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花園で笑う  作者: 宮澤花
第3部 対決
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11 魔女の告発 ~千草 -5- 


「私はずっと不思議だったんです。小林さんと大森さん、そして浦上さん。この三人の間に接点はほとんどありませんでした。なのに、なぜこの三人なのか。三人を結びつけているものはいったい何なのかって、本当に頭を悩ませました」


 でも。

「分かってみれば簡単なことだったんです。先生、浦上さんは本当に繊細な人だったんです。私は彼女を一年生の時から知っていました。すぐに泣いてしまって、怖がりで気が弱くて。そのくせ人に相談はしないんです。本当に弱い人はね、先生。他人に心を許すことが出来ないんですよ。身近な人すら信用できずに怯えつづけて、何もかも自分で抱え込んでしまうんです」


 これは、薫に向けた私の挽歌だ。

 最後に私に見せた顔。怯えて縮こまっていたあの顔が、きっと彼女の本当の姿だった。

 臆病で小心で、それでも一所懸命に生きていた彼女に信じることを教えてあげることが出来ていれば、何かが変わったのだろうか。


「大森穂乃花さんのことを、私は直接はほとんど知りません。でも彼女を知っていた友人は『自分は正しいって言い張って、周りが言うこと聞かないとキレるタイプ』と形容していました。それはすごく頑なで攻撃的で、同時に孤独な人柄を想像させます。こういう方にはあまり友達はいませんよね。本人が全部はねのけてしまうんです。彼女もきっと悩みを相談する人を持たなかった。そう思います」


 朝倉真綾は黙っている。人形の赤いドレスのひだを丁寧に直している。

「そして小林夏希さん。入学したばかりの彼女はこの学校になじめていなかったようです。秘密を私の妹に知られたと思った彼女は、親しい友人と一緒に妹にいやがらせをしました。でも、その理由を誰も知らなかったんですよ。彼女もまた心を閉ざして誰にも相談をしない人でした。三人が三人とも、表面は学校生活になじんでいるように見えながら深い孤独を抱えた人でした」


 この学校は、私にとっていつだって楽しいことがいっぱいの楽園だった。

 前時代的な校則も、神に祈りをささげる生活も、今だけしかいられない異空間での約束事だと思えば楽しめた。

 いつかここを出て行く日が怖くなってしまうくらいに。


 だから、そんな私には見えなかった。

 この空間を息苦しいと感じている人たちの姿が。

 私にとっての幸せな花園が、他の誰かには出口のない迷宮だということが分からなかった。


 その傲慢さは、いつか地獄の業火の中で懺悔をするべき私の大きな罪。

 自らに鞭打つ苦行を課して道を歩いた中世の人々のように、終生この身をさいなむだろう私の重荷。


「でもね。彼女たちだって何かを吐き出したい時はあったはずなんです。そんな時にあの子たちはどうしたんでしょう?」

 私はゆっくりと言う。


「私の友人の一人は、占い研究会に所属しています。彼女のところには、いろいろな相談事が持ち込まれるそうですよ。軽いものから友人には話せないような重いものまで。彼女はそういう話を集めて喜んでいるのですけれどね。ねえ先生、おかしな話ではないですか? いつも親しくしている人には話せないことも、そんな得体の知れない女には話せるんですよ。私だったら彼女にそんな話をするなんてごめんなんですけれど」


 アイツに話していいのは、横流しされても構わない厳選された情報だけだ。

 そんなこと六年生ならみんな知っている。

 でも、下級生は知らない。


「不思議ですね。そんな話をするのは彼女と直接の関係がない子ばかりなんです。関係が遠いから気軽に相談できるんです。身近な人には話せないことも、よく知らない相手になら話せたりするんです」

 相手は赤いドレスのパペットを棚の上に置いた。代わりに今度は魔女の人形を手に取る。

 そんな動きを見つめつつ、私はまた言葉を続ける。

「先生。先生はみんなの相談に乗る立場ですよね。担任の先生や部活の顧問や、寮母さんには話せないことも、みんなは先生にだったら話せるんです。保健室の先生は成績とも校内の規律とも関係ない方だから。それに先生はきれいで優しい、みんなの憧れの方でした。だからみんな、貴女に気を許したんです」


 私の体が熱く燃える。これは怒りだ。生まれてからこれまで一度もないくらいに今、私の内部は憤怒に満たされている。

「彼女たちは貴女に相談した。貴女はそれを優しく聞き、アロマやハーブティーで迎えると見せかけてドラッグを与え、一時の快楽と引き換えに煉獄へ突き落した。そして不要になったら無慈悲にその命さえ奪おうとした。貴女は彼女たちの無邪気な信頼を最悪の形で裏切ったんです。私はそれを絶対に許せない」



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