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花園で笑う  作者: 宮澤花
第1部 千草
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4 良くない言葉 -3-

「でも、安心した。また、小百合の早とちりだったのね」

 私はため息をつく。小百合。この借りは、そのうち返してもらう。


「それで、わざわざ?」

 忍は丸い目をきょとんとさせた。

「心配してくれたんだ」

「当たり前でしょ。きょうだいだもの」

 私は言う。

 

 そりゃ、同じ親から生まれたというだけの縁で。趣味も性格も、全然違うけど。やっぱり忍は私の大事な妹で、家族なのだ。心配しないわけはない。


「ありがとう」

 忍は。優しく笑った。この子の笑顔は、本当に温かくて。見ていると、こっちも嬉しくなる。

 だが。続いた言葉は、私の安心を吹き飛ばした。

「大丈夫。昨日はちょっと、狭いところだったせいかな。それだけ」

「え?」

 私は眉をひそめる。


「本当に、具合が悪かったの?」

「大したことないんだよ。寮に帰って少し休んだら、すぐ良くなったし」

 忍は慌てたように言う。それが。ますます私の疑惑を大きくした。


「忍」

 私の声が、厳しくなる。

「もしかして、そういうこと初めてじゃないの?」

 忍は。困ったように下を向いた。


「保健室は。寮母さんは知ってるの?」

「保健室は一度行ったけど。あの、少し休めばすぐに治るの」

 私は。ため息をついた。なんてことだ。妹の体の不調は、慢性的なものらしい。

「忍。病院に行かなくちゃダメよ」

 何で、この子はそんなことを黙っていたのか。私にも、母にも。


 だが。忍は頑固に首を横に振った。

「本当に、そんなんじゃないの。大丈夫。大丈夫だから」

「大丈夫じゃないんじゃない。ずっと続いてるんでしょう?」

「そんなことない。本当に、たまになのよ」

 忍は。私の目を見ない。


 体の不調に、思い当たるところがあるのか。そんな気がした。

 イヤな予感がふくらむ。

 今、この学校で。私が調べていることの中に、体調不良と結びつきそうな可能性が二つ、ある。


 その一つは薬物中毒で。

 もう一つは、妊娠だ。

 この子に限って。そんなことはないと思うけれど。信じたいけれど。

 私は。小さく息を吸ってから、質問する。


「今日は、小林夏希さんのことについて聞きたいと思ったんだけれど」

 忍の肩が。ビクリと震える。

「同じクラスだったんでしょう。だから、彼女についてのあなたの意見を聞きたかったの。だけど」

 今は。他に確かめるべきことがある。


 私は声を低め。妹の耳元で、囁いた。

「フェアリーって、何だか知っている?」


 反応は激烈だった。忍の顔が、あっという間に紙のように白くなった。元から大きな目を、更に見開いて。

「ダメよ」

 忍はカサカサに乾いた、絞り出すような声で言った。

「お姉ちゃん、ダメ。それは、良くない言葉よ。そのことは忘れなきゃ、ダメ」


 良くない言葉。それは、どういう意味なのか。

 確かめようとした時には。

 私の妹は、背を向けて一目散にロビーから駆け出してしまっていた。

 取り残された私は。妹の蹴立てて行った空っぽの椅子を、ぼんやりと眺めるばかりだった。


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