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花園で笑う  作者: 宮澤花
第3部 対決
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7 パズルのピースが埋まる時 ~千草 -1-


 食事を終えて私は後片付けをし、克己さんはリビングでニュースを見ている。

 薫が死んだ事件が報道されている。見慣れた百花園の校舎がテレビに映っている。

 まだ二十四時間経ってないんだな。何だか嘘みたいだ。寮に戻ったらまた薫に会えるような気がする。


 忍が洗っておいてくれたブランデーグラスをふきんで磨く。

 二人はまだ帰って来ない。私はちょっと心配なのだけれど、克己さんは十津見から連絡がないのはうまくいっている証拠だとのんびり構えている。

 克己さんと十津見の間には信頼関係があるのかもしれないが、私とあの教師の間にはそんなもの微塵もないのでやっぱり心配である。


「あの」

 ニュースの話題が切り替わったところで、声をかけてみる。

「思ったんですが。十津見先生はどうして売人の方が薬を身に着けていると分かったんですか?」

 そこはかなり重要なポイントのはずだ。

 筧家の娘に傷を負わせたのがその男だとしても、百花園の事件を解決するためにはその男がドラッグを扱っていることが証明されないといけない。

 そうでなければ百花園の事件との関連を誰にも気づかれないまま、ということも十分あり得るのではないか。


「大丈夫でしょう。恭祐は抜かりないですから、うまくやったと思いますよ」

 その返事の微妙なズレが、私の眉根を寄せさせる。

 私は『どうして分かったのか?』と尋ねた。その返事が『うまくやったから大丈夫』。

 これはどう解釈するべきか?

 ……それほど考えるでもなく、私は答えにたどり着いてしまう。


 十津見は元々評判が良くない教師である。厳しすぎる、性格が悪い、まあその辺の基本スペックはもちろんとして。

 アイツは校則違反を捏造するのだ。

 一度にらまれるとちょっとしたことを大げさに騒ぎ立て、校則違反をしたことに仕立て上げられる。

 そうやって晒し場送りになった生徒を私は何人も知っている。


 それは、もしかしたら問題のある生徒を呼びだして、いつか起こる殺人事件に関係ないか取り調べるためだったかもしれないが。

 それにしたってやり方が汚いというものである。


 これは十津見恭祐という人間が目的のためなら手段は問わない、むしろ手段のキレイキタナイってナニ? それ美味しいの? というくらいの倫理観の持ち主ということを如実に示していると思うのだ。

 それを踏まえた上で、克己さんの発言を考えると。

 

 売人を警察に逮捕させる絶好の機会が訪れた。

 ここで売人とドラッグをはっきりと迅速に関連付けなければならない。

 では、どうするか?

 

 持っていなければ、持たせてしまえばいいだろう。

 

 彼らの中では、売人と百花園にひそむ実行犯がつながっていることは明白なようである。

 であればそこのところを分かりやすく明示して、後は警察に犯人を捜してもらう。

 これで万事オーケー。

 この困ったオッサンたちの頭の中では、そんな風に話が進んでいるに違いない。


 それが分かってしまう自分も自分だと思うが。自分も同じような状態で悩み続けたからつい、シンパシってしまったというか。

 しかしですな。もしそれを実行したとしたら、それ犯罪にならないか? うわー、ちょっとこの人たちヤバいんですけど。

「どうかしましたか?」

 ため息をついている私を、不思議そうに見やる克己さん。


 十津見が理解しながら悪辣なことをするタイプだとすれば。

 こっちは多分、何が悪いのか理解しないタイプだ。

 どっちがより悪質なのか悩むところだが、どっちも悪質だと思えば問題は解決する。ひどいコンビだ。


「いえ、いいです。何だか理解できましたから、もう詳しく説明しないでください」

 聞いてしまったら、私も事後従犯とかいうヤツになるはずである。

 知らないままでいよう。その方が幸せだ。


「それにしても、忍たち遅いですね」

 私は話を変えることにした。

「怪我がひどくなければいいんですけど」

 十津見、間に合ったんだよね? 忍がひどい目に遭わされる前に助けてくれたんだよね?


「大丈夫でしょう」

 目の前の人は相変わらずのんきだ。

「大変なことになっているなら、彼がとっくに取り乱して電話をしてきています。二人でのんびり食事でもしているのじゃないですか」

 むむ。そうなのだろうか。しかし、そもそも取り乱した十津見というものが私には想像できないんだけど。


 と言うと、克己さんは訝しげに眉をひそめた。

「そうなんですか? あいつ、女性ばかりのところに行って恰好つけているんですね。見栄を張っても仕方がないと思うけどなあ。地金というのは隠しても分かるものですからね」

「恰好……つけていらっしゃるんでしょうか? 十津見先生が?」

 思わず疑問形になってしまう。あのヨレヨレの恰好からして、とてもそういう風には見えないのだが。

「そうでしょうねえ。彼はどちらかというと粗忽者ですよ。冷静沈着なイメージはないなあ」



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