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花園で笑う  作者: 宮澤花
第3部 対決
188/211

11 魔女の告発 ~千草 -7- 


「もう全部、分かっているんですよ」

 激情を抑えつつ私は続ける。

「夏休み、秋休みとご家族と暮らす機会が続いて、小林さんは秘密を抱えていることが辛くなってしまったのかもしれませんね。それを、あの日あなたに相談しようとした。先生と会うからわざわざ制服を着て行ったんです。この日はあなたは平服だったでしょう。百花園の制服を着た小林さんは人目を引きましたが、同行者のあなたに注意の目を向ける人はいなかった。あなたなら生徒の姉に見えるかもしれませんものね」

 軽く厭味を挟んで更に話を続ける。


「小林さんから『雪ノ下忍が全てを知っている。怖い』と相談されたあなたは彼女以上に恐慌状態に陥り、咄嗟に刺してしまった。倒れこんだ彼女にはすぐに周りの注意が向けられたこともあり、薬を回収することは出来なかった。それでも」

 冷たいまなざしを彼女に向ける。

「立ち去る姿が誰の記憶にも残らないくらいには、あなたは冷静に人目を引かずに行動したのでしょう。あなたは冷酷な人ですね、朝倉先生」


 何も言わない相手に話し続けるのは徒労感がないでもないが、熱に浮かされたように私は話し続ける。


「すぐに警察はドラッグを発見し、ドラッグ絡みの殺人事件という線で捜査が始められました。ただ、それゆえに捜査は小林さんの交友関係を探るところから始まったのです。ドラッグは友人関係の中で流通することが多いですからね。あなたと小林さんのつながりが表に出なかったのは、電話やメールで連絡を一切していなかったからでしょう」


 おそらく、あのサイトを経由してすべての連絡を取っていた。

 そんなところだろう。

 後は対面。保健室常連の生徒なんて、どこの学校でも珍しくもない存在だ。 


「生徒たちは持ち物を厳しく検査されましたが、職員についてはそこまで疑われなかった。だからあなたはその後も何事もなかったように生活していた。ドラッグの販売すら今までどおりに行っていた」

 それは腹が立つほどの図々しさであり、ぞっとするような無神経さだ。

 人ひとりの命を奪っておきながらこの女は、全てが破綻するまで何もなかった顔をして『今までどおり』を続けようとしたのだ。  


「でも、そう簡単にはいかなかった。大森さんはマークされていた。彼女の不品行が学校にリークされたのも、あなたが彼女を刺した現場にすぐに人が現れたのもそのためです。ただ幸運はまだあなたの上にあった。目撃者が現場に駆け付けた時、まだ大森さんには息があったから彼は救助を優先した。そして」

 私は意地悪く彼女を見る。

「その人が男性であったことも幸いでしたね。彼は制服だけを見て、犯人は女生徒と思い込みました。私たち、百花園の生徒であればもっといろいろなことが見て取れたはずですが。残念です」


 制服を着るには、いくら若作りしていてもこの女が年を取りすぎていることとか。

 いくらでもツッコミどころはあったはずだが、克己さんにはそこまでの女性鑑定眼は期待できない。


「自分から容疑をそらそうと『百花園の女生徒』の扮装をしていたことが功を奏しましたね。でも、あなたは不安になったはずです。大森さんを殺すことは出来なかった。そしてまたドラッグを回収できなかった。何とか根本的に自分から疑惑をそらす方法を考えなくてはいけなかった」

 そうして。

「あなたは最終的にこういう結論に達したのではないですか。『犯人がつかまればいい。自分以外の犯人が』と。その時、浦上薫さんがドラッグを寮の上級生に没収されたと訴えてきた。そこで貴女は浦上さんを殺すことに決めた」


 次の言葉を口にする前に、私はまた苦いものを飲み下す。

「それから私が浦上さんのバッグを持って現れた。好都合だったでしょうね。あなたは危険な証拠物を回収できた。そして私たち姉妹が真犯人であるという筋書きを作ることにした。小林さんの秘密を知っているかもしれない妹は、貴女にとって危険な存在だった。余計なことをした私ともども葬ってしまいたい存在だったんです」


 私の迂闊な行動が最後の事件の引き金を引いた。


「私が『百花園の魔女』と陰口をたたかれていることをご存知の貴女は、制服をまとってこの部屋を抜け出した。その上に魔女の帽子とマント、金髪のカツラまでつけて浦上さんを呼び出して合流し、裏庭まで連れて行った。あのお祭り騒ぎの中です。あなたの異様な恰好も祭りの風景に埋没してしまうし、生徒と一緒に歩いていても誰もじろじろ見たりしません。同時にあなたは他の生徒を使って妹を裏庭へ呼び出した。妹を呼び出すには、十津見先生の名前を使えば簡単です。私の妹が十津見先生のファンだということはちょっと調べれば簡単に分かることですよね。もちろん妹はまんまと罠にかかりました」


 薫も忍も。

 怯えていながら目の前の危険には無頓着で。

 

「あなたは裏庭で浦上さんを刺し、何事もなくその場を去って魔女の仮装を始末し、保健室でいつもの姿に戻った。一方、死体を発見した妹は衝撃に立ち尽くす。ところでその妹を最初に見つけたのは私で、これはあなたの計画の範囲外だったと思うのですが。その私でさえあの光景には呆然としましたよ。けれども人が集まって来るのがずいぶん早かったように思います。あなたが何かしら工作をしたのではないかと思いますね。違いますか?」


 彼女は答えない。

「おそらく裏庭で何かが起こっているとそれとなく話を広めたのでしょうね。それからお祭りの間にでも、私と妹の寮の部屋にドラッグが仕込まれているのではないでしょうか。各寮の生徒たちの私室には鍵などありませんからね。寮生なら人目を避ければ誰でも他人の部屋に出入りできます。これであなたの計画は完成する……はずだったのではないでしょうか? 後は頃合を見て例のバッグを警察に提出するだけです。バッグの持ち手にもドラッグの袋にも私の指紋がべたべたついた証拠品を、浦上さんから生前預かったのだとでも言えば良かったでしょう。そうやって首謀者が私、殺人の実行犯が妹という図式を作る。

ちなみにその手の噂が既に学院内で流布されているようですが、それにもあなたの手が働いているのではないかと私は思っています」



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