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花園で笑う  作者: 宮澤花
エピローグ
199/211

2 見えないシルシ ~忍 ‐2‐ 


 四日目に一般病棟に移る許可が出た。看護師さんたちが髪を洗ってくれて、かわいく編みこみをしてくれた。

 体につながっている線は点滴二本だけになり、トイレも自分で行っていいことになった。

 お礼を言って外科病棟に移った。


 しばらくは個室で、落ち着いたら大部屋に移ることになっている。

 それまでは警察の事情聴取も、家族以外のお見舞いも遠慮してもらうから安心して、とパパとママに言われた。

 それは確かに安心だったが、ちょっと淋しいなとも思った。


 百花園はどうなっているんだろう。

 今週は休校だとお姉ちゃんから教えてもらったけれど、みんなはどうしているんだろうか。

 学祭の日の事件のことを、みんなはどう思っているんだろう。

 もしかしたら忍のことを疑う人もいるかもしれない。そう思うと憂鬱な気分になる。


 一般病棟ではメールしてもいいと言われて、ひかりちゃんに連絡してみようかとも考えたけれど。

 やっぱり忍は臆病な子のままで、簡単には勇気が出ない。

 スマホの画面を眺めて、ただため息をつくばかりだった。



 夜の八時半ごろ。さっき帰ったはずのお姉ちゃんが一人で病室に戻ってきた。

「どうしたの?」

 と聞いたらお姉ちゃんは素っ気なく、

「忘れ物」

 と言った。


 忍は首をかしげる。狭い病室にはそんなに物を置く場所はない。お姉ちゃんの忘れ物があったら、すぐに分かるはずなんだけど。

「あのね」

 お姉ちゃんは言った。

「お見舞いを遠慮してもらうっていうのはママの考えだから。病院の先生はダメとは言ってないのよね」

 担任の嵯峨野先生から届けられた花の入った花瓶を、お姉ちゃんはのぞきこむ。


「それでね。アンタが怪我した日から、お見舞い出来ないって分かってるのに毎日病院をうろうろしているストーカーみたいな教師が一人いるわけよ。何かお見舞いを持ってくるわけでもないし世間話をするわけでもないし、毎日ムスッとしてそこらに座ってるだけなのよね。あれ、病院や他の患者さんにも迷惑じゃないかしらと思うわ」

 そう早口に言ってから、お姉ちゃんは忍を振り返って言った。


「面会時間が終わるまでもうあんまりないけど、今日も来てると思うのよ。会いたい?」

 忍は目を丸くして、それから力いっぱいうなずいた。



「この花瓶、水を入れ替えた方がいいみたいだから私はちょっと席を外します。じゃあ、あまり時間はありませんがごゆっくり」

 先生を連れてきたお姉ちゃんはそう言って、すぐに病室を出て行ってしまった。

 

 ベッドのすぐ横のパイプ椅子に座った先生と、久しぶりに顔を合わせる。

 ずっと会っていなかったような、この前、会ったばかりのような。おかしな気分だった。

 しばらく黙って忍の顔を見てから、先生は深くため息をついた。


「あ、あの。先生。来てくれて」

 ありがとうございます、と言いかけるのを先生が止めた。

「黙りなさい。今、考えているところだ。教師の言うことをまったく聞かない問題児に、どうやって物事を教え込んだらいいのかということを」

 じろりとにらまれて忍は縮み上がってしまう。


「あの」

 小さく言いかけると。

「怒っているか、とでも聞く気か? 怒っているに決まっているだろう。君は私の言いつけをことごとく破った」

 先回りして言われてしまった。

「逆に君に尋ねたい。どうやったら私が怒っていないなどと考えられるんだ? 自分が何をしたか記憶はちゃんとあるのか。君の頭が正常に働いているのなら、私が危険なことはするなと何度諭したか覚えていられるはずだが」



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