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花園で笑う  作者: 宮澤花
第3部 対決
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6 変わる景色 ~千草 -6-


「その事件の後では彼も文化祭前で忙しくなってしまったので、あまり動きがつかなくなっていました。僕たちとしては文化祭は中止にしてもらいたかったのですが、理事会の意向を理事長も押さえきれなかったようです」

 百花祭をやらないとなれば、来年度の入学希望者の数に影響が出ると恐れたのだろうが。

 その結果、最悪のことが起きてしまったわけだ。

「文化祭では必ず死人が出ると僕は伝えていたのですけれどね」


 そうか。だから、この人は私を心配して百花園まで来てくれた。

 そして克己さんが有効な情報や解決につながる証拠をつかむことが出来ず、十津見も日常業務で忙しかったその間。

 浦上薫と接触して、事件の鍵を握っていたのは私だった。


 薫の件については本当に悔やんでも悔やみきれない。

 私だけが彼女を救うことが出来たのに。そのチャンスを生かすことが出来なかったのだ。


「今日の件ですが」

 私の表情が暗くなったことに気付いているのか、いないのか。

 克己さんは昨日の事件には触れずに話を進める。


「例の売人がねぐらにしていた家の娘と、君の妹さんは友人だったようですね。今朝、その娘から連絡をもらって妹さんはひとりで出かけたようです。まだ詳しくは分かりませんが、恭祐が行った時にはちょっとした修羅場だったようですね。その家の娘は手首を切られて重傷で、妹さんは彼女をかばおうとしたんでしょう、売人にのしかかられて乱暴される寸前だったとか」


 ちょっとした、じゃない。それ、かなりの修羅場だ。

 忍のバカ。ひとりでそんな危ないことをして。だいたいこの辺りにあの子の友達なんて……。


「その家。何ていう名前ですか?」

 ふと思いついて私は聞いてみた。

「筧ですね」

 返ってきた答えに、私はやっぱりと思う。


 それは小学校で妹をいじめていた主犯格の子に違いない。

 私の妹は本当に莫迦だ。何でそんな、恨みしかないだろう相手のために自分を危険にさらして。

 どうしてそんなにお人好しなんだろう。


「でも、おかげで売人を殺人未遂と婦女暴行未遂の疑いで逮捕させることが出来そうですよ。警察が来た時、ドラッグを身に着けていたそうですから。そちらの方向からも調べが進むでしょう」

「でも殺人の実行犯は百花園の生徒なんですよね?」

 私は尋ねた。その売人というのは男のようだ。

「そうですね。少なくとも僕が見たのは女性で間違いないと思います」

 克己さんはうなずく。


「売人を取り調べて百花園とのつながりがはっきりすれば、それで事件も終わるでしょう。警察は優秀ですから。これで終わってくれれば、それに越したことはありません」

 だがその言葉とは裏腹に、克己さんの表情はひどく暗かった。


「まだ、何か心配なことがあるのですか?」

「いいえ」

 克己さんは首を横に振った。

「これで解決するはずです。解決しないとおかしいです。でもこの件は僕たちにとっては失敗でした。三年近い月日をかけて結局誰一人救えず、三人の被害者を出してしまった。手放しでは喜べません。それに」

 少しためらってから彼は言葉を続けた。


「残念ですがまだ血が流れます。犯人はまだ兇刃を振るう。その姿が僕には今もまだ見えているんです」

 腕を組み、ゆっくりと目を閉じる。その前の一瞬、瞳が緑に輝いて見えた。

「あと……二人。いや、三人かもしれない。一人は死にます。残りの二人も分からないが、一人は確実だ」

 その言葉は不吉な響きを伴って我が家のリビングにこだました。



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