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花園で笑う  作者: 宮澤花
第3部 対決
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6 変わる景色 ~千草 -2-

 それだけ言って、また食事に戻ってしまう。ちょっと待て。どこからツッコんだらいいのか。

 しばし考え、

「あの、今の電話って、要するに十津見先生からだったんですか?」

 とりあえず、そこから明らかにしてみよう。


「はい」

 あっさりと言うが、いつの間に電番を交換する仲に。それに。

「妹が無事というのは。検査というのは? 二人は一緒なんですね? 今どこにいるんですか」

「市民病院だそうですよ」

 聞けば答えは返ってくるんだよなあ、この人。

 問題は何を聞けば自分の知りたいことが得られるのかという、そこのところで。

 しかし六年に渡って瀧澤撫子の相手をして来た私の情報汲み上げスキルをなめないでいただきたい。


「病院ってどういうことですか。忍、怪我をしたんですか? それとも」

 妊娠とか薬物とか。忘れかけていた心配が蘇る。

「島田何とかいうドラッグの売人に殴られて押し倒されたそうですが」

 サラッと言われて、一瞬頭がついていかない。


「何ですか、それ。どうしてそんなことになっているんですか。何があったんですか。妹は」

 無事なんですかと言いかけて、最初から無事だと言われていることに気付いた。

「大丈夫でしょう。殴られた時に頭を軽く打っているとかで、彼が検査を受けるよう主張しただけのようですよ。僕としては売人の方が心配ですが。あの勢いだと多分半殺しにしてしまっている」


「何ですかそれは。検査を受けさせるのは当たり前です」

 私は憤然と言った。

 頭を打ったって? 大丈夫だろうか。大したことないといいけど。

 そして、うちの妹を殴って押し倒すとか、その男。目の前にいたら私が自ら半殺しにしてやる。

 って待て。

「半殺しって。誰が誰をですか」

「ですから。彼が彼を」

 分からんよ。代名詞だけでしゃべるな。


 えーと。文脈で考えると。

「あの。十津見先生が、その売人とやらを、ですか?」

 恐る恐る聞いてみる。そんな光景、想像できないけど。

「そうですが」

 そしてアッサリとうなずくこの人。

「ちゃんと手加減しているといいんですが。夢中になると理性が吹っ飛ぶタイプだからなあ」

 誰が?

「大事な証人なんだから、しゃべれる状態にしておいてもらわないと困るのですが。彼の困るところは後先を考えられないところですね」

 ちょっと待って。


 いい加減、違和感を感じてきた。

 そして。その原因にも簡単に思い当たってしまった。

 私はひとつ深呼吸をして、自分を落ち着かせてから確認する。


「克己さん。ひとつおうかがいしたいのですが

「何でしょう?」

「克己さんは、十津見先生を前からご存知だったのですか?」

 彼は茶色の目を見開いた。

「あれ。気が付いてなかったですか」

 とても意外そうに言う。


「彼は僕のパートナーですよ。今回の事件を探るため、三年前から百花園に潜入してもらっていますが。本来はうちの事務所の人間です」


 くらっとした。目の前の景色が急激に変化したような感覚。

 言われたことが突拍子もなさ過ぎて、にわかに信じがたい。


 でもヒントはあった。

 そもそも北堀克己という人は、実在を疑うくらい常軌を逸した人間だ。

 こういう生物に慣れるのにはそれなりに時間を必要とする。


 けれど思い返せば十津見には、彼の扱いを熟知している節があった。

 塀を乗り越えると言えば警察を呼ぶと脅し。

 眠いと言ってハンドルを握れば、すかさずブラックコーヒーを買ってきて飲ませる。

 無視されても文句の言えないカーナビに代わって、文句を言う。


 どんなふざけたことを言ったりやったりしても、それが冗談でないことを理解しており。

 説得はムダなので行動でフォローする。

 それはある意味完璧な『北堀克己対策マニュアル』であったとも言える。

 そしてそれが何だか異様に自然だったので、私は見過ごしてしまったのだ。



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