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花園で笑う  作者: 宮澤花
第3部 対決
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11 魔女の告発 ~千草 -4- 


 私は続ける。

「だとすれば、いくつかクリアしなくてはならない条件があります。まずは制服を手に入れること。これはネットなどでも似たようなものを手に入れることが出来るそうですね。でも、次はもう少し厳しい条件になります。女性であることも、まあ条件に入れていいでしょうけれど。大切なのは、制服を着ていて違和感がないことです」

 

 ああ。水でも買ってくれば良かった。すごく喉が渇く。

「たとえば十津見先生のような背の高い男性だとか、市原先生のような年配の女性が百花園の制服を着て歩いていたら、それだけで奇異すぎて余計な人目を引いてしまいますよね。ですので、ここで犯人の身体条件は著しくしぼられるんです。ごく普通の体格で、制服を着ていてもおかしくない年頃に見える若い、おそらくは女性です」


 そしてこのことは、最初の事件にもある程度当てはめることが出来る。

 小林夏希の事件で百花園の制服を着た彼女が男性と歩いていたなら、これもやはり人目を引いただろう。彼女が制服だった時点で、犯人は女性であると条件は限定されていたのだ。


「昨日の事件で、浦上さんが事件直前に誰かといるところを見かけていないか友人に聞いてみました。その結果は先ほど申し上げたとおり……『魔女のコスチュームを着た人物と一緒にいた』です。かなり噂になっているようですね。生徒間の情報網は緊密ですから」

 そして、その大元締めみたいな人物は私の友人の撫子だ。というのは黙っておく。


「答を聞く前に私は、その人は顔を隠すようなかぶりものをして制服の上に何か羽織っていたでしょうとたずねました。その通りでしたね。大きな帽子で顔は隠れて長いマントで体を覆っていた、とか」

「そんなの」

 嘲るような声がした。

「そんな子はいっぱいいたわ。百花祭って毎年そうじゃない、みんなが仮装して」

「そうです」

 私はうなずいた。

「ですから、犯人は百花祭では毎年仮装する生徒がいるということを知っており、事前に仮装の小道具も用意できる人間なんです。そして百花園生が周りにあふれかえっている校内では、顔を隠して歩かなくてはならない人間です」


「生徒なら当然よね」

「そうですね。在校生、二、三年の間に卒業したOG。条件に当てはまる人はたくさんいるでしょう。そして」

 私は彼女を見据えた。

「朝倉先生。あなたもその一人ですね」

 返ってくるのは沈黙。私は構わず続ける。


「先生は小柄だし童顔です。化粧を落とせば、制服を着てもそう違和感はないでしょう」

 あくまで遠目にだったらだけどね。

 現役十代と並んだら、いくら彼女でも違和感ありまくりだろうと少し意地悪く考える。


「ポイントになるのはここが保健室で、制服を汚してしまった子のために予備の制服が用意されているところです。先生ならいつでもそれを持ちだすことが出来ますね。仮装についても、代々の作ったものが倉庫に保管されていますから、職員である先生なら持ち出すチャンスはあったのではないですか? 更に言えば、その前の事件で大森穂乃花さんの住所を調べることも難しくなかったはずです」


「知らないわよ、そんな物。そんなこと実行委員じゃなきゃ知らないんじゃないの? 吉住先生を疑ったらどうかしら」

 嘲笑の響き。

「それにね。生徒の個人情報に、今はそんなに簡単にアクセスできないの。校長や教頭や風紀担当の十津見先生ならともかく、理由がなければ生徒の住所や連絡先を閲覧できないのよ」


「そうですか」

 私もゆっくりと笑った。

「構いません。そこはそれほど重要ではありませんから」

 魔女の衣装なんか自作したって大した手間ではないし、証拠も残らない。

 学校の物を使っていてくれたら証拠が残っていてこちらが楽だった、という程度の話だ。

 それに今の話は、生徒の個人情報にアクセスできないかと朝倉真綾が試してみた過去があったことの傍証になる。


「吉住先生が犯人というのはなかなか面白いですが、あの方が百花園の制服を着たら目立ってしまって犯行どころではないでしょうね。それに、あの時間は吉住先生は校門の担当だったはずです。受付にいた実行委員が姿を見ているでしょうし、もし席を外していればパートナーの先生が覚えていらっしゃるでしょう」

 実はこの辺りはうろ覚えなのだが。

 あの時間、十津見が校内をウロウロしていたのだから、そういうことなのだろうと思う。


 学校側も数少ない男性教師を有効に使いたかったはずだ。人当たりが良く、うまく相手を丸め込める吉住先生。その存在自体に威圧感のある十津見。どちらかはトラブル対応のため、必ず校門に配置されていた。その可能性は高いと思う。


 私は白い部屋を見渡して、昔話の蜘蛛のように、彼女の脚にひたすら糸をかけ続ける。


「この部屋なら、ドラッグを隠しておくことも出来るでしょうね。いろいろな種類の薬が元々置いてあるし、職員である貴女は捜査情報も耳に出来る立場にある。生徒が疑われている内は、ここに置いておいても安心ですよね? さすがの十津見先生も、この部屋に置いてあるアロマまで没収はしなかったようですし」


 薬品類や救急用具。そんな、どこの学校の保健室にもあるものの他に。

 この部屋には彼女が持ち込んだ人形や、アロマやハーブティーが山のように置いてある。

「校内で、アロマが流行ったのは先生がいらしてからでしたね」

 私は苦い悔恨を込めて言う。

 そのことだけでも、もっと早くこの人を疑っても良かったのに。


「保健室を訪れた生徒たちを、美味しいハーブティーやアロマの香りで出迎えて下さいましたね。そんな先生に憧れて、みんな自分でも始めたんです」

 私もその一人だった。みんなと街に出て、新しいものを探して買い集めた。

 ハーブティーを飲むと、何だか自分が大人の女になったような気がした。



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