6 変わる景色 ~千草 -4-
「それでも恭祐や葉桜くんが手伝ってくれるようになって、少しは仕事らしく動けるようになりました」
キョウスケって誰だと思ったが、かろうじて変態ロリコン教師の下の名前がそうだったことを思い出した。
そして葉桜くんというのは、この前連れて行かれた喫茶店のお兄さん。あの人も一味だったのか。うわー、何だその濃いメンバー。
ちなみに聞きだしたところによると、克己さんが未来を見る係。それだけではいつどこで誰に起きる事件なのか分からないので、それを三人で知恵を絞って特定する。荒事になったら十津見と克己さんで対応。喫茶店のお兄さんは情報収集の手伝い的なポジションらしい。
ちょっと違うけど、私と撫子と小百合みたいなものか。
で、克己さんが百花園に関わる未来を見たのは三年半ほど前。
あの繁華街で女の子が殺されている。ただそれだけの映像だったらしい。
「絵を描いて見せたら葉桜くんがすぐに百花園女学院の制服だと言ってくれたので、特定は楽だったのですが」
あー。あのお兄さん、そういうの詳しそうだ。
「何しろいつ起こるかも分からないことだし、どうしてそうなるのか過程が分かるわけでもないので。理事長に信じてもらうのにはかなり手間がかかりました」
むしろどうやって最終的に信じてもらえたのか、その過程が知りたい。
結局、受け容れてはもらえたものの理事長も半信半疑。
で職員として十津見を雇い、校内のことを調べるのは一応許可するが教師としての仕事もきちんとやってもらう。そういう話で落着したらしい。
「本当は僕が自分で潜入した方が良かったんですが。女子校なので意味もなく男がうろうろしているのはダメだと言われてしまって。運よく彼が教員免許を持っていたので良かったです」
私は常々、何であんな生まれてくる時代を間違えたみたいな男が女子校で教師をやっているのか不思議に思っていたのだが、そんな裏事情があったとは。
というか私の四年生からの三年間の学生生活が、あの風紀担当のせいで大変窮屈なものになった原因はこの人かい。
「初めは何も手がかりがなかったから。僕たちは結果は知っていても過程が分かりませんからね。彼は問題行動を起こす学生が何かを知っているのではないかと考えて、そちらの方向を探っていたようです」
それで風紀担当のあの陰湿な指導か。
いや、あのネチネチぶり、絶対元からの性格もあるよね?
「結局、大元につながるようなものを探り出すことは出来ませんでした。僕の方は日にちが経つにつれ段々詳しい映像を見るようになっていきましたから、葉桜くんの協力もあって何とか、それがあの日あの時間帯にあの繁華街で起こると確定できました。そこで本人を捕まえて保護し、真相を聞き出そうと思っていたんですが」
そこに私がのこのこと通りかかったわけだ。
それが本当なら、とても気が重くなる。
私があの繁華街を通ろうなどと思わなければ。克己さんは小林夏希を保護していたかもしれない。そして彼女から話を聞きだして、その後の事件はひとつも起こらなかったかもしれないのだ。
「君のせいだと思わないで下さい。未来を変えるのはとても難しいです。事件が大きければ大きいほど難しい」
それでもこの人は止めたかったんだろう。
だから、あの場所にいた。それを私が台無しにした。
そう思うと申し訳ない。
「事件が起こって、警察の捜査でドラッグが関わっていることが初めて分かりました。それで僕たちはそちらから攻めてみようということにしたんです。いろいろ手を尽くしてこの近所の家を売人が拠点にしていることが分かったので、恭祐と交代で見張ったりしていました」
そうだったのか。何かまだ、恭祐って誰だって感じだけど。
そういえば昨夜この家に来る時も、カーナビ以上に二人ともこの辺に土地勘がある感じだっな。
信号とか方角とか。分かってる感じだった、今思えば。




