9 懺悔 ~千草
百花園までは電車で二時間近くかかる。
その遅さに歯噛みしながら、私は考えている。
撫子にメールで連絡を取った。
向こうは私から情報を取りたくてうずうずしているが、緊急事態だと説いて聞かせて必要なことだけを聞きだした。
薫の事件を受けて百花祭の二日目は中止になった。学校は事件が解決するまで休校。
自宅待機し、必要ならいつでも警察の呼び出しに応じることを条件に、希望者は一時帰宅が認められている。桜花寮も既に三分の一くらいの生徒が帰宅してしまったらしい。
学校内では忍が犯人だとか、私たち姉妹が共謀してやったのだとか、そんな噂も流れているらしいが。
『やり方が千草さんらしくありませんものねえ。千草さんなら妖精なんてかわいい名前は使わないで、ずばり<援助交際の館>とかにしますでしょう。だから私、千草さんを信じていてよ』
と、撫子からとても素晴らしい信頼の言葉をいただいた。
笑ってしまう。今はこんな言葉でさえ、涙が出るほど嬉しい。
鼻をすすって次のメールを打つ。
『薫のことだけど。殺される前に、誰かと歩いていたところを見られていると思うんだけど』
そう言葉をつづる。
コロサレル。その文字列がたまらなく胸を切り裂く。
『その相手は仮装をした女性で、大きな被り物と体を覆う衣装を着けていた。そうじゃない?』
さほど待たずに返事が来た。内容は以下の通り。
『すごい、大当たり。薫さんは魔女の仮装をした女の子と歩いていたそうよ。つばの大きな帽子をかぶって、黒ビニールの大きなマントを羽織って。金色の長い髪が出ていたって話だけど、きっとウイッグね。どうして分かったの? 実はやっぱり千草さんがやったの?』
一瞬で前言を翻すところがあまりにも撫子で、また笑ってしまった。
魔女か。なるほどね。
全てはそうやって、落ち着くべきところに落ち着いていく。
別に種明かしをするまでのことでもない。こんなことは、分かってしまえば当然推測できることだ。
もう一度スマホを手に取ってメールを打つ。
『そうね。ある意味、私が殺した』
送信して、その後は電源を切った。
こんなものを送りつけたら撫子は、本当に私がやったと思いかねないけれど。
私も懺悔をせずにはいられない。救いには届かないと分かっていても、自分の罪を誰かに言わずにはいられない。
私の罪はあまりに深く重いから。
せめて自分自身で決着をつけないことには、呼吸をすることさえ辛くなる。
だから百花園に行かなくては。
私たちの花園に咲いた毒花を、私はひとりで摘みに行く。