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花園で笑う  作者: 宮澤花
第1部 千草
23/211

5 花園の祭典 -3-

 授業後のホームルームで。百花祭のテーマが変更になることと、それによって出し物に修正が必要になるであろうことをクラスメートに伝える。

「今さら変更なんて」

「あと一週間しかないのに」

 皆さまから困惑を含んだ冷たい視線が。まあ、想定内だ。


「もちろん、今さら出し物を変える余裕なんかありません」

 私は機先を制して、ハッキリと言った。

 ちなみに我がクラスが予定していた出し物はホラーハウス。この上なく「悼みと祈り」にふさわしくない出し物である。


「だったら、どうするんだよ。千草」

 ホラーハウスでは男の怪物役を演じることが決まっている某凶暴女が口をとがらせる。

「簡単です。タイトルを変更します」

 と私は言った。


「具体的に申し上げると、『ホラーハウス』というタイトルをやめ、『地獄の門』に変更します。美術と衣装に少し手を加え、モンスターは地獄で苦しむ恐ろしい亡者たちに変えましょう。飾り付けにはダンテの『神曲』から引用した詩句を使用し、出口には今回の恐ろしい事件で受けた私たちのショックについて書いた文を貼ります。そして犯人のしたことは、このような地獄での苦しみに値するという弾劾と、犠牲になった小林さんが天国で神様の栄光に与られていることを祈るメッセージとするのです。これでいかがかと思うのですが、皆さまどうお考えになるますか」


 このコンセプトなら。モノがお化け屋敷でも十分いける。そう思うのだが。

 少し、ためらいがちな沈黙がある。みんな、お互いの動向を見定めているのだろう。

 ここは押しの一手だ。


「それでは決を取ります。賛成の方、拍手をお願いいたします」

 拍手というところがミソ。挙手と違って、誰が賛成して誰が反対しているのか、大変分かりにくい。

 素早く手を叩いたのは撫子。続いてバラバラと拍手が起こる。


 その音が大きくなったところで、

「ありがとうございます。賛成多数ということで、決定させていただきます。反対の方がいらっしゃいましたら、挙手をお願いしたいのですが」

 ミソ、その二。反対者にのみ挙手を強要する。これで女子的には、かなり意見が言いにくくなる。

 誰も手を挙げなかったので、これで決定となった。


「それではこの方向で。正式にテーマが変更になったら、具体的な役割分担を決めましょう。衣装や美術の変更を担当して下さる方が必要になりますから、考えておいてくださいね」

 そう言って、その日の話し合いは終了とした。


 散会した後、撫子が寄ってきた。

「さすが、私たちの千草さん。こういう時は頼りになりますわ。悪辣で」

 ニッコリ笑って言う。ウルサイ、最後の言葉余計。

「ホント、相変わらず鬼だよな。人の命を何だと思ってんだ、この女」

 見下げはてたという口調の小百合。放っておけ。みんなだって同じようなものじゃない。


 楓葉寮の子たちは、さすがに同じ寮生の変死とあって暗い顔をしているけれど。

 寮でも部活でも接点がない、私たちのような生徒からすれば。彼女の名前も、死んだという事実も、言葉でしかない。冷たいようだが、それが真実。


 私だってただ。その死の影響が自分たちに及ぶのが厭で動いているだけだ。死んだ女生徒への悼みなどない、というのが本当のところ。

 そう思うと。人の生なんて、儚いものだ。


「ところで、ちょっとお時間いただけないかしら」

 撫子が粘っこい口調で言った。

「少しお話したいことがあるの」

 私はうなずいた。


 いつもの公園へ、連れだって出かける。撫子の伝えた情報は簡単だった。昨日の下級生の名前とクラスが判明したのだ。

 大森穂乃花、三年竹組。小林夏希と同じテニス部だ。寮は藤花。

「だからといって、小林さんと特別に仲が良かったわけではないようだけれど」

 撫子はそう言う。


「待てよ。大森って、風紀委員会の?」

 小百合が口を出した。

「あら。小百合さん、ご存知なの」

 撫子が意外そうに言う。

「知ってる。半年、一緒に委員やったんだもん。眼鏡かけた、やせた子だろ」


 私は撫子を見る。彼女はうなずいた。

「そうね。大森さんは、風紀委員よ」

「アイツ、やりそうもないタイプだけど。ドラッグも、エンコーも」

 小百合は不思議そうに言った。


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