9 百花園生気質 -3-
「二人に横のつながりがあった、という考えは捨てた方が良さそうね」
私はつぶやいた。
次々に刺された女の子たち。関連性があると考えるのがフツウだが。二人に親交があった、というわけではないのかもしれない。
被害者の共通項。それは結局、犯人が決めることだ。
切り裂きジャックの被害者たちは娼婦だった。
それは、犯人が娼婦に対して何らかの悪意を持つ理由があったのか。単に、夜に独り歩きしている無力な存在だったからなのか。謎である。
ある日あの時、同じ場所にいた、という共通項だけで、無差別殺人の被害者になる人たちもいる。
この学校で援助交際が広がっていることは分かっているが、それと事件の関連は分からない。
二人とも薬物を所持していたから、それは関わりがあるかもしれない。
だけどまだ。犯人が被害者を選ぶ共通項に、私はたどり着けないでいる。妹が。事件の全体図の中で、どんな位置にいるのかということも。
「結局。一週間経ったけど、あんまり進んでないな」
ずっと黙っていた小百合が。無慈悲に現状を総括した。
「簡単には分からないということが分かったじゃない」
私は言い返す。負け惜しみであるのは自覚している。
「とにかく、薬物の入手経路を何としてもつきとめないといけないわね。援交をやっている子たちが必ずしもそれを知っているとは限らないけど。それらしい子を見つけて、片っ端からマーク。尻尾をつかんで問い詰める。そんな方法でいくしかないわね」
「乱暴だな」
小百合が目を丸くする。いや、普段竹刀で他校の男子をぶっ叩いている小百合に言われたくない。
「撫子。よろしく」
「それらしい子ねえ。まあ、何とかやってみるけど」
情報探しはプロに任せるに限るので、彼女に何とかやってもらおう。
それから。何となく、不満そうな顔をしている撫子にニヤリ、と笑いかける。
「言ってもいいわよ?」
「何?」
「アンタが、初めから言いたくてたまらなくて、でも言えてない話。話したかったら、聞いてあげるわよ? どんな話を仕入れて来たの?」
撫子に、言いたくてたまらないネタがあるのは初めから分かっていたが。私の質問が、それにかすりもしないらしいので、彼女の表情はどんどん不満そうになっていったのだ。
何を仕入れて来たのか知らないが。面白い話には違いないのだろう。
撫子はしばらく葛藤していた。
情報は情報と交換すべし。それが彼女のスタンスで、取り上げるべき情報もないのに一方的に話をするのは、かなり抵抗があったようだが。
どうしても話したくてたまらなかったのだろう。最後には、諦めたようにため息をついた。
「仕方ないわね。そんなに言うならお話しするわ」
そんなに言ってないけどね。
「きっと、すぐに噂になるでしょうし。お二人はお友だちだし、千草さんには他人事じゃないのだから、先に教えておくわね」
目に、チラリと意地悪い光が浮かぶ。
何だ? 私は警戒する。私の悪口の類だろうか。そんな弱みを握られた覚えはないんだけど。
「それがね。忍さんのことなの」
ドキッとする。
「忍が、どうかしたの」
私の声は厳しくなった。
自分のことなら、まあいい。でも、あの子のことになると。私がしてやれることは、限られている。
「センセーショナルな話だから、もう噂になっているかもしれないのだけど」
撫子は声を落とす。嘘つけ。学校中で一番耳が早いのはアンタなんだから。大部分の人はまだ知らない話だ、きっと。
「志穂さんから聞きだしたのだけれど。あの子たち、小林さんのお通夜の次の日、学校で忍さんを問い詰めたのですって。知っていることがあるなら言え、って」
私は眉を上げる。不穏な話だ。
一年竹組は。小林夏希に近しかった子たちは。私の想像以上に、殺気立っているようだ。
「それでね。話がこじれてね。小林さんのルームメイトだった子が、忍さんを突き落しちゃったんですって、階段の踊り場から、下へ」
「えっ」
私はギョッとする。それでは忍は、ケガをしたんじゃないか。
何の連絡も来ていないが。忍が病院に行くようなケガをしたとしたら、身内である私にも連絡が来るはずなのに。
ああ、いや。
小林千夏の通夜、と言えば。先週のうちのことだろう。
だったら、忍は大丈夫なはずだ。百花祭の出し物の主演をまかされて、というか、押し付けられているくらいだもの。
混乱している私の前で、撫子はうふふ、と笑った。
人の妹の一大事に、何と言う不謹慎な女か。
「それがね。聞いてちょうだいな、千草さん、小百合さん。忍さんが転落したところにね。ちょうど十津見先生が居合わせて、抱きとめて助けて下さったのですって。これはもう、噂にならない方がおかしくてよ」




