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花園で笑う  作者: 宮澤花
第3部 対決
183/211

11 魔女の告発 ~千草 -2- 


「事件を整理してみますね」

 私は冷たく言った。彼女はこちらを見ないで人形をなで続けている。

 勝手に話すことにした。


「一番初めに、白昼の繁華街で小林夏希さんが刺殺されました。現場にはたくさんの人がいたはずですが、私の知る限り犯人の情報は上がっていません。混雑していたからこそ他人に注意を払っていなかったとも考えられますが、まずそのことを疑問点として挙げておきますね。小林さんは制服姿で、所持品の中からドラッグが発見された。そのことも申し添えておきます」

 私は軽く言葉を切り、また話を続ける。


「次に大森穂乃花さんが刺されました。停学中に家を抜け出し、ご自宅近くの公園にいたとのことでしたね。そして百花園の制服を着た人物が現場で目撃された。今度も所持品からドラッグが発見されました。ここでは犯人がどうやって彼女の家を知ったのか、という点を疑問のひとつとして挙げさせていただきます。彼女と親しい人物は当然警察が調べ上げているでしょうが、今に至っても犯人は逮捕されておりません。ですから、そちらの線からは何も浮かばなかったということになりますね」

 次の話に移るには、気持ちが苦くなる。


「最後に浦上薫さんが殺された昨日の事件です。百花祭の最中に彼女を裏庭に呼び出し刺殺するという犯行には、犯人が手馴れて来たという印象を受けますが。ここでは制服の上に魔女のコスチュームを着た人物が浦上さんと一緒に歩いているところを見られている、ということを申し上げておきます」

「知っているのね」

 せせらわらうような声がする。


「それなのに、どうして私だと? 制服を着ていたのだから生徒なのじゃないの」

「そうですね。いつでも被害者か加害者のいずれかが制服を着ているんです」

 私は言った。

「そして、そのことが一番気になるところなんです」

「どういう意味?」

 彼女は投げやりに答える。赤いドレスの人形を手にはめていて、いつかのように人形と会話している気分になる。


「先生は百花園のOGではないからご存知ないのでしょう。学校行事でもないのに、あの制服を着て遠出する百花園生なんかいません。あれを着ていると一般の方々の不要な注目を浴びて、学校に告げ口をされますからね。みんな、私服を持って行って外で着替えるんです。それをやらない子なんていませんよ」


 彼女がチラリとこちらを見た。人形のような無機質な視線。

 手にはめたパペットが、口をパクパクした。

「そうなの? ひどい校則やぶり。風紀担当に文句言われるわよ」

「そうですね」

 見つかればね。

「それを上手くやるのが百花園生のたしなみというものです」

 と私は答えた。

「そんなたしなみ、聞いたことないわね」

 また目を背けてしまう。パペットだけがこちらを見ている。

「じゃあ一年生が犯人なんじゃないの? 最初に殺された子も一年生だったし、制服着ていたんだし。あなたの言うたしなみなんて知らなかったんでしょ」


「そうですね」

 私は言った。

「小林さんについては、そういうことにしてもいいかと思います。それでも疑問は残りますね。あの日はまだ秋休みでした。長期休暇中は外出時の制服着用も免除されています。なのにどうしてわざわざ、人が多くて立ち入り禁止の店も多い繁華街に彼女は制服で行ったんでしょうか」


 私もあの日、同じ繁華街を制服で歩いていたが。

 それはお見合い相手をモテアイテム『百花園の制服』で釣ろうという叔母夫婦のもくろみがあったわけで。確かにお見合い相手は見事に釣れた。叔母さんが考えたような理由ではなかったけれど。

 小林夏希の生命を代償にして、私たちの縁は結ばれた。


「そんなこと知らないわよ」

 人形が口を動かす。

「そうですか。私はそれにも理由があったと考えますが、今はそれで良いといたしましょう。でも少なくとも彼女を殺した人間は、その日は制服姿ではなかったんです」

 私の言葉に人形が首をかしげる。


「どうして、そう言い切れるの?」

「そう思った方が理屈が通ります」

 私は言った。

「あの制服は人目を引きます。もし制服の二人連れだったのなら、早い時点で話題に上ったでしょうね。つまり小林夏希さんを殺した犯人は制服ではなかった、ということになります」

 ただ繁華街を歩いているだけで、学校に通報する人がいるような制服なのだ。

 もし二人連れで歩いていたなら、きっとネットやどこかで話題になっている。



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