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花園で笑う  作者: 宮澤花
第3部 対決
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6 変わる景色 ~千草 -7-


「どうして」

 私は思わずつぶやく。忍たちが捕まえた男が黒幕なら、そいつが捕まればそれで終わりのはずだ。

「分かりません」

 克己さんはただ、首を横に振る。

「僕の目は過程を映してはくれませんから。ただ不吉な結果だけが見える、厄介なものなんです」


 ああ、そうなんだ。この人の力は、何でも見通せる千里眼ではない。

 不幸な結果だけを見せられるから、この人はいつもそれを少しでも変えようと必死で。


「でも。僕は今ホッとしているんです」

 少し口調を変えて彼は言った。

「だって君はここにいますから。血に染まって倒れるのが君ではなくて、それだけでも僕は嬉しいです」

 手を伸ばして、テーブル越しに彼の指が私の髪に触れる。


「あのタイミングで僕に接触してきた君のことを、初めは疑っていました。僕たちの動きに感付いて妨害しようとする一派の可能性もあった。君の話に乗ったのは出方を見ようと思ったからです」

 その指がウェーブの少しかかった私の髪をもてあそぶように指に絡める。

 その感触に、私の鼓動が早まり出す。


「僕はよく人の心が分からないと言われるんですが。今度ばかりは本当にそう思いました。おまけにとんだ臆病者でした。こんな男ですが」

 茶色の瞳が優しく私を見る。

「今でもまだ、僕と結婚したいと思ってくれていますか?」


 そんなの。そんなこと。

 私だって初めは、ただあまりにも自分が眼中になかったのが悔しくて。ちょっと困らせたいだけで、結婚するなんて言ったんだ。

 私の方こそ意地っ張りで、人の気持ちも考えないイヤな女だ。

 なのに。


「私でいいんでしょうか?」

 自分のものとも思えない、弱々しく頼りない声が出た。

 克己さんはにっこり笑って。

「君がいいんです」

 と言った。


 いつもいつも。

 どうしてこの人は、こんな風に私を軽々と追い込むのか。

 こんな風に温かい笑顔で、こんなに優しく言われたら。


「あの。よろしくお願いします」

 なんて。

 私らしくない殊勝なことを赤くなりながら言うしかないではないか。


「そうですか。じゃあ」

 克己さんの手は髪から肩へと滑り、そのまま私の手を取る。

「全部片付いたら、今度こそ指輪を買いに行きましょうね」


 私は赤くなったまま、はと小さくうなずいた。



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