9 百花園生気質 -2-
私は情報を咀嚼する。
小林夏希は元々神経質なタイプで、百花園にあまりなじんではいなかった。その傾向は、時間が経てば経つほど強くなった。
新しい環境に慣れて不安が軽減されることはなく、むしろ強まった。どうして?
まずは、考えられるのは薬物の件だ。その頃、既に彼女が中毒者になっていたなら。周りの生徒や教師に知られてはならないと、以前より神経質になっただろうと思う。薬自体の効果や、禁断症状による感情の乱れもあったのではないか。
明らかにはされていないけれど、彼女も花売りをしていたのなら。それは余計に、不安を強めたはずだ。
さて、次に聞くべきことは?
「うちの妹と、夏希さんがどうして不仲になったかは分かったの?」
今度は違う角度から攻めてみよう。
あの時の忍の口調。何かを知っているように感じられた。
二人は不仲だった。夏希が死んでも、志穂たち友人がそれを引き継ぐほどの確執だった。
「あら、それ」
撫子はちょっと残念そうに様子だった。
「それねえ。実は、やっぱりよく分からないのよ。とにかく、夏希さんは『アイツは目障りだ』の一点張りだったらしいのね。それで、志穂さんたちは、こう考えていたの。夏希さんの気持ちを乱しているのは忍さんだ、って。そしてねえ」
ピンクの舌がのぞいて。唇を、ぺろりとなめた。リアル舌なめずりというヤツだ。
男子だったら、もしかしたらエロいと思うのかもしれないが。
同性として、今、この場面でそんな動作を見せつけられるのは、正直キモい。
「証拠を見つけたんですって。夏希さんが死んだ後に。お通夜に行った時に、夏希さんのお母さんが日記を見せてくれたそうなのよ。そこには、『秘密を知っているヤツがいる、何とかして黙らせなきゃ』って、何度も書いてあったのですって。ね、分かるでしょ。それで志穂さんたちは」
「それが忍だ、と考えたわけね」
私は話を引き取る。撫子は嬉しそうにうなずいた。
「脅迫してた、って、そう思ってるみたいなの。ね、どうお思いになる、千草さん。忍さんって、そういうことをなさるような子なのかしら」
ウルサイな! 何でヒトんちの妹のことを、目の前でそんな風に言えるんだ。コイツの感性は、絶対にどこかぶっ壊れている。
そう思うが。
その質問に即座に回答できない自分に、私は歯噛みする。
私は、六年前にこの桜花寮に入った。以来、一年のほとんどを忍とは別に暮らしてきた。
長期休暇で家に帰っても、忍の方が父方の祖母のところに行っていたり。私と妹が一緒に過ごした時間は、とても短いのだ。
私は。自分の妹がどんな人間なのか、あまりよく知らない。
そんなことない、と信じたい気持ちとは別に。
客観的に言って、それが事実なのだ。
「じゃあ、最後の質問」
私は、撫子の問いかけをスルーして、次の質問をした。
「小林夏希と大森穂乃花の関係は?」
「二人ともテニス部よ」
撫子は言った。うん、それは前にも聞いた。
「特に仲良くはなかったみたい。テニス部って、部員多いし。仲のいい人や、実力順で分けるメンバー同士で固まるみたいなのね。
夏希さんたちは初心者。穂乃花さんは試合に出られるかギリギリのクラス。で、一緒に練習することもほとんどなかったそうよ」
それも、前に聞いたこととあまり変わりがない。
ジロリと見ると。
「私だって、あの手この手で聞きだそうとしてみたのよ」
撫子は言い訳がましく言う。
「でも、志穂さんにとって穂乃花さんはどうでもいい存在みたい。千草さんや忍さんについての悪口はいっぱい出て来たけれど、穂乃花さんについてはね。『穂乃花お姉さまも刺されたんですよね、怖い。誰か百花園生を狙っているのかしら』と、それだけなの。特に、夏希さんと穂乃花さんが話したりしていたこともないみたい」
残念だが、本当に何も出なかった様子だ。




