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花園で笑う  作者: 宮澤花
第1部 千草
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8 第二の事件 -3-

 予感は当たった。

 一時間目は、いきなり緊急集会。今日は理事長ではなく、校長先生が壇上に立つ。

「停学処分で自宅謹慎中だった我が校の生徒が、昨日夕方何者かに刃物で襲われ、重傷を負いました」

 一瞬の沈黙。そして講堂がざわめく。


 私も愕然とする。

 停学処分で自宅謹慎中だった生徒。それはあの、大森穂乃花ではないか。


「先日の事件との関わりがあるかどうかは現在、警察が捜査中です。しかし、我が学院の生徒を狙った無差別事件の可能性もあります。生徒の皆さんは十分注意して生活をしてください」

 被害に遭った生徒、つまり大森穂乃花は、今は意識の戻らない状態で病院で手当てを受けているという。

 そして悲しむべきことに(と校長先生は言った)、彼女の荷物からまたしても薬物が発見されたそうだ。


 こんなことが続いたことに、大変心を痛めています、とおっしゃる校長先生。

 それは殺傷事件が続いていることなのか、生徒の薬物所持が次々に判明したことなのか。多分、両方なんだろう。


 更に。

「皆さんの安全を守るため、犯人が捕まるまで校外への外出は許可制とします。今週末に予定している百花祭も、招待者だけを受け容れることと致します。例年のように大勢のお客さんをお迎えすることが出来ないのは残念ですが、皆さんが楽しめるような学院祭になるよう頑張ってもらいたいと思います。皆さんのご家族には、学校から招待券と同時に詳しいお知らせをお送りします。もちろん、この件について個別に連絡していただいて結構です」

 とのお言葉。


 つまり、なるべく早く保護者に「学校は安全対策を行っている」旨を通知しろ、と。

 その後は例によって、傷を負った女生徒、つまり大森穂乃花の回復を皆でお祈りした。


 続けて十津見から、外出の許可制に対する詳しい説明が。

 それによれば。基本的に教職員の付き添いなしでの外出はダメで、必要に応じて担任に届け出、教職員が審査した上で許可不許可が決まる、という。

 例外的に、近所の商店街への短時間の外出は日没までなら生徒のみで可能だが、それも必要最低限に限る許可制。一人歩きは厳禁、とのこと。

 事実上、全生徒を校内に閉じ込める。そういうことらしい。


 最悪。犯人、何してくれとるんだ。こういうことを避けたくて、自分なりに動いていたのに。結局、何も出来ていない。

 それどころか、また犠牲者が出た。先週の金曜日、話したばかりの下級生。

 あの時は、あんなに近くにいたのに。みすみす手を離してしまった。


 たったひとりの女子高生に出来ることなんか、何もないということが身に染みて。

「手を引きなさい」

 と言った声が耳に蘇って。また、胸が痛くなる。


 吉住先生からも、改めて百花祭を盛り上げていこうというお言葉が。

 風紀委員と学院祭実行委員にそれぞれ放課後招集がかかって、緊急集会は終わりになった。



 気分が重いまま、その日の授業をこなし。クラスの出し物の責任者に、選んだダンテの詩句と追悼文の草稿を渡して後を頼み、自分は実行委員会へ。

 先日の私のアドバイスに従って、大量のクラスと部活から新しい企画書が提出されていた。

 

 本来、委員が審査して吉住先生に渡し、吉住先生がチェックした後職員会議にかける、というのが筋なのだが。

 時間がないので委員会での審査と吉住先生のチェックを同時に行う。そして、先生も含めて全員焦っているので、審査は結構ザル状態である。


 それでもさすがに。例のアレは、議論を呼んだ。

「うーむ。サロメかあ」

 吉住先生が腕を組み、背中を椅子にもたれさせて考え込む。

「違います。『洗礼者の殉教』です」

 星野志穂は言い張った。


 確かに、私のアドバイス通りヨハネが主人公で、恋愛要素低めの殉教劇に直して来てある。短時間でこれを成し遂げた、台本作成者に拍手。

 しかし、これが殺人を主題にしたショッキングな劇であることには変わりない。

 

 それも、事件の被害者が所属していた当のクラスの上演。

 私が言うのも何だが、まあ問題にはなる。


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