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断章 妖精 -1-
うふふ。
街を、歩く、軽い、足どりで。
私は/僕は/俺は/アタシは。
誰でもあって誰でもない。
この世のどこにも存在しない。
誰でもあって誰でもない。
唯一の、I/je/我/yo/Я。
この世界にひしめく、人間たちとは違うの。
僕が住むのは夢の領域。
そう、私は、僕は、俺は、アタシは、今日。
人の姿で、歩く、この街を。
夢が現実にかたちどられて。
誰からも見える姿で、歩く、人に、まぎれて。
だって、契約が。
破られようとしているのだから。
私と/僕と/アタシと/俺との、契約が。
約束した。約束したんだよ。
それは誓い。
人間同士の、儚い約束とは違う。
妖精の契約は、絶対なのだから。
だからね、ダメでしょう。
破ることなんて出来ないの。
死が二人を分かつまで。
続くんだって、言っただろう?
だから、俺は/私は/僕は/アタシは。
あの子の傍に忍び寄り。
いつものように笑顔を向けて。
空飛ぶ翅を、むしり取る。