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花園で笑う  作者: 宮澤花
第3部 対決
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4 オオカミさんには気を付けて ~千草 -1-

 忍と十津見が二階に上がってしまった後。一人でぼーっとネットニュースを見る。事件のことはまだ報道されていない。

 十二時間経っていないんだ。そう思うと、やはり苦い。一日前には、薫は生きていた。


 あー。もうちょっと酒飲みたい。と思っていたところに、克己さんがバスルームから出て来た。今度はちゃんと服を着ている。

 パパのスウェットを、克己さんが着ているのは何だかすごく不思議な感じだ。

「さっぱりしました。千草さん、入りますか?」

「ああ、十津見先生をお先に」

 一応、お客さんだからね。

「彼は?」

 克己さんが部屋を見回す。私は何となく、天井を見上げた。


「あの。妹と話を」

 それにしても、結構時間が経っているな。すぐに話を終わらせるようなことを言っていたのに。

 うーん。のぞきに行くのもさすがにどうかと思ったけど。そろそろいいよね? やはりですね、丑三つ時の女子中学生の部屋に、よその男性がいるのはよろしくないと思うのですよ!

「ちょっと声をかけてきます」

 私は立ち上がった。

 あー。お酒、回ってるのかなあ。ちょっとクラクラする。


 階段をのぼる。二階は、私の部屋、両親の部屋、妹の部屋、それと小さな物置だ。

 忍の部屋のドアをノックする。

「忍? 十津見先生?」

 声をかける。

「お風呂、空きましたけど。もう話は終わりました?」

 返事がない。


 ただ。中で、ゴソっと音がしたような?

 むむむ、これは。女子寮生活五年半で、鍛え上げられた私の内部のセンサーが警戒音を発していますよ?

 今は、間違いなく。踏み込むべきタイミング!


「開けますよ」

 声をかけると。

「ちょっと待ちなさい」

 という、十津見の慌てた声がしたが。それがセンサーの針を警戒域に跳ね上げた。

 ダメです。待ちません。


 私は勢いよくドアを開けた。

 中は暗かった。と、それだけで。もう十分にアウトなのだが、素早く灯りをつけた私の見た光景は。覚悟を持って入ったにもかかわらず、ほろ酔いの私に眩暈を起こさせるのに十分なものだった。想像するのと、実際に目で見るのでは衝撃度がまた別なのである。


 ピンクの可愛いベッドカバーのかかった妹のベッド。

 そこに何だか。妙にでっかい『異物』が……。

「先生?」

 自分でも。ビックリするほど冷たい声が出た。

「そこで何をなさってるんですか?」

 変に冷静なのが。自分でも、逆にコワイ。


「待ちなさい。落ち着きなさい、雪ノ下千草」

 妹のベッドに横たわる狼藉者は。いつになく早口でそう言った。さすがにこの状況に焦っているらしい。結構。開き直られても困るというものである。

「これは君の今考えているような状況ではない。そこのところをよく飲みこんでほしい」

 とか言っておりますが。それを私は、軽く眉を上げただけで流した。


「それでは、他にどう解釈しろと?」

「落ち着いて聞け」

 と、相手は言う。私は落ち着いてます。落ち着いてないのはアンタ。

「これはだな。君の妹から、眠るまで私にここにいてほしいと頼まれて」


「まああああああああ」

 ものすごく、雄弁な『まあ』が自分の口から出た。

「私の妹が。自分で。図々しくも。そんなはしたないことを。先生にお願いした。って、おっしゃるんですか」

 私の皮肉に。食いつくようにうなずくケダモノ。

「そういうことだ」


「先生?」

 私は笑顔で言った。

「失礼ですが、そういうのを『盗人猛々しい』と言うのではないでしょうか」

「盗人とは何だ」

 向こうもその言葉に反応する。

「言葉に気を付けなさい。失礼だぞ、雪ノ下千草」

「残念ですが。今の先生には、そういうことをおっしゃる資格は微塵もございません」

 私はキッパリと言った。さすがにそれにはぐうの音も出ないのか。相手は黙り込む。


 ところで。うちの妹はどうしてるんだ。

「あの。忍は?」

 と尋ねると。

「さっき眠ったところだ」

 という返事。

「だからだな、ちょうど引き上げようとしていたところで」

 言い訳は聞かん。


 私は部屋の真ん中まで進み入り、今まで十津見が邪魔で見えなかった妹を、のぞける位置まで移動する。

 妹は、変態の横でぐっすりと気持ちよさそうに眠っていた。腕枕とかされて、子猫のように寄り添っている。

 なるほど、私の声がしてすぐに逃走できなかったのはこういうわけね。


「着衣の乱れはないようですね」

 子細に観察してから私は言った。

「当たり前だ!」

 吠えたてておりますが。何を言っても無駄です。痴漢行為なら着衣のままでも出来る。


「私、大変残念です」

 私は感情をこめて言った。

「今まで尊敬してまいりました先生がこんな方だったなんて。本当にショックです」

「皮肉は要らん」

 女子中学生に添い寝したままの変質者は口許を歪めて言った。


「君の心底くらい承知している。教師を尊敬するような殊勝な心根は持ち合わせていないだろう。何だったかな、確か君の通り名は」

 厭な薄笑い。

「百花園の魔女、だったな」


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