表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花園で笑う  作者: 宮澤花
第1部 千草
2/211

1 運命の出会いとは、かくあるものか -2-

 そんなことを考えているうちに、最初の待ち合わせ時間からそろそろ一時間が経つ。

 私の前の皿は空っぽだ。いくら美味しくても、さすがにザッハトルテ三個目はキツい。


「叔母さん。今日はもう、いいんじゃないですか」

 私は穏やかに言った。

「ここまで待ってもいらっしゃらないし、連絡もないということは、そういうことなのでしょう。残念ですが、ご縁がなかったということですね」

 口許を拭いて、立ち上がる。


「あ、待って。千草ちゃん。先方のお家に連絡してみるから」

 そう言われても、もうこれ以上何も食べられないし。

「今度は、キチンとお約束なさってから呼んでくださいね。ごちそうさまでした、叔父さん。叔母さん」

 きちんと頭を下げて挨拶し。

 そのまま、二人を置いて店を出た。


 さて。どうしようか。

 せっかく街中まで出て来たのだ。今の店ほどではなくても、何か美味しそうなものを買って帰ろう。家族におみやげと、寮の仲間にも。そう決めて、安くておいしい焼き菓子を売っている店に向かうことにした。


 私は、百花園女学院という私立の女子校に通っている。

 中高一貫、全寮制で、上級生を呼ぶ呼称は「お姉さま」、挨拶は「ごきげんよう」と、アニメかマンガに出てきそうな、絵に描いたようなお嬢様学校である。

 ちなみに、叔母夫婦は私が百花園に通っていることも付加価値になると思っているらしく、見合いには必ず制服で来いと指定してくる。しかしこれが、街を歩くにはあまりよろしくない。


 うちの学校は、とにかく風紀に厳しい。授業以外の時間の行動でも『学生としてふさわしくない』とみなされれば罰則の対象になる。で、その「ふさわしくない」行動というヤツが、「カラオケでコスプレした」「ゲーセンに行った」というレベルでも引っかかってしまうという前時代ぶり。

 また、我が校の制服を見るとその「ふさわしくない学生ぶり」を学校にチクる一般の方々もいらっしゃるわけで。

 

 ただ、制服で街を歩くだけでデンジャラスゾーン。

 制服で買い物をするなんて、更にデッドゾーン。

 そんな状況である。


 また、生徒指導を担当している教師が面倒くさいヤツで。うっかり弱みをつかまれようものなら、厭味たっぷりのお説教フルコース、その後も不良生徒扱いが決定されるという、楽しくない事態になる。

 私としては、そんな立場になるのは御免蒙りたいので、速やかに帰宅しようと考えていたのだが。


 どうやらその日の私の星回りは、特別なものだったのに違いない。

 菓子店を出て角を曲がった瞬間に。見知らぬ男性に腕をつかまれて路地に引き込まれるという、映画のような非日常な出来事に、遭遇したのだから。


 驚いて、一瞬口をきけなかった。どうしたらいいのか、怯えた。

「君かな? うん、君のような気がするな」

 耳元で、男の声がする。思ったより若く、瑞々しい声だった。


「君。悪いが、少しの間僕に付き合って下さい。そう時間はとらせない。そうだな、十五分もあればいい」

 十五分? 私は首をひねる。

 この人は、私をこんなところに引き込んで、いったい何をするつもりなのか。やはり、ナニをナニしてナニするつもりなのであろうか。それは、そんな短時間で済むものなのか?

 いや、見合い経験は豊富だがそこから先の経験は未経験に等しい私では、確たるデータは持たないのだが。悪友からもれきく噂話によれば何かと時間がかかるものだとか聞いたような。


 それにしても。あまり暴力的な感じはしない。

 私は落ち着きを取り戻して顔を上げ、相手を見た。


 帽子を深くかぶっているが、その下からサラリとした細い髪の毛が見える。

 茶色がかっているのは、染料の色ではなく、元々色素が薄い感じだ。色白で、輪郭は男性らしいしっかりしたものなのだが、造作は整っている。

 その顔に、見覚えがあって。私は息を呑む。

 今日、何度も何度も見た顔だった。ただし、写真で。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ