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花園で笑う  作者: 宮澤花
第1部 千草
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5 花園の祭典 -1-

 木曜日、教室へ向かうと。昇降口の掲示板に、妹の名前が張り出してあってまずビックリする。

 そこには、校則違反者のクラス、氏名、所属寮名と罪状が掲示されることになっており、通称『晒し場』と呼ばれている。

 こんな戦前の風習を復活させたのはもちろん十津見である。ヤツが赴任してくる二年前までは、生徒指導室に呼び出しされて口頭注意を受けるだけで、こんな悪習はなかった。アイツは第二次世界大戦中の鬼軍曹か。この二十一世紀の世の中に何であんな教師が放置されているのか。ホントに納得いかない。


 ちなみに、妹の罪状は『廊下等での私語』だった。まだ百花園慣れしていない一年生が往々にして犯してしまうミスである。

 他にも一年生の名が晒されていたから、何人かで話しているところを運悪く十津見に見つかってしまったのだろう。事故の類である。

 気の毒に、妹よ。そしてこれに懲りて十津見に幻想を抱くのは(抱いているとして)やめてくれ。心からお願いする。



 ホームルームで、学院祭実行委員は昼休みに集まるように、と連絡があった。

 そういえば、そんな行事もあったか。いや、我が校最大の行事なんだけど。十日後に予定されており、前期の内に出し物も決めて準備を続けていたのだが。殺人事件を受けて、中止だろうか。有り得る。

 去年の実行委員長としては、伝統行事が中止になるのは残念だが。人ひとりの命が失われたのだから、それも仕方のないことかもしれない。

 

 が、案に相違して。委員会に出席してみると、委員長の三田村心が学院側の意向として伝えたのは、『テーマの変更』だった。元々、決まっていたテーマは『自由と飛翔』。まあ、ありがちなどうでもいいテーマである。


「補足しておくとだな」

 委員会顧問の吉住先生が言った。

「一年の小林くんの事件があってから、まだ日も浅い。本来なら喪に服すべき時期で、お祭り騒ぎは妥当ではないだろう。だが、この日を楽しみにしてくださっている卒業生や関係者、ご近所の方々も大勢いる。だからな、お祭り色を押さえ、我が学院らしい落ち着きのある学院祭を開催してほしいんだ」

 我が校一のモテイケメン教師らしい優しく懐広く、かつ内容の曖昧なお言葉。お立場上、いろいろ言えないこともあると察するが、それにしても意味分かりませんよ。


 端的に言えばこういうことだろう。

 私立の中高一貫である我が校にとって、生命線なのは入学希望者。女子小学生と、その保護者たちである。保護者に対しては『学校説明会』というもう一つのアピールチャンスがあるが。幼い彼女たちへアピール出来るのは、この学院祭以外にない。


 つまり我が校における『成功した学院祭』というものは。

 在校生が自分本位に盛り上がることではない。

 他校の男子生徒を呼んで、ここぞとばかりにフォーリンラブすることでもない。

 もちろん、出店で収益を上げることでもない。


 様々な催し物を通じて。

 訪れる入学検討中の保護者には『まあ、何て知的で落ち着いた生徒たちなのかしら。ここにならうちの娘を入れてもいいわ』と思わせ。

 幼いお嬢ちゃんたちには『とっても楽しそうな学校だわっ。私もこのお姉さまたちの仲間になりたいっ!』と思わせる。

 それに尽きるのである。


 逆に言えば。それさえ満たすことが出来れば、後は何をやってもオッケー。

 そういうことだ。


 つまり、今回も同じこと。開催は決定なら、お嬢ちゃんたち向けの路線は変わらないとして。

 保護者様たち向けに『この学校は安全ですよー、危ないことなどありませんよー』という色を乗せろ、と、つまりそういうことなのだと思う。

 そりゃ。吉住先生の口からは言えないだろうし。私でもあからさまには言えないですわ。


 委員たちは困ったように下をむいたり、お互いに顔を見合わせたりしている。急にテーマを絞り出せ、と言われても答えを出すのは難しいだろう。

 まあ、ビジョンがなければの話である。ある意味、今回は最初にテーマを決めた時よりビジョンがハッキリしているのだ。だったら時間もないことだし、さっさと決めてしまった方がいいか。


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