1 運命の出会いとは、かくあるものか -4-
「それじゃあ、君。えーと」
「千草です。雪ノ下千草」
もう一度名乗る。
どうでもいいが、プロポーズした後で名前を確かめるって、いろいろメチャクチャだな、手順が。
「そうか。まあ、苗字はいいです。どうせ変わるんだから。じゃあ、千草さん」
「はい」
どうせ変わるんだからいいっていうのもどうかと思うが。
まあ、多くをツッコむまい。
「まず、その中の物を見せてくれますか?」
北堀さんは、いや婚約したのだから克己さんと言うべきか。克己さんは、私の持っている紙袋を指して、そう言った。
「これですか?」
私はキョトンとする。
「いいですけど」
店のシールを外して、中を見せる。マドレーヌとフィナンシェと、クッキーが三袋。クッキーは学校の友達への、それ以外は家族へのおみやげだ。
克己さんはそれを、穴が開くほど見つめた。
それから叫んだ。
「しまった! 君じゃなかったのか!」
何だ。何だ何だ。
「あの、克己さん? 私じゃないとは、どういうことですか?」
今さら、婚約破棄とか言わないでもらいたい。その場合、それなりの手続きを踏んでもらいますよ!
「結婚のことで何か?」
少し疑うような口調になる自分。
「いや、そうじゃない。結婚のことは、それでいいんです。いや、しかし」
それでいいのか。なら、いいんだけど。
克己さんの、元々白かった顔は更に青くなって。かなり狼狽している様子なのが、見て取れた。
「何か、あったんですか?」
いや、聞くまでもない。あったのだろう。何か、重大なことが。そのことに、私が関わっている?
「あの。私、何かご迷惑をおかけしたのですか」
心配になって訊ねると、克己さんは首を横に振った。
「いや、君のせいじゃない。僕のミスです。制服を見て、思い込んでしまった」
呟くように言う。
私は、自分の着ているものを見下ろす。
「あの。百花園の制服が、何か?」
「いや、大したことじゃありません。気にしなくていい」
ようやく、少し落ち着きを取り戻した様子で。克己さんは言った。
「どちらにしても、もう間に合わない」
その背後を。
サイレンを鳴らしながら、パトカーと救急車が通っていった。