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花園で笑う  作者: 宮澤花
第3部 対決
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11 魔女の告発 ~千草 -6- 


「証拠があるのかい?」

 しわがれた声がした。

 朝倉真綾の右手に魔女のパペットがはめられている。その人形が話していた。いや、彼女が人形を操って魔女の声で話していた。

「好き放題言ってくれたが、お前に真綾を告発できるだけの証拠があるのかい」


「そんなモノ」

 私は嗤った。

「ありますよ。この部屋。先生のご自宅。調べればいくらでも証拠は出て来るでしょう。たくさんの生徒を操るだけの薬を手元に持っているのです。その痕跡は必ずある。貴女に薬を卸していた売人も捕まったことですし。今ごろ、彼の口からあなたの名前が警察に伝えられているかもしれませんね」


 彼女は顔を上げた。いつも優しく楽しげだった目が冷たく私を見、嗄れ声が言う。

「捕まったと?」

「ええ。その話をするのを忘れておりましたね」

 私はせせら笑う。

「彼は警察に捕まりました。今ごろは尋問を受けているはずです。分かりますか、先生。貴女の命運は、もう尽きているんです」


 少しの間、沈黙が落ちた。

 それからゆっくりと相手は笑い始めた。地獄の底から響くような声で。

「そうかい。捕まったのかい。それじゃあ、もうすぐ何もかも明るみに出るね。良かったじゃないか、お前はそれを望んでいたんだろう?」


 追いつめているはずなのに。

 まだ、嗤うのか。

 まだ、私は。

 この女を、淵の底まで引きずりこむことが出来ないのか。


「可哀相に」

 相手の声が私を嬲るような、そんな優しい猫なで声になる。

「ひとりで思いつめてそんな幻想を作り上げてしまったんだねえ。でもそれは間違いだよ」

「間違いではありません」

 頑なに私が言うと、相手はくつくつと楽しげに笑い声を洩らした。


「そんなことは言わない方がいいよ。いいかい、娘さん。もしお前の言ったことが何もかも真実だとしたら」

 穏やかさをまとった声の中に、隠しようのない悪意。

「浦上薫を殺したのはお前自身ということになるんだよ?」

 そう言って相手はまた、哂った。


 その言葉は槍のように深く私の内臓を貫く。ああ、痛い。痛いな。

「分かっています」

 私は言った。


 そう。薫に引導を渡したのは他でもないこの私。

 薫がどこまで起きたことをこの女に話していたのか。今となっては分からない。

 少なくとも薬を紛失したことは話したはずで、それだけでも怪しまれていたはずだけれど。

 そこに現れた私は、こともあろうにこの女にバッグとドラッグを渡してしまった。彼女からすれば事情は明白だっただろう。

 

 浦上薫が取り返しのつかない失策を犯したのだと。放っておいては危険な人間だと。

 この女は認識してしまった。

 そうして私は二度と消すことのできないインクで、薫の死刑執行令状に署名したのだ。


「私は自分の手で浦上さんを告発してしまいました。その罪は承知しています。だからこそ余計に」

 私は彼女に近付く。


 自らはうつむいて手にはめたパペット人形に自分の代理を任せている女の、その顔が見えるまで傍に行き、のぞきこむようにまっすぐ見上げ。

「私は貴女を憎みます」

 はっきりと相手の魂に刻みこむように、自分の気持ちを叩きつけた。



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