接セットの脇を通り過ぎ、部屋の隅にあったくずかごのところでかがみこんだ。

「ああ、これだな、きっと」

 大きめの封筒をその中から救出する。開封もされずに、放り込まれていたそれは、どうやら。


「やっぱりそうだ。ふうん、成程。赤い振袖ですね」

 十六の誕生日に撮った振袖写真が、私の見合い用として各地に流出しているものである。

 まあ、確かに赤いけど。キレイとかカワイイとかいう表現はないのだろうか。振袖が赤い。そんなことは、言われなくても私も知っている。


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