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花園で笑う  作者: 宮澤花
第1部 千草
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7 婚約者に会いに -1-

 翌日の日曜日。

 ダンテと深夜まで格闘していささか寝不足気味ではあるが。

 いざ出陣である!

 

「つーか、制服で行くの」

 小百合からツッコミが入った。

 仕方ないじゃん。我が校の校則により、生徒は学期中は外出の際も制服の着用が義務付けられている。

 が、当然そんなの守っていられないので、外に出てから着替える。これ、百花園生のお約束。


「あと、アタシまだ怒ってるんだけど」

 しつこいな。

「コンビニで、期間限定の『アンパンまん』おごったじゃない」

「あれじゃ足りない。アタシの友情は九十五円じゃ買えない」

 ウルサイな。


「泉屋のクッキー」

「オッケー! いっぱい入ってるヤツな」

「太るわよ」

「アタシはそれくらいじゃ太んない」

 むむ。実績あるからな、コイツは。食欲と体重の伸びが正比例しないうらやましい生き物め。


 外出には一応、外出届が要る。といっても、寮母さんのところにあるノートに行き先と目的と帰寮予定時間を書き込むだけだ。普段の公園までの散歩程度なら『散策』で済むが、今日はそうもいかない。

 ここ数日、口実を考えていたのだが。正直に『婚約者と面会』とも書けない。まだ交際届出してないし。


 なので、『親族と面会』にしておいた。今までも淑子叔母さんの呼び出し(お見合い)で外出したことは何回かあったし。

 結婚すれば親族になるわけだから、言葉の意味を最大限広く解釈すればまあ、嘘とも言い切れないだろう、きっと。


 電車で二十分。克己さんの住処のある街に着く。駅ビルのトイレでごそごそと着替え。

 ポイントとしては、上の方の、飲食店のない階を選ぶことである。紳士用品売り場の多いフロアだと、女子トイレが空いていて綺麗でなお良い。


 制服は紙袋へ。中に入れてきた紺のワンピースにチェンジ。

 髪はサイドに編み込みを入れた上、後ろでシニヨンにまとめているが。地味な黒のシニヨンリングを、かわいいピンクに変更。

 先日、ドラッグストアで仕入れておいた化粧品で眉を整え、アイラインを引き、口紅を塗る。派手ではなく、あくまで地味な、ナチュラルな色合いのもの。

 清楚が私の持ち味である。と言うと撫子と小百合がイヤな笑いをするのだが。結構本気なんだけど。


 足元も可愛いブーツにしたかったんだけど、さすがにそれだと荷物が重すぎるので断念。校則に引っかからない地味なローファーのまま。靴下だけ、紺のハイソックスからもう少し洒落っ気のあるものに変えた。

 というところで、変装、ではなく変身、メタモルフォーゼ終了。

 北堀運命鑑定所へ向かう。


 相変わらずこのビルのエレベーターはガタガタ言う。本当に大丈夫か、これ。閉じ込められて救出に何時間もかかるような羽目になるのはイヤなんだけど。


 最上階に着いた。事務所の扉をノックする。

 待つ。返事がない。

 もう一度ノックする。やはりノーリプライ。

 時間は合ってるはずなんだけどね! 何か前にもこんなことがあった気がするな!


「失礼します」

 声をかけて勝手に入る。事務所なんだから別に構うまい。鍵もかかっていない。

 中に入ってみると、今回も克己さんは電話をしていた。完全に、いつかどこかで見たパターン。


「うん、それは何度も聞いた」

 克己さんは電話に向かって、退屈そうに言っていた。

「いいじゃないか、別に。僕が代わりたいくらいだ」

 また、相手の話に耳を傾ける様子。


 それから欠伸を一つして、

「話に乗ってしまえばいい。そうすれば相手の魂胆も分かるだろうさ」

 そう言って、一方的に電話を切ってしまった。そして私の方に向き直る。私が来たことに気付いていたらしい。


「こんにちは。失礼しました、パートナーから連絡が入ってね。アイツも不粋なヤツだ、今かけて来なくても良さそうなものなのに」

 そう言ってから、私をジロジロと見る。

「喪服ですか」


「黒じゃありません!」

 毎度毎度! どうしてこうなのだ。気合入れてオシャレした私がとてもカワイソウ。襟も袖口も白いじゃん! シニヨンリング、ピンクじゃん! こんな喪服ありませんよ!

 襟のカッティングとか、胸元のパール加工の三つボタンとか、可愛いポイントいっぱいあるのに。もう、これだから男ってものは。


 ムッスーとする私。

 それへ克己さんは、

「まあ、お茶でも飲んでください」

 と、全然気にしない様子で立ち上がって、キッチンに立った。


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