6 後手を踏む -1-
翌日の金曜日。昼休みに、再び実行委員が会議室に集まる。
「新しいテーマ、職員会議を通ったぞ。理事長の許可もいただいた」
吉住先生の報告に、みんなホッと胸をなでおろす。
まあ、私が言うのも何だが当然だけどね。今の状態で、他のテーマは有り得ないでしょう。
「生徒会や各寮でも呼びかけてもらうが、速やかに参加する予定の各クラス・部活・有志には新しい企画を出してもらってくれ。百花祭はもう来週末だ、急がないと間に合わなくなる」
「そうですね。月曜日には提出してもらわないと。審査の時間もありますし、大至急皆さんに動いてもらわないといけないですね」
実行委員長の三田村心が難しい顔になる。
「それでは、皆さん。あらかじめクラスには告知してあると思うので、急いで意見をとりまとめてきてください。大変ですが、皆で力を合わせて頑張りましょう」
それで散会した。
まあ、我が六年松組は。昨日のうちにコンセンサスが取れているので楽である。
正式にテーマが変更したことを通知し、具体的な役割分担に入る。美術の変更は、元々メインで飾り付けを考えてくれていた子と、その仲良したちで。衣装の変更は、彼女の意見を元にして人員を大量に投入することで乗り切る。
掲示するダンテの詩句を選ぶのと、弔文の草稿は私が担当することになったが、提案者の責任としてそのくらいはやるべきだろう。
クラスを解散させた後、小百合を急かして立ち上がる。明日は半日授業。今日のうちに大森穂乃花に一度接触しておきたい。
教室で捕まえられないと、残るはテニス部の活動中か藤花寮まで行かないといけなくなるが。今の段階で、そこまで目立つことはしたくない。
彼女を問い詰める、確実なネタがあるわけでも何でもないのだから。
「それで、大森さんってどんな子なの?」
三年生の教室に向かいながら、私は小百合に尋ねた。これという意図はない。会う前に、印象を聞きたいと思った程度だ。
「昨日は真面目な子だ、みたいなことを言っていたけど」
「そうだなあ」
小百合は頬にかかる髪をいじる。三つ編みにした長いポニーテールが背中でポンポン揺れて、動物みたいだ。
「なんて言うか。自分は正しいって言い張って、周りが言うこと聞かないとキレるタイプ」
その言い方に。私は眉をひそめた。
小百合の頭の悪い言い方が気になるのも気になるが。それ以上に。そこにこめられた感情が、問題だ。
「小百合さん」
私は足を止め。正面から、彼女の顔をにらみつけた。
「ひとつ、聞き忘れていたわ。あなた、大森さんとの関係は良好なのよね?」
「いやあ」
小百合は露骨に視線をそらせた。
やっぱり。
「仲、悪いのね?」
「いや、悪いっていうか。それほどの付き合いじゃないけど」
「でも、何かはあったんでしょ?」
問い詰める。そうでなければ、こんな態度を取るわけがない。
小百合はきまり悪そうに私を見て。
「えーと。風紀委員クビになった時、穂乃花とちょっとやり合った」
「それって、仲最悪じゃないの」
私はげんなりした。
「帰って。寮に帰って。アンタが来たら逆効果だわ」
小百合の背中を押して、回れ右させる。
「何だよ。お前だって同意したじゃん。面識のあるアタシが仲介した方が自然だって」
「どこが自然よ。思いっきり、不自然よ!」
仲の悪い先輩から紹介されたら、私の第一印象まで最悪になるじゃないか。
「けどさ。アタシはお前のためにわざわざここまで」
「余計なお世話よ。いいからさっさと帰る!」
もみあっていると。
「小百合お姉さま?」
横合いから。怪訝そうな声がした。
そちらを向くと。
色白メガネ、貧乳の、見覚えのある下級生がこちらを不審そうに眺めている。
大森穂乃花。
よりによって、標的にこんなタイミングで遭遇してしまった。サイアク。




