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花園で笑う  作者: 宮澤花
第3部 対決
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4 オオカミさんには気を付けて ~千草 -2-

「分かりました」

 地雷踏まれた、と言うより、狙い定めて爆弾投下されてはこちらの笑顔も凄まじくなる。

「今すぐ警察を呼びます」

 言っておくが、私は真面目だ。ほら、スマホだってちゃんとここに持っている。


「待て。ちょっと待て」

 相手は表情を改めた。

「今の言葉は取り消す。建設的に話し合おう、雪ノ下千草」

「まあ。先生も変わり身が早い時は早いんですね。意外」

 厭味には厭味で返す。この場で誰が強者なのか、知るが良い。


 言い返せない十津見。ちょっと気分いいな! 三年分の恨み、思い知れ。

 いや、それはともかく。

「それでは、まずはそこから下りていただけませんか?」

 私は要求した。

「この状態では、話し合うも何もないと思いますが」

 ベットの上で妹に寄り添って寝そべっている変態ぶりを見せつけられているままでは、正直話す気にもなれない。


「ああ、失礼」

 相手はすぐに忍の頭の下から右腕を引き抜こうとした。コロン、と妹の頭が枕の上に落ちる。

 と思ったら。


「うーん」

 忍はちょっと身じろぎして、パジャマから突き出た白い腕を伸ばし。

 くしゅり、と十津見の汗ばんだワイシャツをつかんで。ギュッと顔をすり寄せた。やめて忍ちゃん! それ、ばっちいから!


 しがみつかれた変態は、

「あー、雪ノ下忍、やめなさい」

 とか困ったように言っているが。嬉しいのを取り繕ってるようにしか見えない。やな光景だな!

「起こしましょう」

 私は断固として言った。この状況のままでは、大変よろしくないです。

「忍。忍、起きなさい」

 変態の背中越しに妹に声をかける。あー、変態がジャマだわ。


 忍は。私の声なんか聞こえない顔をして。

 ロリコンの胸に顔を埋めて、気持ちよさそうに眠っている。

「今日はいろいろ、大変だっただろうからな」

 ぽつりとケダモノが呟く。

 黙れ、アンタに発言権はない。そしてそのビミョウに優しい声とまなざしヤメテ。気色悪い。


 と、そこへ。

「いいじゃないですか。別に」

 この混乱した状況を更に混乱に陥れるに違いない声が。雷鳴の轟きのように後ろから響いた。

 いつから来ていたのか。克己さんが、退屈そうな顔で部屋の入口に入っている。

「ちょっと狭そうですが、我慢すれば問題ないでしょう。妹さんも、彼と一緒の方が落ち着くようだし、そのままでいいんじゃないですか」

 サラリと、とんでもないことをおっしゃる。


「良くありません」

 私は、即座に反論した。

「全く良くありません」

「いいじゃないですか。妹さんはぐっすり休める、彼も喜ぶ。何も問題は発生していません」

 してる。ものすごくしてる。そして変態教師が喜ぼうがかまわん、というかそれむしろマイナス要因。


「ちょっと待て。私は別に喜んでなどは」

 変態ロリコン教師があわてて何か言っているが。

「先生は黙っていてください」

 この場で発言する権利なし。


「ダメです」

 私は克己さんの目をしっかり見て。きっぱりと言う。

「結婚もしていない男女が同衾するなんて、ふしだらです。まして妹は、まだ中学生なんですよ」

 またケダモノが後ろで何か抗議しているが。全面無視。と言うか、ウルサイから黙ってて。

「案外、杓子定規なことを言うんですね」

 克己さんは。とてもつまらなそうな顔をしてそう言った。

 何。今のは何かの挑戦……いやいやいや。自分のことならまだしも。可愛い妹の一生の問題である。挑戦など受けている場合ではない。


「何と言われても、私、譲りませんから」

 ツンとあごをそらして。私は言い切る。

「妹がきれいな体でお嫁に行けるかどうかの瀬戸際なのですから、絶対に妥協しません」

「だから私はそんなつもりでは」

 ロリコンの咆哮が聞こえるが。

 言わせてもらえば、そんなつもりではない人は、初めからこんな恥ずかしい姿を晒すような状況に陥ったりはしないのである。

 仮にも『先生』と呼ばれる職業についているのだから、その辺り理解していただきたい。ということで、今まで通り発言権は認めない方向で。


「ふーん」

 克己さんはちょっと首をかしげた。

「なるほど。妹さんの身の証が立てばいいんですね、千草さんは」

 ん?

「妹さんの身に何もなければいいんでしょう?」

「まあ。そうですが」

 不承不承答えるが。何だろう。何かがマズイ気がするこの感覚。


「じゃあ、簡単です。僕らもここで眠りましょう」

 と、克己さんは。爽やかな笑顔で言った。

「何も起きないように、ここで見張っていれば問題ないでしょう? 布団を運んできましょう、どこにありますか?」

 いやチョット待て。チョット待って。


「あの。ここで眠るって」

「彼も、僕たちのいる同じ部屋で破廉恥な所行に及ぶようなことはないでしょう? 僕だったら絶対に厭です。ああ、でも、待てよ」

 克己さんは何かに気付いたような表情になって、あごに指を当てる。

「そう言えば、中には見られていると燃えるとか言う、変態めいた嗜好を持つ人間がいるなあ。君、どうなんだ。そういう変態か?」

 ジロリと、ベッドの上のロリコンに目をやる。


「そんなことで喜ぶおかしな趣味は持っていない」

 変質者は憮然として答えてから。

「そもそも、私はそういうつもりでここにいるのではない、と何度も言っている」

 と、慌てて付け加えた。

 気にしないで下さい。別に、新たな性癖を付け加えなくても、もう十分あなたは変態です。


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