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花園で笑う  作者: 宮澤花
第1部 千草
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4 良くない言葉 -2-

「ハッキリ言うとね。かなりキツく当たられていたみたいなの。そのことで、忍さんのお友だちの遠山さんと小林さんが、ひっぱたきあうようなケンカになったこともあったみたいで」

 私は眉をひそめた。


 これは、喜ぶべきか、心配すべきか。薬物をやっていたような生徒と、妹に深いかかわりがなかったのは、姉として喜ぶべきところだ。けれど。


「忍は昔から、目を付けられやすいというか。目立つことやる子じゃないし、性格も悪くないと思うんだけど、何だかトラブルが絶えないのよね」

 私はため息をつく。

 百花園ではうまくやっていると思っていたのだが。

 やはり、小学校の時と同じなのか。どうしてあの子、クラスでうまくうちとけられないんだろう。


「十津見先生を追っかけるような子が目立たないというのは、客観性に欠けた見方だと思うけれど」

 撫子が言う。

「時間があればゆっくり情報収集したいタイプね。掘り下げたら、面白そう」

 むむ。悔しいが、十津見の件については反論できない。妹よ、いったいアレのどこがいい?


「そういうわけだから。妹さんからは、小林さんの情報はあまり期待できないと思うけど」

「それでも、当たってみるわ」

 私は言った。

 とにかく、妹は殺された生徒と同じクラスで学んでいたのだ。何かしら、気付いていることがあるかもしれない。あの子はなかなか、カンは鋭いのだ。


「何、千草の妹の話?」

 小百合が割り込んできた。

「見たよ、昨日。風紀委員会で。相変わらず、おとなしそうだったな」

 そうか。同じ委員会だったわけだ。昨日までだけど。


「具合悪いの?」

 急に聞かれた。

「別に。私は健康だけど」

「バカ、お前じゃないよ」

 と言われた。小百合にバカと言われるとは、ショックである。

 

 けれど、続く言葉はもっとショックだった。

「お前じゃなくて、妹。チラリと見ただけだけど、何だか顔色悪かったぞ。具合悪そうに見えた」


 そんな。一昨日までは、元気そうだったのに。

 ああ、いや。金曜も土曜も、私は克己さんと出歩いていて。家にはちょっとの間しかいなかったけれど。

 学校に来る電車の中でも、たいして話もしなかったし、そんなに気を付けてあの子の顔を見ていたわけじゃないけど。

 別段、様子が変なところがあるようには見えなかった。それは確かだ……と思う。


「気を付けてやりなよ」

 と。小百合は、言った。



 百花園では、後期開始二日目である今日から、フルに授業がある。そんなに勉強させてくれなくても、とも思うのだが。

 貞淑なお嬢様学校を標榜する我が校の教師陣は、生徒たちを野放しにしておくと何をするか分からない、と考えている節がある。なので、有名進学校でもない割には、やたらに授業数が多いのだ。


 生徒用ロビーは、一階にあって誰でも自由に使える。

 同じ寮の生徒同士なら、寮内で適当にたむろするのだが。寮が違う友達とは、なかなかしゃべる場所もないわけで、そういう時に活躍するのがこの場所である。

 一般的な年功序列の法則は、この学校内でも生きており。混んでいた場合、低学年の生徒は、高学年のお姉さま方に席を譲るのが良き百花園生のモラルとされている。


 つまり、六年である私は現在のところ、無敵。最上級生、最高である。あと半年で卒業なのが惜しい。満ちれば欠けるのが世の習いであるが、それにしても短すぎる春である。おごれる者も久しからず、ただ春の世の夢のごとし。虚しい。


 のんびり缶コーヒーを飲んで待っていると、忍が来た。

「ごきげんよう、お姉ちゃん。どうしたの?」

 そう言って、私の前に立つ。私は、座るように身振りで示す。上の学年のお姉さまと同席する際は、許可されるまで座らない。これも我が校の伝統である。

 忍は座った。私は、その顔を子細に観察する。


「お姉ちゃん?」

 忍は、ちょっととまどったようにこちらを見返す。その表情にも顔色にも、普段と変わったことはなかった。

「元気そうね」

 ホッとして言う。

「元気だけど」

 忍は訝しそうだ。説明しなくてはいけない。


「小百合がね。昨日、アンタ具合が悪そうだったって」

「小百合お姉さまが」

 忍はちょっと目を見開いたが、納得したようだった。


 しかし、実の姉の私は『お姉ちゃん』で、何で小百合ごときが『お姉さま』なのか。いくら我が校の伝統とはいえ、私は何か納得いかないぞ。

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